妖怪話

2016年4月17日 (日)

こえたな。

「おまえ、こえたな」
久々に会っての第一声がこれでした。
「え? なに、俺が限界超えてるって?
まあね、そりゃ、俺は日夜 自分という枠の中から
抜け出そうとしている誇り高き罪人だからね。
でさ、そんなことはどうでもよくてさ、(日常だからね)
それより、執事がどこに焼きそばU●O隠しているか知らない?
あいつ、最近 俺のカップ麺、隠すんだよ」
おまえなら、どこに隠しているか知ってるだろ、
座敷童、と、俺は続けました。
そうです、深夜の台所で出会った、おかっぱ頭のこの妖怪は、
我が家の座敷童、
俺が病気まみれになっても死なないでいるのは
たぶん我のおかげじゃ、とのたまう妖怪でした。

座敷童は繰り返しました。
「違う、超えたではない。
こえた、だ」
「え、だから限界をでしょ?
そんな偉業は俺にとっては日常で」
「違う、イントネーションが違う。
こ・え・た、だ。
つまり、お前、目に見えて肥えた=太ったな」
「ええええええええっつっつっつ!」
俺は仰天して、一瞬 夜中のカップラーメンのことを忘れて、
目の前で苦渋の表情でこめかみをもんでいる妖怪を見つめました。
「太った?! え、俺、太ったの?!」
「目に見えてな。もう露骨な程な」
「そんなこと誰も言ってないよ?」
「誰も触れていないだけだろうが。あまりにも太ったから。
お前、最近 体重計に乗っているか?」
「乗ってないけど……」
「あご周りについた肉から察するに、
五キロは太ってるぞ。
お前、一時期 俺は体重だけは女性モデル級とか言ってなかったか?」
「言ってたけど……。
え、五キロってあの五キロ?
米とかの五キロ?
え、俺、そんな重荷を背負って生きてたの?
子泣き爺がとりついているとかじゃなくて?」
「違う、そんな気配はない。
単純に太っただけだ」
「……うっそだー」
俺は力なく、否定しました。
「そんなん、うっそだー。
じゃあ、もしかして最近 執事がカップ麺を隠していたのは」
「お前、週に何回くらいカップ麺を食べていたのだ?」
「三回くらい、かな……。
三食とは別にオヤツ的に」
「そんな食生活を送っていたら、太るに決まってるだろうが。
もうここでぐちぐち言っていても仕方あるまい。
現実を見るしかない。
お前、体重計に乗れ」
座敷童はダメ押ししました。

「うっそだー!」
俺は体重計の数字に絶叫しました。
「え、これ壊れてるんじゃないの?
こんな数字 今まで見たことないよ?
嘘でしょ、これは嘘でしょ」
「いい加減に現実を見ろ」
座敷童は威厳をもって俺に説教します。
「お前、ただでさえ病気が多いのに、
これに生活習慣病が加わったら、
さすがの我の加護をもってしても、死ぬかもしれんぞ」
「せ、生活習慣病……」
俺は唖然と聞きなれない病名を繰り返します。
え、だって、俺、痩せの大食いとか言われてたのに、
いまやデブの大食いになってるの?
「痩せるしかあるまいな」
座敷童はしかめ面で言いました。
「お前、これから食生活を改めて体重を落とすしかあるまい」
「えええーっ、カップラーメン……」
「しばらくは食えんな。
五キロ痩せるまでは」
「でもだって、俺、ストイックなダイエットなんてできないよ?
だって、我慢弱いし。
それに運動も無理だよ?
運動に嫌われているから」
「ふむ」
座敷童は少し考えて、
「ならば、食べるダイエットをするしかないだろうな」
「食べるダイエット?
え、ダイエットなのに、食べていいの?」
「食べ物を吟味して、な」
座敷童は俺の腰をぐいぐい押して、書斎へ連れていきます。
「PCでAma●onを開け」
「……開いたけど」
「この本を購入しろ」
座敷童はある本を指定しました。
「こ、これ?
確かに食べられそうだけど……」
俺は震える指でその本をポチりました。

その本:



てなわけで、黒羊男爵はダイエットに挑戦することになったよ!
おかしいね、自分という枠に挑戦していたはずなのに、
なんとその枠が膨張していたという吃驚の現実!
五キロ、五キロか……。
何か月くらいかかるかな……?



以上、ホラ二割程度で。えええー、真実八割って痛すぎじゃない?!
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五キロ痩せるのに、どれくらいかかるのかな?
でも五キロ太るのには一か月かからなかった気がする。
だから誰も言わなかったんだろうし(痛すぎて)
でも、誰かに言ってもらいたかったよ!
座敷童に夜中の台所で説教されるなんて嫌だよ……。
だって見た目はあいつのほうが若いんだよ?
まるでダメな大人がデキる子供に説教されているみたいだったよ。
え? まるでじゃなくて、ダメな大人だって?
ははは……。
いや、痩せれば! 痩せられればすべては変わるはず!
そう信じて俺は、レシピ通りに料理をしています。

2016年2月14日 (日)

普通人一年生。その3。卒業式。

前回までのあらすじ:
 友達の友達の自宅警備員を普通人デビューさせることになったわたし。
 言うまでもなく、俺自身が かなりな野生児で「普通ってなに?」というレベルだが、
 そんなことは今はもうどうでもいい。
 要は自宅警備員に就職活動をさせて、普通人らしく見せればいいんだよ!
 嘘と虚栄と欺瞞とホラと夢に満ちた、男版マイ・フェア・レディが始まった……!

「ついに君もここまで来た」
清書された履歴書を前に、わたしは感慨にふけります。
「はじめは拙者とか言ってた君が、
でありますとか言ってた君が、
履歴書を完成させる日がついにやってきた。
あとは明日、MOSの試験で合格し、
履歴書の資格欄にMOSと記入するだけだな」
「はい! 教官!」
なぜか相変わらずアーミーテイストが抜けない自宅警備員は胸を張ります。
俺はちょっと額を押さえて言いました。
「だから、俺は教官じゃないから。
友達の友達だから。しいて言えば友達みたいなもんだから。
そこは軍隊は止めて。黒羊さんでいいから」
「はい! ……ええと、黒羊君!」

「君は今、まさに自宅警備員を卒業しようとしている」
わたしはちゃぶ台の上の履歴書を手に取ります。
「だが、忘れてはならない。
就職活動は就職するまでが就職活動だ。
最初に言ったとおり、君はこれから100社に応募しなければならない。
つまり、履歴書は100通必要になる。
これは最初の一歩に過ぎない。
だが大きな飛躍的な一歩なのだ」
「なぜ100社に応募しなければならないのですか」
「簡単なことだ」
わたしは短く答えます。
「100社くらい応募しなければ、君を採用しようという企業はないからだ。
職歴なし、スキルなし(まあこれからMOSとるけど)、
つまり誰かによる保証なしという君を採用しようという企業は、
100社に1社あるかないかだろう。
実際、オレの経験では75社に応募して採用にこぎつけたことがある。
それくらい、初心者に社会は厳しい。
だが、チャンスがないわけではない。
ゼロではないのだ」
「……はい」
「俺の今までの教えを覚えているな?
一人称で拙者は止める。
語尾はですますにする。
自宅から一歩出たら、マリアンちゃんのことは口にしない。
会話はよく考えて、返答する。
多少答えが遅くなっても、実直そうに見えるようにふるまえば問題はない。
ヒゲは毎日剃る。
シャツもパンツも毎日洗う。
お母さんにおはようございますと言う。
エレベーターや入室では目上の人から通す。
すみませんではなく、ありがとうと言う。
面接会場では一礼し、着席し、
一生懸命 相手の目を見て答える」
「はい、教官、いや黒羊さんには、たくさんの教えをいただきました」
「その他のいろいろも全部 メモをとっているな?」
「はい」
「全部を最初から完璧にできなくてもいい。
俺が教えたことは、継続することに意味がある。
100社応募して断られ続ければ、心が折れそうになる日もある。
そういう日は、マリアンちゃんを抱きしめて眠れ。
そしてあきらめるな。
あきらめる人は多い。挫折する人も多い。
けれど、あきらめなければ、ある日 道は開く。
必ず開く。
君は妻帯者だろう、お母さんもいるだろう。
君の生涯が実り多きものとなれば、
マリアンちゃんもお母さんも幸せになる。
君の幸せはみんなの幸せだ。
君が自宅警備員を辞めて、普通人となっても、
君の幸せはみんなの幸せだ。
それを忘れてはいけない」
「……はい……!」
「では、自宅警備員君、ここに君の卒業を認める」
俺は履歴書をもう一度チェックし、OKを出して、
そっと自宅警備員に差し出します。
卒業証書を、元自宅警備員は震える手で受け取りました。

「じゃあ、元気でな……!」
俺はアパートの扉を開きます。
「本当に、本当にありがとうございました……っ」
「礼はまだ早い。
就職しても失敗することもある。
そんなときはまた連絡くれ。
二人でどうしたらいいか考えてみよう。
君は一人ではない」
「ありがとう、ございます!」
「身体には気を付けるんだぞ。じゃあな」
もう目の幅涙を流している元自宅警備員に
俺は別れを告げて扉を閉めました。

そして、深く大きくため息をつきました。

「普通人がどんなものか、本当は誰も知らないんだ。
みんなちょっとずつ野生児なんだ。
だから、自分は普通人だと思っていれば、
それでもう、普通人一年生は終わりだよ」
冬の青く澄んだ空には飛行機雲が一筋、跡を残していました。
その線は迷いのないかっきりとした跡に見えました。
でも、その操縦かんを握っているひとは、きっと、
いろいろ迷って悩んで、そうして操縦かんを握ることを選んだのでしょう。
その迷いは、飛行機雲には表れません。
悩みながら道を進んだ後に振り返れば、一筋の直線になっているのです。
人生なんて、そんなものでしょうね。


以上、ホラ九割程度で。
うん、最後のほうの感動的なセリフに至っては全ホラで。
飛行機雲とパイロットの人生がどう関係してるかなんて、
赤の他人の俺にわかるわけないよね。
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人生なんて、好きに生きればいいと思います。
死ぬときに後悔しなければ、それでいいと思います。
だから本当は、自宅警備員で死ぬとき後悔しないなら、
自宅警備員のままでも構わないと思います。
人それぞれです。
ただ、今回は病気のお母さんがいたので、
卒業してもらいました。
卒業できたのは、自宅警備員がお母さんが大好きで一生懸命がんばったからです。
それは俺の功績ではなく、彼の成果です。
あ、あとマリアンちゃんへの愛もあるな。
うん、空気嫁だけにね、
彼にとって、酸素のように生きていくのに必要なんでしょうね。
空気嫁だけに。

2016年2月 7日 (日)

普通人一年生。その2。入学式。

前回までのあらすじ:
 友達の友達の自宅警備員の面倒を見て、
 調教し、社会復帰を目指すことになったわたし。
 えええー、俺自身が「普通ってなに?」ってあんまし自信ないけど……。
 でも自宅警備員は俺から見ても重度の自宅警備員だった……!
 男爵の「普通人講座」が始まる……!

「まあ、いろいろと改善すべきところはあるけど、
とりあえず目標をはっきりさせよう。
目標は『履歴書を書けるようになる』だ。
で、100社に応募して、就職し、お母さんを安心させる。
これだな」
わたしの断言に、
自宅警備員は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えます。
「しゅ、就職でありまするか……。
履歴書……。
拙者はそのようなことは考えたこともなく」
「うん、そうだろうと思ってた。
でも、もうその現状維持の思考回路は捨ててください。
お母さんが倒れている現在、
君しかこの家を支えられる人間はいないので、
パラサイト的な、自分に都合がイイ的な思考回路は
この際、ドブ、もしくは水洗トイレに捨ててください」
「せ、拙者にはとうてい無理であります……!」
拙者は近所のコンビニに行くのが精いっぱいで、という
自宅警備員の発言に、俺は微笑します。
「だいじょーぶ、だいじょーぶだって!
意外と他の人だって、普通って何かわかってないんだから。
君から見たら、俺は普通に見えるでしょ?
でも異常だから。俺、君以上の異端児だから。
やれることができれば、履歴書も就職も大丈夫だから」

「まずは口調から変えよう」
わたしは持ち込んだホワイトボードに朱書きします。
「基本の一人称は「拙者」ではなく「俺」。
目上の人と話すときは「わたし」。
それから語尾は、「ですます」で行こう。
「あります」は以後 禁止」
「せ、せっ」
「お・れ。わかった? 俺って言ってみて」
「お、俺は、こんなの絶対、無理であり」
「ありますではなく、無理です、だよね。さんはい」
「俺には無理です……」
「大丈夫、慣れの問題だから。
これからはマリアンちゃんと話すときも俺で行こう。
たぶん、そのほうがマリアンちゃんも安心するよ」
「そ、そうで、すか……」
「君に究極の極意を教えてあげよう」

俺はホワイトボードに大きく書きます。
「君は内面を変える必要はない。
自宅警備員のままで構わない。
つまり、マリアンちゃんの旦那のままで、ぜんぜんOK。
ただ、外見と言動、行動を少々修正するだけだ。
要するに、潜入スパイみたいなもんだね。
今日が君の普通人入学式、そして明日が卒業式だ」
「えっ、一日で卒業で、すか」
「うん、そう」
俺は再びにこやかに微笑します。
「その代わり、今日一日で、普通人になってもらいます!
早速、履歴書を書きましょう。
君、今までに就職したことは?」
「……ないでありま、ないです」
「うん、そうだと思ってた。
でも大丈夫、経験がなくても、最終兵器があればなんとかなる。
君、なにか資格持ってない?」
「硬筆三級なら……」
俺の眉間に皺が寄りました。
字が綺麗なのはいいけど、もっとこう、履歴書に書ける資格が欲しい。

「うーん、Office系のソフト、ExcelとかWordとかを触ったことは?」
自宅計警備員の顔が初めて輝きました。
「Excelなら得意であります、得意です」
「お、いいね! マイクロソフトの認定資格・MOSが取れそうじゃない。
Excel、ちょっとやってみてよ」
「はい!」
警備員はPCを立ち上げると、Excelの新規ブックを作り、新規シートに、
「できたです!」
円を三つ三角形に並べて描画してみせました。
「えっ、これなに? 表計算じゃないの?」
「ミッ●ー●ウスです!」
「おまえ、一回死んで来い!」
俺はホワイトボードで自宅警備員の頭を殴りました。


以上、ホラ九割程度で。
いや、Excelでも絵は描けるけど、
オフィスで求められてるのはそーゆーんじゃないでしょ……。
しかし、俺にも時間はないのです。
他にやることもあるんで、自宅警備員にばかり時間を割いていられません。
なにより、肋間神経痛が出て、病院に行かねばならないのでね。
痛い、痛いです。胸が痛いです。物理的な意味で。
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とりあえず、MOSを取らせる予定ですが……。
そうですね、絶対参照と相対参照を叩き込んで、
関数使えるようにして、グラフ書けるようにすればなんとか。
自宅警備員とソフトウェアは相性が悪くないはずなんで、
どうにかなるんじゃないでしょうか。

2016年1月31日 (日)

普通人一年生。その1。

前回までのあらすじ:
 ひょんなことから(ほぼ事故)→詳しくは妖怪話の「友達の友達。」をご覧ください。
 筋金入りの自宅警備員を社会復帰させることになったわたし。
 えええー、俺自身が社会復帰してるかどうか怪しい野生児なのに、
 あんな重度の自宅警備員を社会に放つことができるの……?!
 男爵の葛藤の毎日が始まった……!

「つまりだね、まあ、君はわたしの友達の友達だから、
友達みたいなもんなんだけど、
このままいくと君の人生は、簡単に言えば、
ツミ、つまり終わりということになるので、
わたしが君を社会復帰させることになったわけなんだよ」
俺がイヤイヤ切り出すと、
正面に座っている警備員は不思議そうな顔をします。
「拙者には話がいまいち見えないであります。
なぜ終わりなんでありまするか?」
「実際問題、お母さんが倒れて、
生活が困窮してるわけでしょ。
今はまあお母さんが復帰すれば何とかなるかもしれないけど、
お母さんは君よりも早く死ぬのよね、普通に考えて。
となると、お母さんが亡くなった後、
君はどうやって生きていくの?」
「それは考えたことがありませんでした……!」
「え、本当に? 一度も?
ちょっと君の危機意識って希薄過ぎない?
空気における窒素の割合くらい薄くない?」
「しかし拙者はずっとマリアンちゃんと生きていくつもりで」
「マリアンちゃん?」
「拙者の嫁であります」
自宅警備員は誇らしげにアニメの抱き枕を指さしました。
「拙者は、妻帯者でありますので」
「そのキャラ、マリアンちゃんっていうの……あ、そう……」
おまえ、この状況の空気読めよ。空気薄いのかよ、空気嫁だけに。
俺はもう、前途の多難さを思って、倒れそうになりました。


すみません、今週はもうこれくらいにさせてください。
ホラは九割程度です。
いや、俺自身、かつては自宅警備員みたいなもんだったんですけど、
なんとか更生してまあ、生きてるわけなんですけど、
現役で本気で自宅警備員やってる人と話すと
ハンパなくHP削られますね。
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確かに俺は今まで、重度のファッション・テロリスト、
食物を兵器に変えるフード・アサシンなどを更生させたことがありますけど、
自宅警備員は直球でキツいわ……。
とりあえず、目標は履歴書を書く、ですかね。
まずは「拙者」をやめてもらわないことには、
普通人になれませんね。

2016年1月24日 (日)

友達の友達。(下)

どうもこんにちは、左腕が上がらない黒羊男爵です。
なんかね、朝起きたら、左胸~左腕にかけて激痛が走ってね、
腕が上がらないんですよ。
五十肩? いやちょっと待って、それは早すぎるじゃない?
でも十五歳の誕生日に、神経痛になった俺なら、ありえなくもないのか?
そんな疑問を抱きつつ、今週のお話をどうぞ!

前回までのあらすじ:
「友達の友達は友●じゃろうが」というタモ●式論理で、
妖怪友達(?)ぬらりひょんに頼まれて、
近所の、子供が困窮しているというアパートを
食糧をもって訪問することになったわたし。
なんでもお母さんにはぬらりひょんは見えていないが、
息子さんにはぬらりひょんが見えてるから、
訪問しても大丈夫だ、とのこと。
めんどくせえ! 行きたくねえ!
でも子供を見捨てるのは、人としてどうよ?
仕方なく、親子丼の用意をして家を出た黒羊男爵だったが……?!

「二階の三号室……ここか」
俺はぼろっちいドアの表札を確認します。
「お母さんと息子さんの二人暮らしなんだな」
「そうじゃ。で、お母さんんが体調を崩してしまい、
生活が成り立たなくなったのじゃ」
「それはいかんな」
なんとかせねば。俺は呼び鈴を押します。
室内から小さく、
「……はい」
ん? なんか低い声が聞えたけど?
「ほらほら、さっさと名乗るんじゃ」
ぬらりひょんに催促されて、
「すみません、ご近所に住んでる黒羊男爵と申しますが、
えー、まあ、友達の某ぬらりひょんに、
友達の友達は●達だから、救援に行けと頼まれまして。
ええと、息子さんですか?
ぬらりひょんが見えてみますよね?」
とりあえず、信用してもらうにはぬらりひょんを見てもらうしかないので、
ぬらりひょんを前面に押し出します。
ぬらりひょんは、ドアに向かって、
「わしじゃよ、わし」とオレオレ詐欺のような挨拶をします。
「ああ、ぬらりひょん氏……」
室内の声がちょっと明るくなり、
「どうぞ」
とドアが開かれました。
「!」
俺は絶句して、玄関に立ち尽くしました。

「……――おい、ぬらりひょん」
「なんじゃ? ほら、さっさとご飯を」
「ちょっと待てええ! おまえ、息子さんがって言ったよな?
子供がって言ったよな?!
どういうことだよ、このひと、立派な成人男性じゃねえか」
眼の前には男性がひとり立っていました。
「じゃから、息子さんじゃ。
わしゃ、一度も小さな子供とは言っておらんが?」
「このひと大人だろ! 生活くらい、自分でなんとかできるだろうが!」
「なんの話かわかりませんが、拙者は生活なんて無理でありまするよ」
男性は言いました。
「拙者は自宅警備員でありますので。
ぬらりひょん氏、このひとはなんでありまするか」
「わしの友達じゃ。つまりおまえさんから見たら、友達の友達じゃ。
つまりおまえさんの友達じゃな。食糧を持ってきたのじゃよ」
「そういわれて、親子丼の用意してきたけどな、ちょっと待て」
「親子丼……母上の好物でありまするな。
ありがたい、ささ、どうぞおあがりください」
「もうぜんっぜん話が通じねえんだけど、この自宅警備員?!」
俺は怒鳴りながら、その部屋に踏み込みました。

「で、お母さんは?」
「こちらであります」
警備員にワンルームの隅のベッドに案内されました。
アニメの抱き枕を傍らに、痩せた女性が横たわっていました。
「母上、拙者の友達が助けに来てくれたであります」
警備員に言われて、俺はお母さんを安心させようと自己紹介します。
「はじめまして、黒羊男爵です。息子さんの友達、みたいなものです。
どうですか、お加減は? 食事、食べられそうですか」
「……お友達、ですか」
お母さんは涙を流しました。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
その涙で、俺は腹をくくりました。
「――いえ、困っているときはお互い様です」
あとはもう何も言わずに、
俺はまず持参した水筒から温かいミルクティーをついで
お母さんに差し出しました。
お母さんは喉を鳴らして嬉しそうにミルクティーを飲み干しました。
「じゃあ、キッチン、お借りしますね」
俺は腕まくりしました。

「まあ、なんだ、ぬらりひょん」
アパートからの帰り道、俺は言いました。
「友達の自宅警備員という生き方は、俺は別に何とも思わない。
俺自身が自宅警備病人みたいなもんだし。
人生なんか自分の好きに、後悔しないように生きればいいと思う。
ただなあ、お母さんをあんな状態で放置しているのは
いかがなものかと思うぞ」
「彼なりに、看病はしておったのじゃ」
ぬらりひょんは言いました。
「お母さんのそばの抱き枕、あれは彼の宝物じゃ。
あれがあれば元気になるのではないかと、
彼はそう思って、お母さんのそばに置いておいたのじゃ。
まあ、大丈夫じゃよ、
彼はもうすぐ、自宅警備員を卒業するのじゃから」
「あ、そうなの? そしたらお母さんの心労も減るかな……」
「じゃから、よろしく頼むわ」
「は?」
「彼の社会復帰。おまえさんの腕にかかっておるぞ。
よろしくな」
「ちょ、ちょっと待てええ! え、それ俺が面倒みるの?
なんで、どうして!」
「何度も言っておるじゃろうが」
ぬらりひょんはいい笑顔で言いました。
「友達の友達は友●じゃからの。
おまえさんの友達じゃ、しっかりな」
「嘘だろぉ!」
俺の絶叫がむなしく、寒空に響き渡りました。


以上、ホラ九割程度で。
とりあえず、ええと、まずは履歴書の書き方からですかね……。
他にもやることいっぱいあるけど……。
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ちなみに激痛が走る左腕ですが、
執事に「俺、新しい病気になったかもしれない」と言ったところ、
「ああ、左腕でしたら、今朝 お目ざめになる前にうかがったところ、
なぜか空中に垂直に腕を突き出して寝ておられたので、
単なる筋肉痛だと思われますが」
と言われました。
「は? え、どういうこと」
「北斗●拳のラ●ウの最期のシーンのように、
腕を高く、突き出しておられましたよ」
執事は笑いをこらえながら説明しました。
え、世紀末覇●みたいな寝相? そんなん、どんな寝相なの?
わからない、自分で自分がわからないです。
ちなみに、その時見ていた夢は全然 世紀●覇者とは関係ない夢でした。
こんなことってあるんですね。
もし
「わたしもその寝相やったことある」「俺もあるぜ」という方がいらしたら、
コメントをお願いいたします。
この寝相が自分一人だけだとは思いたくないです。
腕はまだ痛いです。当分、痛いかもしれません。

2016年1月17日 (日)

友達の友達。(上)

どうもこんばんは、黒羊男爵です。
ええ、生きてます。生きてるだけです。
今晩 飲む薬が6種類、10錠以上あり、
もはや身体のどこが悪いのか、俺自身にもわかりません。
もしかしたら、身体じゃなくて、頭が悪いのかもしれません、
と執事が言っていました。
無言で蹴っておきました。

今日の昼間、やっぱり寝込んでいた私は、
「久しぶりじゃな~」
と、見たくない顔を天井に発見しました。
「……何の用だよ、ぬらりひょん」
そう、着流し姿の老爺の格好をしたこの妖怪は、ぬらりひょん。
人の家に上がり込んで
タダメシを食っていくことを生業としている、
役に立たないことにかけては日本一の妖怪です。
「わしとおまえさんは友達じゃろう?
やはり気になってな」
「絶対、違う! おまえ、絶対 なんかメンドクサイこと
抱えてきただろ!
おまえが友情を語るなんて、厄介事の前振りでしかない!」
絶叫したわたしに、ぬらりひょんはけらけらと笑い、
「そんなことはない、友情は大切じゃよ。
友達がひとりもいないような潤いのない人生はつまらんじゃろうが」
と言いました。
「一人しかいない友達がおまえだけだったとしたら、
俺の人生には潤いどころかオアシスすらない。
灼熱のサハラ砂漠だ。
おまえとの友情なんて、丁重にお断りする!」
「とにかくじゃ、友達の友達は友●じゃというじゃろ?
ほら、なんといったか、前にテレビで男がそう言っておった」
「その番組、もう終わってるけどな!」
「その流れで行くとじゃ、わしの友達は、
おまえさんの友達じゃな?」
「付加疑問文で訊くなああ! もう嫌な予感しかねえええ!」
「友達、じゃな?」
「…………赤の他人よりちょっとだけ、マシって感じくらいじゃねえか」
「友達、じゃな?」
「…………友達の定義が根底から揺らぐ気がするから、
まあ、知り合い、かもしれねえな……」
「友達、じゃな?」
「…………しつけえな! おまえ、俺がウンって言うまで、
この問答を永遠に繰り返す気だな?!
わぁったよ、友達だよ、おまえの友達は俺の友達だよ!」
「それならいいんじゃ。
ほら、じゃあ、あの家じゃから」
ぬらりひょんは、節ばった指で窓越しに近所のアパートを指さしました。
「あそこの、二階の三号室じゃから。
よろしくな」
「は? なにが? え? 友達からの話の流れがもう、
ぜんっぜん見えねえんだけど」
「じゃから、三号室じゃ。
早くせんと、倒れてしまうかもしれん」
「誰が?」
疑問符を頭一杯に抱えたオレにぬらりひょんは笑顔で言いました。
「わしの友達じゃ。
つまり、おまえさんの友達じゃな。
差し入れは、そうじゃのう、チョコレートケーキか
バナナケーキがいいかもしれんな。
まずはカロリーの取れるものを、な。
その次に、親子丼プラス赤だしのお味噌汁くらいの、
お腹に優しい美味しいご飯がいいじゃろうな」
「相変わらず、おまえ、ウチの冷蔵庫の中身を
ピンポイントで狙ってくるな。
なんで俺が昨日 バナナケーキを焼いたこと知ってんの?
ホント、スゲーよ、そののぞき根性だけは認めてやるよ」
「お茶はアッサムのシロニバリをミルクティーでいただくのがよいな。
おまえさん、春に向けて新しい水筒を買ったばかりじゃろ?
さっそく使うと良いわ」

「えーっと……」
俺はぬらりひょんの話をまとめます。
「つまり、あのアパートの二階の三号室に
おまえの友人がいて、食に困っているから、
俺にバナナケーキと紅茶と親子丼の用意をして訪問しろ、
ってことか?」
「そうじゃ。まったく話が長いのう。
頭が悪いんじゃないのか、おまえさん」
「うるせええ! てめえにだけは言われたくねえ!
で、大丈夫なのかよ?」
「なにが」
「突然、見ず知らずのオレが食料をもって訪問して、
三号室の住人に怪しまれたりしないのか?
普通、怪しむだろ」
「大丈夫じゃ。友達の友達は友達じゃと言えばよい」
「つまり、俺はおまえの友達だと?」
言いたくない。そんなこと言いたくないけど。
「そうじゃ、そういえば大丈夫じゃ」
「なに、その住人もおまえが見えてるの?」
「見えておらん」
「――見えてねえのに、友達とか言っても無理だろうが!」
「お母さんには見えておらん。
息子には見えておる」
「あー……、そういうこと」
俺はここで初めてベッドから起き上がり、
外出の支度を始めました。
「子供からのSOSを見過ごすわけにはいかねえな。
仕方ねえ、行ってやるよ」
「まあ、当然じゃな、
友達の友達じゃからな」
「当然とか言ってんじゃねえ! てめえはなにもしてねえだろうが!」
こうして、俺は親子丼の準備をして、
近所のアパートを訪問することになったのでした。


以上、ホラ九割程度で。
いや、子供が困窮していたら、無視するわけにはいかないでしょ。
いずれはちゃんと行政に助けてもらうにしても、
とにかく食べ物に事欠いていたら、まず食べないと。
わたしは別に優しい人間じゃありません。
もしわたしのことを「優しい」と思われたのなら、
それは逆に世間が「からい」だけだと思います。
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ぬらりひょんがいいやつになるのは、
俺的には解せぬ! ですね。
だってあいつ、飯をたかりに来ただけじゃんよ!
はてさて、アパートではなにが待ち受けているんでしょうか。
よろしければ、またここで次回 お目にかかれれば幸いです。

2015年10月 4日 (日)

『普通』の重み。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。
今日は「ごく当たり前・普通」とはどういうことか、
考えてみたいと思います。

そもそも、なんでこんなことを
考え始めたかというと、
「そりゃ、おまえ、
わしは『普通』の重さを教える妖怪だからじゃ」
と、今朝 また飯をたかりにやってきた
妖怪友達の ぬらりひょん が言ったからです。

俺は今朝、熱を出して腹を下して、
もう鬼のような状況になってました。
厳戒態勢の戦時下にありました。
「え、なんだって?」
トイレの扉越しに外に立ってるぬらりひょんに訊きます。
「どういう意味?
それはこの状況の俺に言わなきゃならないこと?」
「おまえさんがわしに訊いたんじゃろが。
なんで飯をたかりに来るのか、と」
「そりゃ訊くでしょ。聞きたくなるでしょ。
この猛烈な下痢ラ戦時に、ふらっとやって来て
『今朝は鮭のハラミ焼きが食べたいのう』とか言われたら、
『白米三杯と大根と油揚げのお味噌汁付きで』とか言われたら、
おまえはなにをしにウチにきたんだと、
そりゃもう訊きたくなるのが当然でしょう。
仮にも友達という立場にある存在が、
そんなことをこんな俺に言ったら、
問いただしたくなるのが、人の心ってやつだろが!」
「だから、わしはそれに答えたんじゃ」
ぬらりひょんが言います。
俺は苛立たしい気持ちを勢いよく水で流して、
ようやくぬらりひょんと対面しました。
「手は洗ったかの?」
「洗ったよ、殺菌ソープで洗ったよ!
失礼だな!」
いっそおまえの脳ミソを殺菌したいわ。
ていうか、妖怪に脳ミソはあるのか?
こいつの耳と耳の間は空洞なんじゃないのか?

「だから、それがわしがいる意味、存在意義というやつじゃ」
ぬらりひょんはあっさりと言います。
「だから、なにが?
飯をたかりに来ることがか?」
「それはわしの存在意義の象徴的な行為なんじゃ。
表出なんじゃ。
わしが飯を食う、それは単純に飯を食うという行為ではなく、
もっと深く深く考えられることじゃよ」
「は? 言ってる意味がわからない。
いてて、あ、まだ腹が痛いな」
「じゃから、おまえさんはいま現在 痛感しているじゃろが」
「なにを?」
「普通の、普段の生活のありがたさを、じゃよ。
普通に健康(まあおまえさんの場合は健康というより平穏かの)な状況の
ありがたさが、よくわかるじゃろ、
こうやってそれが崩れてみると」
「そりゃわかるが。
それとおまえの飯たかりと何の関係か?」
「ご飯を食べるという行為は、食べられるという行為は、
恵まれた日常生活の象徴なんじゃ。
世界ではご飯を食べられない状況下にあるひとたちがたくさんおる。
この国でも、白米など食べられない時代もあった。
わしがやってきて、飯を要求できるということは、
おまえさんにはご飯をちゃんと食べられる生活・
『普通』があるという証明なんじゃ。
わしゃ、飯がないところには行かないからの」
「……飯があるところに来るってことか?」
「そうじゃ。わしが来るということは、
その家には『普通』があるということなんじゃ。
じゃが、『普通』の価値に自ら気づく人間は少ない。
恵まれた生活を送っていると、
それが当然で、感謝などしやせんのだ。
そういうところへ、わしは行く。
行って、飯を要求して、
おまえさんが今いる場所はありきたりじゃない、
貴重な『普通』がある場所なんじゃと教えるんじゃよ。
それが、わしという妖怪の存在意義じゃ」

俺は長々と語ったぬらりひょんをマジマジと見つめました。
着流し姿の貧相な小柄の老人って感じの、
何の力もない、
ウチに来ては飯を要求するだけのこの妖怪の存在意義が、
そんなにも高尚で意義深いものだったとは。
ただ単に、飯をたかる、その裏に、
こんな意味があったとは。
今まで思いもしませんでした。
言われるまで、まったく気づきませんでした。
それくらい、ぬらりひょんはウチに来ては、
自然体で飯を要求していたのです。
『普通』があると認めた我が家で。
もう長年、ぬらりひょんと付き合ってましたが、
こいつの性格はよく知っていましたが、
こんなことを言われるとは思いもしていませんでした。
俺はしばし瞑目し、そして言いました。


「――……今の台詞、全部、適当に言っただけだろ?」


「……なんのことじゃ?」

「てめえ、俺をなめるんじゃねえ!
何年の付き合いだと思ってるんだよ、
おまえがそんな殊勝な妖怪じゃないってことくらい、
わかってるわ!
おまえはただ単にただ飯を要求するだけの、
人の家の飯が食いたいだけの妖怪だろうが!
そんな高尚な理屈をつけて、
結論としては、
『鮭のハラミ焼き+白米+味噌汁』を食べたいだけだろうが。
だいたい、ウチの冷蔵庫に鮭のハラミが入ってるって、
知っているから、ウチに来たんだろうが。
おまえが来るタイミングなんてなあ、
ウチに贈答品か、ちょっと奮発した食料品が入荷された時なんだよ!
なにが『普通』の価値だ。
だったら、晩飯におかずがなくておにぎりで済ませる時にも来てみろ。
ウチの『普通』=鮭のハラミレベルだと思うなよ。
何にもない時には、絶対に来ない・来たことねえじゃねえか!」
「……チッ」
ぬらりひょんは思いきり舌打ちしました。
「おかしいのう、無敵の呪文じゃったのだが。
今までの家はだいたいこれで落ちたのじゃが」
「おあいにく様だな!
こっちは言葉を操ることにかけてはそこそこ実力があるホラ吹きだ!
そうそう簡単に、他人の舌先で踊ったりしねえわ!」
「まあ、バレておるなら、もういいわ。
さ、鮭のハラミと白米と味噌汁を出せ」
「あ、本音を言いやがった!
もう容赦なく面と向かって本音を言いやがった。
嫌だね、鮭のハラミは俺のおかゆに入れてもらう。
おまえに食わせる飯はねえ!」
「かゆに入れるじゃと?
北海道産の銀鮭のハラミを?!
ありがたく焼いて白米で食べるほうが供養になるわ」
「なんの供養だよ?!
俺がおまえを供養したいわ!
見送りたいわ!
だいたいなあ、おまえのろくでもない考えなんて」



以上、ホラ九割程度で。
この後、俺とぬらりひょんは鮭のハラミをめぐって、口汚く罵り合い、
最終的には俺が再びトイレに籠城するまで、口論は続きました。
お互い、いい歳した大人がね。
(ぬらりひょんに至っては千年単位で生きてるけど)
もうホントね、あいつもあいつだけど、俺も俺だわ。

え、『普通』の重みですか?
あるかもしれないけど、ないかもしれないですね。
だってそれが普通ってことでしょ。
ぬらりひょんや俺の話す言葉を真に受けちゃいけないよ!
まあ、そんなことは、このブログを読んでくださってるみなさまは、
すでによおくご存知の通りですね。
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最終的に、ハラミは執事がメイドさんと食べました。
俺の胃腸はもうハラミの脂分すら受け付けられる状況じゃなくなってました。
早くお腹が治るといいな。
そしたらもう少し、いいものを食べて、
ぬらりひょんにも優しくなれるかもしれません。

2015年7月12日 (日)

幸運の透明のビニ傘。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。
今日は暑いですね。
三十度くらいイってそうです。
こうも突然、暑くなると身体がついていけません。
当然、寝込みがちになります。
それで、寝込みながら、
「八月の試験ヤベえ」とか考えつつ、
こんなに急に暑くなって、
あいつ、大丈夫かな、と心配しています。

あいつ、暑いのダメそうだったからな。
梅雨だから出てきたって言ってたし。
湿度がないと、固まっちゃうんじゃないかな。
大丈夫かなあ……泥田坊。
え、泥田坊って誰かって?
最近はあんまり見かけないですけど、
泥田坊は田んぼにつきものの妖怪です。
先日、友達になりました。

ええと、このブログ読み始めたばかりのビギナー様は
ご存知ないかもしれませんが、
俺には妖怪の友達がいます。
人間の友達ももちろんいますが、
一般に「妖怪」と呼ばれてる・人間以外の存在の
友達もおります。
友達にはメジャーな妖怪から、すげえレアな妖怪までいて。
メジャーどころでは、 飲み友達の一反木綿 とか、
悪友の ぬらりひょん とかがいますが、
レアどころでは、 露流し とか あめふらし とかがいます。
で、先日 雷雨の日に、俺は新しい妖怪と出会ったのでした。

そん時、俺は急な雷雨の中を
買ったばかりのマンガを抱きながら歩いていました。
走ることはあきらめていました。
実際問題、俺は歩行速度も疾走速度もさして変わらないし。
ただ、この 黒子●バスケの特別版(●●お●でとう号) が濡れないといい、
と思ってました。
だから、必然的に、俺はずぶ濡れになってました。
こんなことなら、執事に迎えに来てもらえばよかったかも。
いや、マンガや本など自分の趣味に使用人を使うのは、
俺のポリシーに反する。
趣味のことは自分でやるから、楽しいのだ。
こうやって手に入れた特別版は、
きっと思い出の残るマンガになるだろう。
そう思ってました。

そうやってずぶ濡れながら、道を急いでいた俺は、
角を曲がった途端、
「……なにしてんの?」
思わず問いかけていました。
すると、逆に、
「なにしてんの?」
と言われてしまいました。
「なにって……マンガを読もうと思って家へ急いでいる」
と答えると、それは、
「もうずぶ濡れだね、うらやましいなあ」と言いました。
そして、側溝にずり落ちていきました。

それは、膝くらいの大きさの泥人形でした。
ジンジャービスケットみたいな形です。

それは明らかに日本語を話していましたが、
明らかに人間ではありません。
が、俺は物事に特に先入観がない性格なので、
「下半身が流れていきかけてるけど、大丈夫?」
と訊きました。
それは、「ううん」と首を振り、
「梅雨が嬉しくて、たくさん濡れたくて溝に入ったけど、
出られなくなったの。
もう形を保っていられないかもしれないの」
と悲しげに言いました。
「え、出たいの?」
「うん、もう出たいの」
「じゃあ、手伝おうか?」
「え、いいの? ぼく、泥田坊だよ」
「泥田坊って初めて見たけど、妖怪でいいの?」
「うん、いつもは田んぼに住んでるの。
今日は雨に浮かれて遠出して、失敗しちゃったんだ」
「ああー、慣れない道だと大変だよね。
で、君って人間が触って大丈夫な妖怪?
なんかうつったり、壊れたりしない?」
「大丈夫、大丈夫」
そう言うので、俺は「じゃあ、ちょっと失礼して」と
マンガを見知らぬ家の軒先に置き、
泥田坊の肩をつかみました。
冷たくて、ぬるりとしてました。
当たり前だよね、泥だもんね。
掴みづらい肩をどうにか持って、
「いくよ。せーの!」
下半身の輪郭がぼやけた泥田坊を側溝から救出しました。

「うわあ、すごいことになった!」
俺の両手は泥だらけです。
「ごめんね、戻すよ」
泥田坊の手からカタツムリのような触手が出て、
俺の手をぬぐいました。
魔法のように、泥が全部吸い取られて、手はきれいになりました。
「すごい便利だなー、君は」
俺は感嘆します。
「もしかして、Gパンの泥はねとかも取れる?」
「取れるよ」
泥田坊の触手がのびて、俺のGパンの裾に触れます。
泥も水はねもきれいに取れました。
泥汚れって取りにくいんだよね。
ちょっと感動。
妖怪で役に立つ能力持ってるのってレアだから、
なおさら感動。

「あ、そうだ、俺、マンガ読もうとしてたんだった。
帰り道、送っていかなくて平気?」
「大丈夫。もう動ける」
「そう、ならよかった。じゃあね、バイバイ」
俺が手を振ると泥田坊が、
「待って」
と言いました。
「生命を助けてくれたお礼がしたいの」
「え、もう十分だけど。Gパンの汚れも取ってくれたじゃん」
「ううん、そうじゃないの。
そのマンガ、大切そうなの。濡れるといけないから、
これをあげるの」
泥田坊は自分の胸に手を突っ込むと、
どう考えても収まるはずがないサイズのビニ傘を取り出しました。
「これをあげる。人間は雨の日にはこれを使うんでしょ。
田んぼに捨てられていたの」
「うわああ、すごいな!」
俺は泥田坊の収納能力と性格の良さに感動します。
ぬらりひょん、おまえウチに来て飯をたかってばかりだ、
ちょっとは泥田坊を見習え。

「水も取ってあげる」
泥田坊の触手がまた動くと、ずぶ濡れだった俺の身体から
きれいに雨水が吸い取られました。
「ありがとう、いや、マジで助かったわ!」
俺は乾いた服にビニ傘をさし、泥田坊にお礼を言いました。
これでマンガはもう安泰である。
「ううん、いいの。お互い様なの」
泥田坊はゆっくりと向きを変えて、
「じゃあね」と言ったので、
「うん、俺、黒羊男爵っていうんだ。
そこの先に住んでるよ。
機会があればまたな!」
別れのあいさつを交わすと、
泥田坊は田んぼを目指して去っていきました。
俺は雨の中、頭上のビニ傘を見あげました。
どこにでも売ってる、たぶん百均かなんかの透明なビニ傘。
でも、それは、俺にとって、
友達からもらった大切な宝物になったのでした。


以上、ホラ九割程度で。ホラ度が高いと精神が安定しますね。
現実があまりにも残酷なことになってるからな!
(※注:主に八月に中小企業診断士試験を受ける件で)
久々に妖怪話ができて、満足です。
泥田坊はいいやつです。
素直だし、親切だしな。
ホント、マジでちょっとは見習えよ、ぬらりひょん!
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いるわけない、よりも、いるかもね、のほうが楽しいと思います。
確率としては同じようなもんだけど、
妖怪くらいなら、いてもいい。
ポジティブなほうが楽しいよ!
雨の日に田んぼを通りかかったら、泥田坊を探してください。
膝くらいの大きさのちっさな妖怪ですが、
とっても大きな心を持っています。
きっと通りかかったあなたの友達になってくれると思います。

2014年11月23日 (日)

お手紙着いた。

どうもこんにちは、
先週から寝込みっぱなしの黒羊男爵です。

「畜生、この風邪 なかなか治んねえなあ」
せき込みながら、天井を見上げて
世界を呪っていたら。
天井から着物の腕が出てきました。

な、なんだよ?!

ギョッとして見直すと、
腕は着流しの胸につながり、
胸は頭につながり、
「……ぬらりひょんじゃねえか」
驚かすなよ、とわたしは天井から出てきた妖怪に文句を言いました。

そう、こいつの名前はぬらりひょん。
他人の家にあがりこんでご飯を食べていくという
まったく何の役にも立たない仕事(?)をしている妖怪です。
露流しなんかと比べると、明らかにレベル低い仕事だし、
(露流しという妖怪については下記日記参照)
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2014/08/post-eb69.html

一反木綿に比べると、男気というかカッコよさが劣る。
(一反木綿と飲みに行った話は下記日記参照)
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2014/08/post-1012.html

じじいの容姿をしているから、悟っているのかと思えば、
そうでもなくて、
オレと一緒にカタツムリに夢中になって、写メしたりする。
ぬらりひょんは、くだらないことを一心にやっている、そういう妖怪です。

そんなぬらりひょんが、天井から出てきて、
ベッドサイドにやってきました。
「で、今日のおやつはなんじゃ?」
「第一声がそれかよ?!
病人、目の前にしておかしいだろ。
それ以前に、友達に言うセリフかよ。
単なる たかりだろうが、おまえ!」
「これがわしの仕事なんじゃ」
「知ってるけど! わかってるけど!
状況を見ろよ、考えろよ。
いまオレはおやつなんか食べられる状況じゃねえんだよ。
喉が痛くて固形物なんて食べられないの!
おやつどころか、おかゆしか食ってねえわ、
ここんところ」
ぬらりひょんは腕組みして顔をしかめます。
「おかゆはおやつとは言えんのう。
チェンジ」
「チェンジできるか!
オレがおまえをチェンジしたいわ」
わたしはぜいぜい言いながら怒鳴りました。

なんでよりによって、こんなときにこんなやつが。
体調のいい時なら一緒に遊べるけど、
いまはそんな状況じゃない。
露流しなら、涙の重さを食べてくれるから、
ちょっとは楽になるんだけど、
ぬらりひょんは、本当に飯をたかっていくだけの妖怪だから、
何の役にも立ちません。

「そうじゃ、お前宛に手紙を預かってきたんじゃった」
突然、ぬらりひょんがそう言って、
着流しの懐から巻紙を取り出しました。
俺は受け取って顔をゆがめます。
「……なんだか、微妙に温かいんだけど、この手紙」
「大事に大事に何日も懐で温めておいたからのう」
「え、それっていやがらせ?
遅配してる時点ですでに十分いやがらせの領域で、
じじいの体温で温めている時点で、
必要以上にいやがらせの領域に入っている気がするのはオレの気のせい?」
「気のせい、気のせい」
ぬらりひょんは断言すると勝手に椅子に座り、
執事が置いておいた枕もとのアイソトニック飲料を飲みました。
まあいいけど、自由すぎるだろ、おまえ。

ベッドで座り込み、手紙を俺は膝の上に広げました。
「達筆すぎて読めねえ……」
なにやら墨の文字でズラズラと書いてありますが、
行の最後の「候」(そうろう)しか読めない。
なにがどうなってんの?
ていうか、この手紙、
「誰からの手紙だよ?」
尋ねるとぬらりひょんは、あっけらかんと、
「露流しじゃ」
と答えました。
「あいつは携帯を持っておらんからのう。
青森で会ったときにお前宛の手紙を託されんじゃ」
「内容がまったくわかんねえんだけど」
「それでいいんじゃ」
ぬらりひょんは飲み物を飲み終わり、
オレの秘蔵のMe●y'sのチョコレートの箱を
本棚の奥から取り出してむしゃむしゃ食べ始めました。
オレはどうにか手紙を読もうとながら言います。
「いや、よくねえだろ。
なんか急ぎの用件だったのかもしれないし」
「預かってからもう何日も過ぎとるで、
急ぎの用件だったんなら、なおさら、もう内容に意味はないんじゃ」
「てめえのせいだろ!」
なに他人事みてえに言ってんだ。
それから、チョコを食いすぎだ。
もうほとんどなくなってるじゃねえか。

「手紙なんていうものはな、
あげることに、もらうことに意味があるんじゃ」
ぬらりひょんはチョコを食べ終わり、
オレの秘蔵のキャラメルミクルティーをポットに用意しながら
言いました。
「おまえさんのことを気にかけていると、
その気持ちが伝われば、内容などどうでもいいんじゃよ」
「……いや、どうでもよくないからね、
いま一瞬だけ、ものすごいいいこと言ったみたいな顔したけど、
どうでもよくないからね」
「ミルクはどこかのう?」
「キッチンの冷蔵庫です!
この部屋には電気ケトルとティーポットはあるけど、
ミルクは要冷蔵だから、キッチンだよ!」
「冷蔵庫じゃな」
ぬらりひょんはあっさり席を立つと、
ドアを開けて寝室から出ていきました。
俺は露流しの手紙をどうにか読もうとしましたが、
やっぱり、「候」(そうろう)しかわかりません。
たぶん、いや確実にぬらりひょんには内容がわかるんだろうけど、
教えてくれないんだろうな。
あいつはそういう妖怪だ。

突然、ドアが開いて、
「低温殺菌牛乳はなかったぞ」
ぬらりひょんがミルクを片手に苦情を言いました。
「わしは牛乳は低温殺菌、コメは魚沼産が好きなんじゃ」
「てめえ、たかりのくせに贅沢言いすぎだろ!
オレがお茶を提供してやってるだけでも
感謝しろよ!」
「じゃが、これもわしの仕事じゃからの、
わしもつらいがしかたないんじゃ」
ぬらりひょんはミルクティーをうまそうにごくごく飲みました。

「おい、ぬらりひょん」
「なんじゃ?」
「おまえ、この手紙、読めるんだろ。
ていうか、おまえのことだから、もう読んだんだろ。
なんて書いてあるんだよ」
「おまえさんは友達じゃ、と書いていある」
「ザックリしすぎだろー!
それ、省略しすぎだろ!
だって候って何回も書いてあるぞ。
なにか細々と書き綴ってんじゃないの?」
「あー、まあ、旅先のことをいろいろと書いておるが、
要するに、おまえさんのことが好きじゃ、ということじゃ」
「要約しなくていいから!
詳細を、ちゃんと内容を教えろよ!」
手紙をもって絶叫したオレに、
ぬらりひょんは、
「大事なことなら、自分でどうにかせにゃならん。
それが世の中の理じゃ」
と言い切り、それから、
「じゃあ、わしはもう行くわ。
手紙は確かに渡したからの」
と言って、ドアに手をかけました。
「ちょっと待て、
お前ほんとに、これじゃ、渡しただけじゃねえか!
え、これで終わりなの?
俺はこの手紙とともに残されてこれで終わりなの?
そんなオチあんのか?」
「まさに風邪とともに去りぬ、じゃ」
ぬらりひょんはいい笑顔で手を振りました。
「たしかに俺は風邪ひいてるけど、
それちっともうまくないからね、
それ全然駄目だからね」
「次はショートケーキと低温殺菌牛乳を用意しておれ。
ご飯は魚沼産コシヒカリじゃぞ」
「二度と来るんじゃねええ!!」
こうして、ぬらりひょんはオレの絶叫とともに
去っていきました。

この読めない手紙、どうしようか……。



以上、ホラ八割程度で。
手紙ってもらうと嬉しいよね。
でもさ、内容もわかったほうが更にいいよね。
ぬらりひょんが言ったことは全部 真実だと思いますが、
それだけでもいけないと思います。
いろいろ足りないと思います。
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ぬらりひょんが去ったのち、
熱が下がったことは秘密です。
本当に、あいつ、風邪とともに去りぬ、だった。
もしかしたら、わざと持ってってくれたのかもしれないけど、
悪い奴じゃないと思うけど、
でもどうなの? あいつ、いいやつなの?
オレにとっては、一言で言えば、「悪友」です。
元気な時は一緒に馬鹿をやるし、
体調が悪いときは、罵声を投げたくなる相手です。

2014年8月24日 (日)

動け。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。

昨夜、寝付けずにベッドの天井を見上げていたオレは、
天井から水色の煙が漂いだし、
象みたいな形になるのを目撃しました。

ああ、あいつか。

妖怪です。妖怪友達の露流しがやってきたのでした。
露流しは見た目、空色の象みたいな妖怪です。
好きなものは和菓子。
そして、苦い涙。
獏(バク)が悪夢を食べるように、
露流しは人間の涙を食べる妖怪なんです。
正確に言うと、涙の重さを食べ、
一晩 その人が眠ることができるようにしてくれる妖怪です。
(前回 露流しがやってきた時の日記は下記)
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2013/02/post-a866.html

そんな妖怪が、
「……なんでよりにもよって今日来たんだよ」
オレはぶっきらぼうに言いました。
「いま和菓子ねえぞ」
露流しは穏やかに言います。
「違うよ、涙にひかれてきたんだよ」
「うっさいわ」
オレはごしごしと目元をこすりました。
露流しは静かに言いました。
「幸せな涙は辛くて苦くてまずい。
不幸な涙は甘い。
君、どうして甘い涙を流していたの」
「……うっさいわ」
「うるさくないよ、友達だよ」
「……うっさいわ」
そうもう一度言ってから、オレはむくりと起き上がり、
「ごめん」
と露流しに頭を下げました。
いまのは、オレが悪かった。
露流しは友人のオレを心配しているだけなんだから。

「どうしたんだい、こんなに甘い涙は久しぶりだよ」
また持病が増えたの?
露流しが訊いてきたので、
「いまさら持病くらいでは泣かない」
とオレは答えました。
「持病は死ぬまでオレが抱えるものだ。
死ねばなくなる。百年後にはない。
それくらいで、泣かない」
「じゃあ、どうしたの」
「……無力と非力の差について考えてた」
「無力と非力の差?」
「似てるけど、ぜんぜん違う」
オレは露流しに洗いざらい話すことに決め、
話し始めました。

「昨日の夜、子猫の声がしたんだよ」
うちの屋敷がある住宅街のすぐそばから。
「気になって見に行ったんだ。
飼うことはできないけど、
保護することや病院に連れていくことはできる。
オレは非力だけど、無力じゃない。
そう思ってた」
「うん」
「そしたら、ある家から主婦が一人出てきて。
やっぱ鳴き声気になるからって一緒に探し始めて」
「うん」
「子猫の居場所を突き止めたんだけど、
その子猫が隠れてる物置がある庭に入るには、
住民の許可が必要だからって、
主婦がその家をピンポンして」
「うん」
「そしたら、またひとり主婦が出てきて。
で、主婦の輪が広がって、どんどん、
知り合いの近所の主婦が出てきて、五、六人は出てきて」
「うん」
「最後には、主婦に連れられて、子供まで何人も出てきた。
『子猫―?! どこー?!』とか子供が喚きだして」
「うん」
「子猫がおびえてパニックになって」
「うん」
「オレは落ち着かせて、捕獲しようとしたんだけど、
子猫、もうわけがわからなくなってて。
追いつめられて、夜の住宅街を走り去ってしまったんだ。
捕まえることはできなかった」
「うん」
「最近、暑いだろ。
今日だって三十度以上あっただろ。
こんな暑い中、あんな小さな子猫が
隠れる場所もなくして、生きられるわけがない。
そう思ったら、なにもできなかった自分に
腹が立って、腹が立って。
オレは非力だと思ってたけど、
それは思い上がりで。
結局、無力で」
オレは自分の両手を眺めました。
「あのとき、子猫が走り去るとき、
手を伸ばせばよかった。
もっと積極的に捕まえようとすればよかった。
落ち着かせてとか考えずに。
オレは肝心な時に動かなかった。
……動かないのは、駄目だ」
オレは目頭を拳でこすりました。
「結局、非力と無力の差って、
動くか動かないかなんだ。
その程度の差なんだ。
だったら! オレ動けよ! って話だよ!
てか、なにを茫然と見送ってんだよ、
動けよ!」
オレは最後はもう、涙混じりに怒鳴りました。
「それでずっとひとりで泣いていたの」
露流しはじっとオレを見つめました。

露流しは言葉をつづけました。
「それは確かにそうかもしれない。
非力と無力の差は、
動くか動かないかの違いなのかもしれない」
露流しは言いました。
「けど、そうやって自分だけ責めるのもよくないよ。
だって男爵はまさか主婦がそんなに何人も出てくるなんて、
思わなかったんでしょ」
「……うん」
「まさか子供まで出てくるなんて、思わなかったんでしょ」
「うん、子供が出てきて、子猫が隠れてる物置を
バンバン叩くとは思わなかった」
「僕は言うけど、友達だからじゃなくて、
客観的に言うけど、
そんな状況でちゃんと子猫を捕まえられるほうが
無理があるよ。
たぶん、誰にも無理だよ、その状況で捕まえるのは」
「けど、オレが動かなかったから、
可能性がゼロになったんだ!
動けば、まだ可能性はゼロじゃなかった!」
「主婦たちはその間、何してたの」
「普通に、子供放置して輪になって世間話してた」
「僕、思うけど、その子猫のこと、
こんなに気にしていたの、男爵だけじゃないの。
主婦たちは珍しいから出てきただけで、
助けようとしてたの、男爵だけじゃないの」
「……そうかも、しれない」
「男爵、悪くないよ」
「でも、オレは無力だった、悔しいし、腹が立つ!」
「仕方ないひとだなあ」
露流しはなぜか少し笑いました。
「男爵は、欲張りなんだねえ」
「欲張りでもいい、子猫を助けられるんなら」
畜生、とわめいて、
オレは枕に顔をうずめました。
駄目だ、やっぱり涙が出てくる。

「執事さんはこの件について、なんて言ってたの」
露流しが尋ねてきたので、
オレは答えました。
「きっとあれから逃げ込んだ先で、保護されてるって。
いいひとがいて、ちゃんと子猫を助けてくれるって」
「僕もそう思うよ」
「そんなん理想論だろ! 気やすめだろ。
世の中 そんなに甘くねえよ!」
「君の涙は甘いけどねえ」
露流しは長い鼻をのばして、
ふんふんと空気の匂いを嗅ぎました。
「君さあ、前回来た時に
今度はとびっきり苦い、幸せな涙を用意するよって、
言ってくれたでしょ。
駄目じゃない、こんなに甘くちゃ。
約束破りだよ」
「うっさいわ」
オレは枕を離して怒鳴ります。
「好きでこんなに無力感に打ちのめされてるんじゃねえ!
オレの馬鹿、ホント、オレの馬鹿!
動けっての、どうしようとか考えるより動けっての!
動かねえなら、どんなごたく並べても、
無駄無駄、無力なんだよ、畜生」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
露流しは鼻を揺らして耳を広げます。
「もし君をぼくが喜ばせることができたら、
君はとびきり苦い、幸せな涙をくれるかい?」
「そんなんできたらな!
いくらでも出してやるよ! できんけどな!」
「ふふふっ」
露流しはちいさく笑って、話し始めました。

「今日は夕方 雨が降ったでしょう」
「降ったね」
「僕は気分がよくて、ここの近所の雨上りの道路を歩いていたんだよ」
「え、おまえ、道路歩いたの? 大丈夫か」
と言って、オレは、ああ、そっかと納得しました。
妖怪は見える人にしか見えない。
この派手な空色の象も、見えない人には見えない。
露流しは続けます。
「そしたらね、いたよ」
「なにが?」
ぽかんとするオレに露流しは目を細めて笑いかけました。
「ちっちゃなピンクの首輪をした子猫がね、
道路に沿って歩いて、角のあの家へ入っていったよ。
ねえ、こんな頻繁にこの場所で子猫が出現するわけないから、
あの子は、きっと男爵が捕まえ損ねた子猫だよ。
いまはもう、ちゃんと家があって、
家族がいるんだよ」
「……その話、マジか」
「マジマジ」
「そっか」
あの子猫、死ななかったのか。
助けてくれる人がいたんだな。
オレは何もしてないけど、
オレは今回 ホントに無力な役立たずだったけど、
でも、ハッピーエンドになったんだな。
胸の内側が温かくなりました。
よかった、本当によかった。
ぽろりと涙の粒が手元にこぼれました。
「約束」
と言って、露流しが鼻を伸ばしたので、
オレも笑いながら「ほらよ」と、
最後に流した涙をのせた拳を差し出します。
露流しは拳から鼻で何かを吸い込んで、
その鼻を口元に持っていってモグモグと口を動かし、
「苦いなあ、まずいなあ」
と言って、笑いました。
「うん、やっぱり涙はまずいほうが
僕は好きだな」
「物好きだな、おまえ」
「男爵もだよ。見ず知らずの子猫一匹のために
すっごくたくさん泣いたじゃない」
「知らないな。オレはそんな泣いたりしてねーよ。
なにせ、冷たい人間だからな」
「ふふふっ」
露流しはオレと目を見合わせて笑うと、
天井のほうへ浮かび上がりました。

「じゃあ、またね。
また、まずい、とびっきりまっずい涙を飲ませてね」
「おう」
オレはけろっとした顔で手を振りました。
バイバイ、と露流しが消えていきました。
直後に、
「失礼いたします」
ノックとともに、執事がやってきました。
「ご主人様、昨夜の子猫でございますが、近所の話によりますと」
「ああ、角の家で飼ってもらえることになったんだろ」
「ご存知でしたか」
執事は驚いて、
「ですが、ご主人様は今日一日、
寝室に閉じこもっておられたのに、どうしてご存知なのですか」
と訊きました。
オレは布団を引き上げて、横になりながら、
「さあね」
と答えました。
妖怪たちは時折我が家にやってきて、
世間話をしたり、おやつを食べたりします。
オレは妖怪が大好きです。
なんつーか、やつらのゆるさが好きです。
でもなによりも好きなのは、
「こっそり、友達が教えてくれたんだよ」
やつらがオレの友達だからです。


以上、ホラ三割程度で。
真実が混じってることが驚きの場合もありますね。
ですが、非力と無力の差って、
行動するかどうかだと思います。
もちろん、行動する以上は、ちゃんと責任取ろうね!
責任取らないのに行動するのは、
ただ状況を悪化させるだけだからね!
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あなたがひとりで泣いていたら、
きっと露流しがやってきて、
涙の重さを吸い取ってくれるでしょう。
やつはそういう妖怪です。

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