「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」

2015年12月27日 (日)

空を飛ぶ方法。その2。

前回までのあらすじ:
 「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」=俺&斎藤君は、
 またしても不可能ミッションに挑む!
 ベッドに釘付けの余命わずかなS村さんを
 家族に内緒でドイツのクリスマス市に連れていくことに!
 今日 クリスマスイブ、果たして奇跡は起こるのか……?!

(ちょっと時間はさかのぼって24日の昼)
「メリークリスマスイブ!」
派手にクラッカーを鳴らしながら、
俺&斎藤君はS村さんの個室に侵入しました。
「あらまあ、斎藤さん」
S村さんは首だけ動かしてこちらを見ました。
S村さんは、小柄で細い、きゃしゃな感じの品の良いおばあさんでした。
かろうじて手と首だけが動くらしく、
ひらひらと骨ばった手を斎藤君に振ってみせました。
S村さんはもう、自力では上体を起こすことすらできないのです。
「こんにちは、S村さん、今日は友達を連れてきたよ」
斎藤君は俺を押し出します。
俺は丁寧に頭を下げてから、
「10分間旅行社・代表の黒羊男爵です。今日はよろしくお願いいたします」
と言いました。
S村さんは首をかしげます。
「10分間旅行社……?」
「はい。どんな人でも10分間だけお望みの場所に連れていく旅行社です」
「えっ、どういうことですか」
「今日はクリスマスイブです!」
俺と斎藤君は声を合わせます。
「いま、ドイツではクリスマス市が最高潮の賑わいです!
よろしかったら、10分間だけ行ってみませんか」
S村さんは寂しげに微笑みます。
「でも、わたしはもう……」
歩くこともできないから。
俺は勢いよく首を振ります。
「いえ、S村さん、あなたはもうすでに移動手段に乗っているじゃありませんか」
「え?」
「そのベッドですよ。
いいですか、ベッドというのは異世界と現実の境にあるもの、
あなたと世界を結ぶ場所です。
たとえば夜になれば、そのベッドであなたは夢を見ますよね?
その間、あなたの体は動いていません。
しかし、あなたの魂は、心はベッドに乗って様々な経験をします。
その経験は嘘でしょうか?
でも夢を見ているその時は、真実のように感じますよね?
だったら、目を覚ましているときだって、
ベッドにいるなら、どこへだって行くことができますよ」
「そんなことって」
「可能なんですよ、わたしにかかれば」
俺はS村さんの手に、数枚の写真を握らせます。
「これは……?」
「今まさに開催中のクリスマス市の写真です。
どうですか、行きたくないですか」
「ああ……」
S村さんは写真を一枚ずつ丁寧にじっくりと眺めて、
「ありがとうございます、この写真だけでもう、行けたような気がします」
と言いました。
うおおお、S村さん、いいひと!
これはぜひとも、10分間旅行に連れて行かねば!

「その”行けたような気がする”が10分間旅行には大事なんです」
俺はそういって、S村さんに耳栓とヘッドフォンを渡しました。
「なんですか、これ」
「これからこのベッドでドイツへ移動します。
猛スピードですから、それなりに音がしますので、
到着するまで耳を保護するために耳栓とヘッドフォンをつけてください」
「でも、わたしにはもう旅行なんて」
「大丈夫ですから!」
俺はどん、と胸を叩きます。
「写真を見たS村さんなら、絶対にドイツに行けますから!
信じてください。
ただ、その気になってくださればいいんです
あと、10分間旅行では、景色を見ることはできません。
世界のどこへでも行ける代わりに、目に目隠しを当てさせていただきます」
「ふふふっ、おかしいな方ですね。変わった遊びですね」
笑いながら、S村さんは写真を置きます。
俺がそっとS村さんの目に三重にしたガーゼタオルを巻きます。
「では、出発します。耳栓をつけますね」
斎藤君がヘッドフォンの装着を手伝います。
いよいよ10分間旅行が始まりました!

S村さん:「うすぼんやりしてますけど……あ、凄い風!」
びゅうびゅうとS村さんに風が当たります。
ベッドもガタガタと揺れました。
S村さん:「急に寒くなってきました。風が冷たい」
斎藤君が耳栓とヘッドフォンを外します。
俺:「そろそろドイツに着きますよ!」
S村さん:「え、もう?」
俺:「はい、わたしたちはドイツのカウフボイレンのクリスマス市の上空にいます。
  降りますね」
S村さん:「きゃっ、なにか冷たいものが顔に」
俺:「雪です。カウフボイレンはホワイトクリスマスなんです。
  傘をさしましょう。あと失礼して手袋をはめさせていただきます。
  とても冷えますから」
S村さん:「え、本当にここはドイツなんですか」
俺:「はい。音も聞こえてくるでしょう?」
S村さん:「本当だわ、ドイツ語かしら、たくさんの人がいるみたい」
俺:「クリスマスソングも流れていますね。
  さて、S村さんはクリスマス市のどこへ行きたいですか?」
S村さん:「行きたいところ……ああ、もし本当に行けたら……。
  クリスマス市は出店がたくさん出ているんですよね、
  市場のお店もとってもきれいで……。
  ショーウィンドウを見てみたい……」
俺:「旅行の規則なので、お見せすることはできませんが、
  ご希望の場所にはお連れできます。
  まずクリスマス市の出店に行ってみましょう」
S村さん:「出店、なんの出店ですか」
俺:「季節柄寒いですから、温かいものをだすお店に行きますね。
  ドイツと言えば、ビールとソーセージですけど、
  クリスマス市の出店でもソーセージをあぶっていますよ」
S村さん:「本当だわ、お肉の焼ける匂いがする」
俺:「ハーブ入りの太いソーセージですね。
  あと、シュトーレン、ホットワインなんかもよくあります。
  香りがするでしょう」 
S村さん:「お酒の匂いがする……」
俺:「野外ですから、冷えませんか?
  S村さんのご体調ではお酒は無理ですけど、
  あったかいココアなんかいかがですか?」
S村さん:「えっ、いただけるんですか」
俺:「もちろん。ちょっと待ってくださいね、注文しますから」
S村さん:「信じられないわ……」
俺:「はい、熱々のココアです。飲むとき、やけどしないでくださいね」
S村さん:「本当にココアだわ。陶器のマグカップに入ってる……。甘くて温かくて美味しい」
俺:「出店はたくさん出てますけど、旅行の時間は10分間だけですから、
  せっかくですから、どこかお店に入りましょう。
  いいですか」
S村さん:「はい!」

俺:「ここはクリスマスのオーナメント(飾り)を売っているお店です。
  室内なので、手袋は外しましょう」
S村さん:「空気が暖かくなってきたわ……それにさっきよりも明るい」
俺:「店内にはオーナメントがたくさん飾られています。
  お店の中央にはS村さんより大きなツリーがありますよ。
  市場に面したショーウィンドウには天使の飾りと楽団の人形が置かれています。
  照明にオーナメントがキラキラしていて、とてもきれいですよ」
S村さん:「ああ、見てみたい……」
俺:「じゃあ、オーナメントをいくつかお渡ししますね。
  旅の記念に本場のクリスマス市の飾りを触ってみてください」
S村さん:「触れるんですか?!」
俺:「もちろん。これは何だと思います?」
S村さん:「尖ってる……。五芒星の形……。
  わかったわ、ツリーのてっぺんに飾る星ですね!」
俺:「そうです。ではこれは?」
S村さん:「人形……羽根がついてる。天使だわ。
  足のクリップでツリーに留めるんですね」 
俺:「こっちはなんでしょう」
S村さん:「ベルだわ! 本当にちりんちりん可愛い音がする」
俺:「ではこれは?」
S村さん:「長くて手触りがいい……リボンですね?」
俺:「そうです。金糸を織り込んだ赤いリボンです」
S村さん:「緑のツリーに映えそうですね」
俺:「はい。では最後にこれは?」
S村さん:「台座みたいなものの上につるつるの丸い玉……。
   なにかしら?」
俺:「これはスノードームというおもちゃです。
  玉の中に水と雪と人形が入れてあって、
  振ると、雪が舞い上がって、雪景色を楽しめるミニチュアの世界です」
S村さん:「まあ、素敵だわ。見てみたい」
俺:「残念ですが、決まりですから、ここでは見られません。
  名残惜しいですが、そろそろ10分ですね。
  日本に帰りましょう」  
S村さん:「えっ、もう時間ですか。ああ、もっといろいろ回ってみたい」
俺:「また来年、今度は違う街のクリスマス市にお連れしますよ。
  では耳栓をつけます」
S村さんの耳に耳栓とヘッドフォンが装着されます。
S村さん:「また凄い風だわ」

「はい、日本に戻ってきました。
いかがでしたか、10分間旅行は」
目隠しを外されて、眼をぱちぱちしているS村さんに俺は訊きました。
S村さんはうっすらと涙ぐみながら、言います。
「素敵だったわ、本当に素敵だった。
何十年ぶりに雪を感じて、ココアをいただいて……お店では飾りまで触って。
どうやったんですか?
まるで本当にベッドごとドイツに行ったみたいでした」
「ですから、10分間旅行社ですから。 
どんな方でも、どんな場所へでも、10分間だけお連れします。
嘘ではなかったでしょう?」
「ええ、本当に。本当にわたし、ドイツのクリスマス市に行ったのね」
これが事実だったら、どんなによかったでしょう。
S村さんはそっと目を伏せました。
俺は言います。
「S村さん、わたしたちは嘘はついていませんよ。
あなたは本当にドイツに行っていたんです。
それが真実ですよ」
「え、でも、まさか」
「その証拠にホラ」
俺はS村さんのベッドサイドテーブルを指さします。
「ちゃんとお土産まで、ありますよ」
テーブルの上には、赤いリボンが巻かれたあのスノードームがありました。



以上、ホラ九割程度で。 
この話、具体的になにをどうやったのか、ネタバレしてもいいんですけど、
しないほうが楽しいと思います。
今回のドイツ訪問、これは無理ではありません。
準備さえしておけば、まったく問題ありませんでした。
あとは俺の話術というか、演出ですね。
これは嘘ではなく、ホラだからこそ、できた奇跡です。
S村さんはこの日、スノードームを抱きながら眠ったそうです。
きっとまたドイツへ行ったんでしょうね。
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どうしても真実ではなく、事実が知りたい、という方へ。
世の中、そっとしておいたほうが楽しい場合もありますよ。
何をどう使ったとか、知ったら、しらけちゃうかもしれないですからね。
ただヒントとして言えるのは、
「男爵が話している間、斎藤君は大活躍していた」ということです。
「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」は、
今回も新しい伝説を作りました。
次の伝説がどんなものかは、神の味噌汁です。

2015年12月20日 (日)

空を飛ぶ方法。その1。

どうもこんばんは、
「福ロス」(福山雅●氏の結婚により精神的なダメージを受けること)を
「副都心線の遅延状況」だと思っていた黒羊男爵です。
使用例:
大学生1:「いやー、今日も副ロスがひどくってさ」
大学生2:「あー、まあな、人によってはひどいらしいよな」
大学生1:「ホント、かんべんしてほしいわー」
大学生2:「ホントな」
ね! 違和感ないでしょ?! 会話として成立するでしょ?!
俺、おかしくないよね?!
執事の野郎、「これはこれは」とか言って、
メモ帳にごそごそ記入してやがりました。
(注意してくれない!)
どうやら俺の間違いを書き留めておいて、
どこかにUpするつもりらしい。
おまえはそれでいいのか、
それが主人に誠実な執事のありかたか!
いろいろ問題の多い男爵家です。
来年のお願いは「家内安全」「試験合格」で決まりです。

そんな俺が毎月の定期検診のために病院行き。
毎回入院するおなじみの病院なので、
「よう!」
とハイタッチする友人「斎藤君」がいます。
今日も後ろに点滴棒を引きずりつつ、
顔色が悪い笑顔の斎藤君とハイタッチ。
俺が後衛型自宅待機病人なら、
彼は前衛型通年入院病人です。
まあ、いろいろと悪いらしいです。
お互い、病状については
「俺ってホントに、病人でさ、アハハハハハ」
「俺もだよ、あはははは」で
済ませてしまうので、詳しくは知りません。
本人が言わないのに、別に知る必要ないしね。
そんなん知らなくても、
斎藤君がいいやつだって知ってるからいいしね。

そんな斎藤君が「あのさー、男爵さー」と切り出しました。
うぬ、これはお願いの声音!
俺:「断る!」
まず最初に用件を聞く前に断ります。
彼はいいやつですが、ろくでなしなんで。
斎藤君:「ええー、そこをなんとかさー」
俺:「い、や、だ! どうせまた無理難題なんだろ!
   『このはし渡るべからず』を泳いで何とかしろ! みたいな!」
斎藤君:「そこまで鬼じゃないよー。
    たださー、他の人にはちょっと難しくてさー」
俺:「他人には無理で、なぜ俺なら可能だと思うのだ?!」
斎藤君:「そこはホラ、男爵ってろくでなしだからさー。倫理とか甘めじゃん?」
俺:「俺もか! 俺もろくでなしか! まあ否定しないけどな!」
ここまでが用件を聞くまでの準備運動です。

俺:「で、なにをどうしたいのよ?」
斎藤君:「簡単なことだよ! 旅行に行きたいだけだから」
俺:「旅行……? 行きたきゃ行けばいいじゃない?
   それともなに、金がないの? 俺もないよ」
斎藤君:「違うよー、ないのはお金じゃなくて、余命だよー」

俺:「余命?! ヤバイ案件の匂いがするぞ!」
斎藤君:「ヤバイのは男爵じゃなくて、S村さんだよー」
俺:「もう話すな! その先を聞きたくない」
斎藤君:「じゃあ話すね。S村さんは長く入院してて、旅行経験がほとんどない。
    でも旅番組が大好きで、本当はドイツのクリスマス市に行きたいって思ってる。
    実際には旅行どころか、移動もままならなくて、ベッドに釘づけだけど。
    家族に心配させちゃうから、旅行に行きたいってことすら黙ってるけど。
    そんなS村さんを! 俺は旅行に連れていきたい!」
俺:「ベッドに釘付けの余命わずかな病人を家族に内緒でドイツ旅行?!
   何重に不可能が重なってるんだよ?!」
斎藤君:「だからさー、そこを男爵がなんとかすればいいんだよ!」
俺:「えっ、そこで俺の出番なの? 俺が出てきちゃうの?
   もうちょっと後でもよくない?
   たとえばS村さんのベッドにすがりついて泣きながら、
   「いいひとでした~」って言うくらいなら俺にも可能だけど」
斎藤君:「なんとかしてよ! 男爵は病人の星じゃんか!」
俺:「その星、スターじゃなくて、死●星じゃね?!」
斎藤君:「違うよ! 死兆●じゃなくて、冥王星だよ」
俺:「冥王星は惑星の定義から外れました!」
斎藤君:「男爵も人の定義から外れてるから大丈夫」
俺:「それ、ぜんぜん大丈夫じゃなくね?! むしろヤバくね?」
斎藤君:「で、俺はなにを準備すればいい?」

もう駄目です、斎藤君は完全にヤル気です。
眼がマジになってます。
こうなったら「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」としては、
やらざるをえません。
S村さんをドイツに連れていくしかありません。

俺:「うーん、方法はないこともないけど。本人が納得してくれるんならね」
斎藤君:「よっしゃあ!」

こうして、俺&斎藤君による「S村さんをドイツに連れていく会」が
結成されました。
はたして男爵はS村さんをどうやってドイツに連れていくのでしょうか。


以上、ホラ八割五分程度で。
旅行に行きたいってのは病人の夢だよね。
なかなか動けない・動くことができない病人の憧れです。
普通の生活がしたい、とか、
旅行に行きたい、とか、
ホントささやかな夢なんだけど、それが遠いんです。
だから俺はS村さんをドイツに連れていくことにしました。
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確かに、不可能は不可能でしょうね。
でも本人の了承があれば、
柔らかな心があれば、無理ではないとは思いますよ。
「このはし渡るべからず」って書いてあったら、
「じゃあ違う橋かければいいじゃんね」と思うのが俺です。
それでは 空を飛ぶ方法 その2 でまたお目にかかります(低頭)。

2014年5月25日 (日)

君にサプライズを。その3。

前回までのあらすじ:
 いつものように入院した先で
 ツーカーコンビ・斎藤君とともに
 伝説を作る毎日の黒羊男爵。
 ある日、斎藤君が難題を持ち込んできた。
 「長期入院で希望をなくした乙女・岸和田さん(仮名)を
  オレたちで笑顔にするんだ……!」
 しかし、斎藤君が紹介した悲劇のヒロイン、
 助けを求める麗しの乙女は、
 貧相な体型で口の悪いクソ生意気な、リストカットを繰り返すガキだった……。
 はたして男爵は岸和田さんの度肝を抜くことに
 成功するのだろうか……?!(※趣旨が変わってる)

「えー、ベニヤ板、ダメそう?」
オレは斎藤君に確認します。
ベニヤ板担当の斎藤君は金づち片手に、
「うん、無理っぽい。
重すぎるし、窓枠のサッシに釘が刺さらない」と
説明しました。
仕方ない。
「じゃあ、バルサ材でいくか。
バルサ材+ガムテで。
それでそれらしくなりそうかな?」
「たぶん大丈夫。男爵のほうは?」
「力を入れて作業しすぎたせいで、
右手を一時期、痛めたけど、大丈夫、
なんとなかりそう」
「じゃ、決行は予定通りに?」
「明日でいいよ。
明日の昼、必ず、岸和田さんを十分間、
病室から連れ出すんだぞ」
私の命令に、斎藤君は敬礼します。
「イエッサ―」
「ふふふ、今に見ておれ、クソガキが」
わたしは不敵に笑います。
「大人の本気を見せてやるよ!」
(※完全に趣旨が変わってます)

「斎藤のおにいちゃんだよ~」
相変わらずとろけそうな笑顔で
斎藤君は岸和田さん、もとい、クソガキの病室をノックします。
ロックが解除され、
「うるさいってんだよ、このバカ!」
鋭い蹴りが斎藤君の下腹にヒットしました。
どうやら岸和田さんは今日は元気のようです。
わたしは隣の病室の窓から身を乗り出して
カーテンの隙間から一部始終を見ていましたが、
岸和田さんがこちらに背を向けたとたんに、
「やらねば!」
と素材をひきずって岸和田さんの
個室の窓に取り付きます。
まずバルサ材とガムテ。
それから模造紙と……。
オレが指示した通り、
斎藤君は病室に戻ろうとする岸和田さんの足元に
すがりついて離れません。
岸和田さんはこちらに背を向けたまま、
笑顔でもだえる斎藤君を足蹴にしています。
あいつ、ああいう習癖があるとは知らなかったよなー。
Mの血が流れているとはホント知らなかった。
などと考えつつ、わたしはすばやく作業し、
予定通り十分以内で準備は完了しました。
「よっしゃ」
あとは口先で岸和田さんを乗せるだけです。

「なに、またSMプレイやってんの」
懲りないねえ、とわたしは蹴る岸和田さんと蹴られる斎藤君の
前におもむろに登場します。
「プレイじゃない。本気だから。
本気で斎藤には死んでもらいたいから」
「またまた~。自殺願望があるのはおまえのほうだろうが。
斎藤君はオレと同じく、生にしがみつく立派な病人だから」
「うるっさい、二人ともさっさと消えろ! 死ね、バカ!」
今日も岸和田さんの悪口は絶好調です。
遠慮や礼儀という言葉を知りません。
わたしは畳みかけます。
「そんで、その後、どうなわけ?
いまも生きてるところをみると、
自殺には失敗続きなわけ?
リストカットやめたの?
まあ、リストカットじゃなかなか死ねないけど」
私の問いかけに岸和田さんは舌打ちします。
「うるっさいなあ、もう! いつどう死のうが、あたしの勝手でしょ」
「相変わらず、外の世界を全否定?」
「どうせ病院から出られないんだから、
外の世界なんてある意味ないでしょ!」
消えればいいのに、と岸和田さんは毒づきます。
ホント、かわいくないガキだよ。
くそったれ(罵詈雑言、申し訳ありません)。

「まあ、今日はそんな腐った根性のお前のために
オレたちが特別なプレゼントを用意してやったぞ」
わたしは声高らかに宣言します。
「ちょっとでも驚いたら、オレたちの勝ちな。
動揺したり、泣いたり、笑ったりしたら
オレたちの勝ち、
相変わらずおまえが腐ったこと言ってたら、
お前の勝ちだ」
「なんの勝負なの、バッカみたい」
岸和田さんは顔をそらして言いました。
「いまさら、あたしがなんかを見て動揺するとでも思ってるの?
世界に興味なんかない。
なにがどうなろうが、驚いたりしない」
「その言葉に二言はないな」
「バーカ、バーカ」
「ふうん、あくまでそういう態度をとるわけだ」
わたしは個室の窓際へ移動します。
窓には岸和田さんが引いたカーテンがかけられています。
「おまえがあんまり外の世界を馬鹿にするからなあ、
……世界がお前を拒絶するようになっちまったんだよ!」
わたしの手がカーテンをいっぱいに開きます。
窓は、すべて外側から板で覆われていました。
廃屋のように、外が見えない状態になっていました。

「な、なにこれ?!」
岸和田さんがギョッとして窓に駆け寄ります。
「どうして、誰がこんなこと!」
「だから言っただろ。
外の世界になんか興味ない、
自分の人生にも興味もないおまえに
外の世界は必要ない。
だから、そう思ったら、見られないように、
物理的に封鎖してやったんだよ」
わたしは鼻をほじりながら、言ってやりました。
「これがおまえの理想の世界だ。
窓なんかいつ見ても、病院の塀と空しか見えなくて
意味がないって言ってカーテン閉めたよな?
人生投げるつもりなら、カーテンなんか生ぬるいぜ。
これくらいしなきゃ、覚悟がなってねえ」
「だ、だからって」
岸和田さんは眼をいっぱいに見開いて窓を見つめ、
それからオレたちを振り返って叫びました。
「だからってこんなことまですることないじゃない!
絶望に絶望を重ねるようなことしなくてもいいでしょ!
これじゃ空も見えない、何も見えないじゃない」
「おまえが見たくねえって言ったから、消しただけだ」
わたしは真剣な表情で返しました。
「わかったか。おまえが覚悟半分で言ってた
『世界なんかいらない』ってことは、こういうことだ。
こういうことなんだよ。
空すら見えない、そういう場所に、
自分で自分を追い込んでるってことなんだよ」
「……そんな……」
岸和田さんはなにかを噛みしめるようにこぶしを握り、
ギッと顔を上げてオレと斎藤君をにらみました。
「いいわ、じゃあ、もうこれがあたしの世界でいいわ!
中途半端な覚悟じゃダメなんでしょ、
なら、いいわよ、もう一生、このまんまでいいわ!
どうせあたしの人生なんか、大したものを見ることもなく
終わっていくんだから!」
とわめきました。
ほほう、やはりそうきましたか。
素直にこれで折れる小娘ではありませんでしたか。

「これでいいわよ、上等じゃない!」
岸和田さんは板を指さします。
「これで満足?! 残念でした、
あたしはちっともなんともないわよ、
どうせ出られない外なんか、
ふさいでもらって、けっこうよ。
どうせ大したものなんか一生見られないんだから。
キレイなものも、感動するようなものも、
なんにも、見られないのが、あたしの人生なんだから」
「おまえ、その言葉に二言はないな?」
わたしは重ねて確認します。
開き直った岸和田さんは鼻息も荒く、
「ないわよ。ええ、いいわよ、どうせこの病室が
あたしの棺桶みたいなもんなんだから」
と返しました。

わたしは深く息を吸いました。
それから、出せる限りの大声で、
「この大馬鹿者!!!!!」と叫びました。
「そんなんだから、キレイなものなんか見つからねえんだよ。
てめえの心が濁って淀んでるから、
キレイなものなんかいっくら探したって、
仮に外に出られたとしたって、見つからねえんだよ。
いい加減、ソレに気づけ。
この病室が棺桶だって?
そうしてるのは、おまえだろうが!
板で封じられて、それで納得してるような
ちっせえ枠でしか物事を考えられないから、
世界が狭くなるんだろうが。
キレイなものはある。
たとえこの病室が棺桶でも、
真面目にちゃんと探せば、キレイなものくらい、見つかるんだよ!」
「そんなもん、ないわ!」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「ない、ないもん!」
岸和田さんの甲高い声に、オレは岸和田さんの手を強くつかみ、
窓際に引きずっていきます。
「あるって言ってるだろうが、
このくそったれ」
わたしは窓を開け、岸和田さんの手のひらを板に当てます。
「ちゃんと真面目に探して、
ぶちやぶれば、キレイなもんくらい、
見るかるんだよ」
岸和田さんの手に自分の手を重ねて、
わたしは板を勢いよく叩きました。
その瞬間、ガムテがはがれて、バルサ材が落下します。

そして一面の薔薇の花で、視界が覆われました。
板の向こうは、薔薇の花園だったのです。

「な? だから言っただろ」
わたしは茫然としている岸和田さんの小さな手を離します。
「キレイなもんくらい、いくらでもあるんだよ。
ちゃんと正しく探しさえすれば、
たとえ外の世界に行けなくても、
自分の世界の中にだって、
キレイなもんはいくらでもある」
「……この花……どうして……」
岸和田さんは窓を埋め尽くす花から一歩後ずさります。
「なんで板の向こう側に……いつもの空と塀じゃなくて……」
「オレと斎藤君の魔法だよ。年上ナメんな」
わたしは病室のドアに寄りかかって
一部始終を見守っていた斎藤君に歩み寄ります。
「よく見ろよ、クソガキ」
「すごい……」
岸和田さんはもう一度窓に近づきます。
視界を埋める薔薇がすべて、
「これ、絵だ。……絵だったんだ……」
真実に気づいてこちらを振り返りました。
「お前を閉じ込めていたのは、おまえだ。
わかったか」
わたしと斎藤君は並んで、こちらと窓一面の絵を交互に
見つめる岸和田さんを眺めます。
岸和田さんは、満足げなオレたちを見返して、
「どんだけ手間と時間かけてんの……バッカじゃないの、
バッカじゃないの」
といつものように罵倒して、笑いならがら泣きました。
その顔を見て、オレは深くうなずきます。
「オレたちのミッションはこれで終了だな、斎藤君」
「そうだね、男爵。ちゃんと笑わせたね」
「『ちゃんと』かどうかはもうどうでもいい。
とにかくオレは疲れた。帰るよ、斎藤君」
「じゃあまたね、岸和田さん」
名残惜しそうな斎藤君をひきずって、
オレは絵の前で立ち尽くす岸和田さんの前から退出しました。


以上をもちまして、
男爵&斎藤君コンビによる
『岸和田さんを笑わせるぜ』ミッションは完了しました。
笑わせると同時に泣かせてしまいましたが、
まあ、こんなもんでしょう。
わたしは無感動の底にいた岸和田さんから
喜怒哀楽を引き出すことに成功しました。
あとは彼女の世界が何色になるかは、
彼女次第です。
ホラは九割ってところですかね。
手首がいまだに痛いのは事実だ。
あのねえ、模造紙十二枚分の薔薇の絵って
描くの、すっげえ、すっげえ大変だったんだからね!
手首も痛くなります。
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いや、ホント疲れました。しばらく病人やってると思います。(いつもやんか!)

2014年5月11日 (日)

君にサプライズを。その2。

ココログにて いいね! を押してくださってる方、
ありがとうございます。
チキンなので、いいね!返しができませんが、
心の支えになっております。

前回までのあらすじ:
 いつものように病気をこじらせて入院した黒羊男爵。
 しかし入院先の病院では
 ツーカーのコンビ・斎藤君とともに
 やりたい放題、伝説を作る日々。
 そんなある日、斎藤君が難題を持ち込んできた。
 「長期入院で生きる気力をなくした岸和田さん(女性・仮名)を
  オレたちでどうにか笑かして、生きる気力を取り戻すんだ」
 はたして、男爵&斎藤君コンビは
 岸和田さんを笑顔にすることができるだろうか……?!

「まあ、でも、最初に挨拶くらいはしておいたほうがいいよね」
廊下を進みながら、オレは斎藤君に話しかけます。
「あと、好きなものとか嫌いなものとかわかると、
作戦を立てやすいしね。
敵を知れば、おのずと戦略ができるってもんだよ」
「彼女の好きなものと嫌いなものかぁ。
オレが知る限り、
嫌いなもの=生きること
好きなもの=死ぬこと だなあ」
斎藤君の台詞にオレはコケます。
「そんなん、死亡フラグまっしぐらじゃないか!
病人は生をあがいてこその病人だろ」
「彼女、いまはちょっとナーバスになってるから、
しょうがないんだよ」
「まあ、うら若い女性が長期入院したら、
ちょっとばかりナーバスになっても仕方ないかもね」
オレは自分に言い聞かせ、
岸和田さん(仮名)の病室を訪ねました。
病室の前でオレは斎藤君の服の裾をひっぱります。
「おい、個室じゃないか。
彼女、金持ちなの?
それとも重病なの?」
「両方」
答えて、斎藤君はノックしました。
「こんにちは~、斎藤のおにいちゃんだよ~」
とろけそうな満面の笑みでこう言いました。
おい、斎藤君、君、キャラが崩壊してるじゃないか。
いくら相手が美女とはいえ、
そこまでデレる必要があるとは思えない。
いや、そこまでしなければならないほどの美女なのか。
そうなのか。
オレもやる気と気分が盛り上がってきました。
斎藤君をまねて言います。
「どうも~、斎藤のおにいちゃんのお友達の
黒羊男爵もいるよ~」
扉のロックが外されて開きました。
そして、中から、
「ふたりしてバッカじゃないの」
貧相な少女がひとり現れ、
オレと斎藤君を冷たい目で一刀両断しました。

オレのセンサーがピコンと反応します。
容貌……普通
バスト&ヒップ……貧相(てか、小学生か?)
性格……悪そう、ていうか、最悪っぽい
いかん、オレの「生意気なガキ大嫌い」センサーが
ビンビンに反応している。
つーか、
「おい、斎藤君! 美女は?!
オレたちの助けを求める悩める娘・岸和田さんはどこだ?!」
オレは声を大にして斎藤君に詰め寄ると、
斎藤君は笑み崩れたまま、
「何言ってるんだよ、男爵、
ほら、岸和田さんだよ、可愛いだろう」
と言ってそのクソ生意気そうなガキを指さしました。
その指を、ガキがぽきりと折ります。
「人を指さすな、バカ斎藤」
「ぎゃあああ! 指が、指が」
斎藤君は激痛に転げまわりますが、オレは茫然と少女を凝視します。
マジか、マジでこいつが岸和田さんなのか。
「……これはオレの守備範囲外じゃないか……」
年齢といい、容姿といい、性格といい、
全部「アウト」判定です。
オレはきびすを返しました。
その足に斎藤君がすがりつきます。
「待って、男爵、待って、ちょっと話を聞いて」
「いやもう、お腹いっぱいだから。
もう聞きたい話はないから」
「本当は可愛い子なんだよ、
いまちょっとヒネちゃってるだけで、シャイな子なんだよ。
緊張してるんだよ」
「何言ってんの、斎藤、気持ち悪い」
岸和田さん――ガキは、
芋虫状態の斎藤君を容赦なく足蹴にしました。
斎藤君は笑顔のまま もだえます。
うわ、こいつ、こういう趣味のヤツだったのか。
知らなかった。
友達だけど、今日はもう付き合えないな。
オレは廊下を戻ろうとしますが、
斎藤君が足を離してくれません。
「話、話だけ聞いて、お願い、男爵~」
「「だから、おまえ、気色悪いっての!」」
岸和田さんとオレは同時に斎藤君を蹴りました。
……なんだか、こういうところは気があうな、岸和田さん。

「で、なに、生きる気力がないんだって?」
わたしは鼻をほじりながら、岸和田さんに確認します。
ガキはあざ笑うかのように、オレの目の前に自分の左手をかざします。
手首に白い包帯が幾重にも巻かれていました。
「手首、切ってやった」
「リストカットかよ、うわ、おまえ頭悪いな」
オレはもう容赦なく指摘します。
「本当に死にたいなら、手首なんか切るな。
手首じゃ なかなか死ねないぞ」
「うるさいな! いいでしょ、どこを切っても!」
あたしは死にたいんだから、とガキは大声で言いました。
生きたくても生きられなくて死んでいく人がいる病院で、
なんつーことを言うんだ、このガキは。
「死にたがりかよ、ガキが」
オレは足元で丸まってる斎藤君に言います。
「斎藤君、オレもう帰っていい? ていうか、帰る」
「待って、男爵、待って、
ふたりで岸和田さんを笑顔にしようよ!」
「ふざけんな、こんなクソガキ笑顔にする意味なんかねーわ!」
「笑顔ってどういうことよ、あたしは死ぬのよ、
笑うわけないでしょ」
オレと岸和田さんは、また同時に斎藤君を足蹴にしました。
……本当に気が合うな、こういうところだけは。

「笑いたくなんかない。
もう見たいものもない、欲しいものもない」
岸和田さんは宣言します。
オレは
「あーそ-ですか。そーですか。
じゃあさっさと生きるのやめてください。
ていうか、もう生きていないようなもんだけどね。
そんだけ外を、世界を拒絶してたらね」
言いたい放題を言います。
こんなクソガキに遠慮なんかするか。
「いや、男爵、待てって。
彼女、本当は笑顔が可愛い子なんだよ、
いまはちょっとナーバスになってて」
斎藤君がオレに懇願します。
「二人でこの子を笑顔にしよう、な?」
「断る」
オレは断言しました。
「こんなやつ笑顔にするために、労力使うんなら、
灼熱の炎天下で一生懸命 募金活動している
捨て猫保護サークルでボランティアする。
あのひとたちのほうがはるかに尊敬できるし、
猫のほうがもっとずっとかわいい」
「あたしは猫に劣るっていうの?!」
「劣る。断然 劣る」
「ふざけんな、なら笑わしてみなさいよ!」
岸和田さんが叫びました。
「こんなつまらない、くだらない、価値のない世界に
意味なんかない」
「世界は美しい、どんなにつらい時でも!」
わたしは言い返します。
「だから世界は残酷なんだ。残酷だけど、美しいんだ。
世界から目をそらしたって、その真実は変わらない」
「そんな世界、なくなっちゃえばいい!」
岸和田さんは言います。
「どうせ、あたしは死ぬまでこの部屋から出られないんでしょ、
世界の美しさなんか、欠片も見ることがないまま、
死ぬんでしょ。
だったら、早く死にたい、終わらせたいと思ってなにがいけないの?!
みんな、みんな大嫌いよ!
一生見られない世界とか、一生出られない外とか、
なくなっちゃえばいい!」
わたしはちょっと息をのんで、わめいた少女を見つめました。
彼女の態度は、その深い絶望に根差していたのでした。
斎藤君と同じ、病院から自分が出ることがないと知っている、
その絶望から、彼女はすべてを拒絶していたのでした。
たぶん、斎藤君の中にも岸和田さんはいる。
こうなってくると、オレは岸和田さんを見捨てられない。
なぜなら、岸和田さん≒斎藤君 だからです。
斎藤君が岸和田んを見捨てられないのは
オレが斎藤君を見捨てられないのと同じ理由でしょう。
オレは決心しました。

「いま、世界なんか無意味だって、言ったな?」
わたしは岸和田さんにつめよります。
岸和田さんは挑戦的に言い返します。
「言ったよ、なくなっちゃえばいいって言った」
「なら、本当になくしてしまえばいい」
オレはずんずんと病室に入り、
窓のカーテンを全部 閉めます。
部屋は一気に暗くなりました。
「外の世界なんか、いらない、そういうんなら、
もう二度とカーテンを開けるな。
だって外なんか眺めても無意味なんだろ」
「……そうよ、別に、見たいもんなんかない」
岸和田さんは受けて立ちます。
「見たって、いつも同じ病院の塀と空しか見えない。
見たいもんなんかないわ」
「じゃあもう、二度と開けるなよ」
「開けないわよ、バーカ」
岸和田さんは嘲るように言って、
オレたちを病室から蹴りだしました。
「二度と来るな、バーカ」
もう一度、オレたちを罵ると、
ドアをロックしてしまいました。

「な、岸和田さん、可愛いだろ」
あざだらけになっても、笑顔で斎藤君は言いました。
オレは斎藤君の腰に後ろから蹴りを入れます。
「どこが可愛いんだよ、可愛いところなんか1ミリグラムもねーわ。
けどまあ、驚かせるのはいいね。
あんのクソガキがビックリするところはちょっと見てみたい」
「男爵、なんかアイデアあるの」
「ないこともない」
オレはさっき思いついたことを思い出します。
斎藤君の中にも、岸和田さんはいる。
なら、オレは岸和田さんを笑顔にしなくては。
脳内で戦略とプランを検討し、オレは結論づけます。
「さいわい、オレは絵が上手だから……まあ、うまくいくだろ」
「男爵、オレはなにをしたらいい?」
「毎日、岸和田さんに蹴られてこい」
「いや、別に今でも毎日 蹴られているけど」
「挑発して、彼女が外の世界に、興味を持たないようにするんだ」
「え、逆じゃなくて? 興味を持たせるんじゃなくて?」
「できるだけ持たないほうが望ましい。
そうだな、カーテンを二度と開けないようにしておくくらいがいいだろう」
「わかったけど……勝算は?」
「あるよ、だってオレたちは医療法人●●会●●病院の伝説のふたり、だろ」
「そうこなくっちゃ」
斎藤君とオレはハイタッチします。
「今日からさっそく行動開始だ」
オレは携帯電話で執事を呼び出します。
必要な物資を手配しなくては。
ええと、いるのは金づちと釘とベニヤ板と模造紙と絵具と……。
隣で斎藤君がご満悦でスキップしています。
早くも岸和田さんの笑顔を想像しているのでしょう。

さて、男爵は岸和田さんを笑顔にすることができるのでしょうか。
いったいなにをどうするつもりなんでしょうか。
仕込みに時間がかかるため、来週に続く。


以上、ホラ九割程度で。
生きるのが嫌になることくらい、
生きてりゃ何回もあるよ。
死んだほうが楽なんじゃないかって思うときもあるよ。
けど、だからって本当に死ぬのも違う気がする。
オレの座右の銘は「死ぬときはドブの中でも前のめり」だから。
生きてるとき、すっごくあがいて、自分のベストを尽くした人だけが、
死ぬとき、満足できるんじゃないかな。
往生できるんじゃないかな。
そういうひとだけが、ちゃんと死ねるんじゃないかな。
どうだろうか。
死んだことないから、本当のところはよくわからないけど、
オレは「とりあえず生きてる間はあがく派」です。
まあ、人それぞれ考えはあると思うので、
生き方は自由だと思います。
死に方も自由だと思います。
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2014年5月 4日 (日)

君にサプライズを。

前回までのあらすじ:
 相変わらず虚弱で病弱な黒羊男爵。
 持病が悪化して何度目かの入院生活を送る羽目に。
 もう慣れたもので、病院内でも
 斎藤君というツーカーの仲間とともに
 やりたい放題、伝説を作りまくる毎日。
 そんな男爵は、今週は何をしていたのかな?

先週のはじめ、病室のわたしを訪れた斎藤君が
珍しく深刻な表情で言いました。
「最近、生きる気力が湧かない」
「へえ、奇遇だね! 実はオレも生まれてこの方、
生きる気力があったことがなくて。
もう毎日 灰色で仕方なくて。
いやんなっちゃうよね、ホントに。はっはっはっ」
斎藤君がどんな無茶ブリをしても、応えるわたし。
斎藤君は首を振ります。
「違う、違う、オレじゃない。
オレは生きる気満々だから。
それから、男爵でもない」
「へ? じゃあ婦長さんとか?
まさか院長が? やっぱり脱税してたんだ?」
「違う、違う、婦長さんでも院長でもない。
それから院長はカツラで入れ歯かもしれないけど、
脱税はしてない。オレが知る限り」
「するってえと、謎の第三の人物ですね、斎藤刑事」
「そうなんだ、被疑者はなかなか口を割らない。
割らないどころか、活きる気力がないと言う。
男爵刑事、君はこういうのどう思う?」
「イカンですね、病人から生きる気力を取ったら、
あっさり死人になってしまいます」
「そうなんだ、イカンよね。
死に抵抗してこそ、病人、生にしがみついてこそ、病人だよね」
斎藤君はため息をつきました。

「で、被疑者は誰なんスか」
わたしはベッドサイドのメモ帳を取り上げ、
刑事を続けます
斎藤君は顎をこすりながら、
「被疑者は岸和田良子(仮名)、
オレと張るくらい、入院歴が長く、
つくづく疲れてしまって、生きる気力をなくしている」
と言いました。
ほう、ほう。
「てことは被疑者はうら若い女性で、
にもかかわらず、無感動の極みにいる、ということですね」
「そうだ、彼女は若い。もったいないな」
「もったいないスね。美人スか」
「それなりに。将来に期待できるだろう。
そこでだ、男爵刑事」
斎藤君は本題を切り出しました。
「ぼくらで彼女を、たくさん笑かして、
生きる気力を持たせることはできんかね?」

うーん……。
わたしはメモ帳を捨てて真剣に考えます。
なかなか今回のミッションは難しい予感がするぞ。
だって本人に生きる気力がないのに、
それを掘り起こそうって話でしょ。
「かなりな難題ッスね」
「そう思うか? だが、やりがいはあるだろう」
「そりゃ、美人を一人救ったとなると、
大きく自己満足できそうッスけど」
「オレたちは医療法人●●会●●病院の
伝説のふたり、だな?」
斎藤君の確認に、オレは刑事をやめます。
「まあ、そうだけど」
「いままで何度も、同室の人たちを笑わせてきたよな?」
「まあ、成功したね、オレと君がやればね」
「だったら」
斎藤君は宣言しました。
「オレと君で! 岸和田さんを笑わせ、
生きる気力を取り戻すんだっ」
「イエッサ―! 男爵の辞書に『不可能』はありません。
うちの辞書、落丁本なんで!」
「そうだ、オレたちに不可能はない!
思い込み激しいから!」
オレと斎藤君は両手で強く握手し、
ここに、
「岸和田さんをどうにか笑かして
生きる気力を取り戻す会」が結成されました。
岸和田さん本人の意志とは無関係に。

果たして、男爵&斎藤君コンビは、
岸和田さんを笑かして、
前向きにすることができるんでしょうか。
このミッション、かなり難しいので、来週に続く。


以上、ホラ九割程度で。全員仮名だしね。
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「そんなときもあるよね、でも立ち直るよ」って方、
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まずは情報収集からですかねえ。
敵を知らないと戦えないからね。
そこらへんから、来週は始めます。

2014年4月20日 (日)

オレたちのこと。

前回までのあらすじ:
 毎度のことながら、持病が悪化して入院した男爵。
 ホームグラウンドのいつもの病院で
 婦長に怒られたり、
 看護士さんに怒られたり、
 執事に怒られたり、という日々。
 つまり一言で言えば、
 「入院してるけど、ろくでなしだよ!」ってことです。
 ろくでなしは、どこへ行ってもろくでなしだね!

この病院での病人仲間に
「斎藤君」という青年がいます。
初回の入院時に同じ部屋だった彼は、
初めての挨拶から男爵と意気投合、
医療法人●●会●●病院の伝説、
「男爵&斎藤君」コンビが結成されました。

オレがたまに入院する(メインは自宅療養)の後衛型なら、
斎藤君は常に入院している戦地常駐・前衛型病人です。
オレより入院歴は長いけど、
オレと同じくらいユーモアのセンスがある斎藤君。
いままで二人で、
「(病室での)真昼のパーリー」
「(夜中の病室での)ゾンビゴッコ」
「(病室内での)お花見」
などを演出してきました。
そのたんびに、婦長には物凄い量の説教されましたが、
斎藤君も俺も こりません。
なにせ灰色の病人生活、
それを明るくするには、
「ユーモアと非日常が必要だよね!」。
そんな楽しい相棒の斎藤君について、
オレの知っていることを語ってみましょう。

斎藤君の病気は不治の慢性病です。
珍しい病気(厚労省指定)なので、
よく効く決定的な薬とか、
治療法とかはまだ確立されていません。
対症療法的に、点滴や投薬でその場をしのぐ状況です。
だから彼の後ろには常に点滴棒(正式名称不明)が
あります。
手首には点滴用の穴が開けられています。
体型は痩せ型で頬が少しこけています。
ですが彼の眼にはいつも明るい光があり、
口元には笑いじわがあります。
笑うことが大好きで、冗談ばかり言います。
彼が来ると場が明るくなる。
そんなひとです。

彼がいると、オレのホラはとめどなく流れます。
ある日、ナースステーション前にて。
オレ:「ここさ、二階に開かずの扉があるでしょ」
斎藤:「あるねえ。それで?」
オレ:「昨日どうしても我慢できなくてね、開けちゃった」
斎藤:「へえ! どこにつながってたの?」
オレ:「驚くなよ」
斎藤:「なになに?」
オレ:「なんと、院長室につながってたんだよ!」
斎藤:「院長室に?!」
オレ:「せっかくだからさ、院長の椅子に座ってみて、で、
    『怪盗バロン参上。大切なものをいただいた』って紙を置いてきたよ」
斎藤:「ああ、それでか! やっとわかったよ」
オレ:「そうなんだよ」
斎藤:「だから院長は入れ歯をなくしていたんだね!」
オレ:「オレが盗んだのは入れ歯じゃないよ、カツラだよ!」
斎藤:「てことは、入れ歯はあのひとが……?」
オレ:「信じられないよね」
斎藤:「まさか婦長さんがコレクションしていたなんて……!」
オレ:「そんな習癖があの婦長さんに?!」
婦長:「――もういいから、二人ともそこに正座して歯を食いしばれ」

こんな感じで、オレと斎藤君がそろうと、
話がどんどん飛躍して膨らんで
制御不能になっていきます。
必然的に拳骨をもらう機会が増え、
正座の回数も増えていきます。

別のある日、ナースステーション前にて。
斎藤:「オレ、ついに告知されちゃったよ」
オレ:「ああ、やっぱりこの日が来てしまったか……」
斎藤:「前々からそうじゃないかなとは思っていたんだけど」
オレ:「まあ、ね」
斎藤:「ビックリだよね」
オレ:「ホントに」
斎藤:「オレが魔王の生まれ変わりだったなんて……!」
オレ:「オレは勇者の生まれ変わりだから、
     オレたちは戦わねばならない宿命を背負っていたんだね」
斎藤:「友よ、できれば永遠に友でいたかった……!」
オレ:「オレもだよ、魔王。だが宿命には逆らえない」
斎藤:「こうしてオレたちの戦いが始まる……!」
婦長:「――二人とも、脳のレントゲンを撮ってもらいましょうか?」

なんで毎回ナースステーション前かというと、
オレたちは観衆(ギャラリー)を欲しているからです。
だから毎回 婦長に殴られてますが、
別にマゾではありません。
婦長の背後で机に突っ伏して笑ってる看護士さんや、
あっけにとられて茫然としている見舞客のために
オレたちは真顔でホラを吹きまくります。
こうして日々 伝説は作られていきます。
オレが退院するまで伝説は続きます。


以上、ホラ九割程度で。
斎藤君は自分が完治して退院する日が
永遠に来ないことを知っています。
自分が病院で死ぬことを知っています。
「でもさ」と彼は言います。
「だからどうしたって言うんだ?
人間はみんな誰だって死ぬんだ。
オレも同じだよ。人間だよ」
彼は生きることを、けっしてあきらめません。
オレは彼の生きざまが大好きです。
彼のように生きて、彼のように死ねたら、と思います。
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2014年4月13日 (日)

みたいな。

前回までのあらすじ:
 日ごろの行いか、誰かの呪いか、
 またまた入院してしまった黒羊男爵。
 しかしその病院は何度も入院したホームグラウンド、
 斎藤君という、ツーカーの仲間もいる病院だった。
 はたして、男爵は婦長の言う通り、
 おとなしく病人をやっているだろうか。
 今週の男爵の様子を見てみよう!

どうも、こんにちは、黒羊男爵です。
ええ、入院中です。
病人やってます。

が。
ひたすら病人だけやっててもツマラナイよね!
だって、病人歴が長いから、
病人だけに集中してるとネガティブになってしまう。
そんなときこそ、非日常を創造して楽しまないとね!
え、病人は寝てろって?
そんなこと言ったら、オレは一生 寝たきりだよ!

てなわけで、先週の木曜日、
わたしと斎藤君はまたヤッちまいました。

先週の日曜日:
斎藤君:「男爵、ホントに大丈夫なわけ?」
わたし:「大丈夫、大丈夫。発注はもう済んでて、
     ウチに水曜日には届くから。
     執事にもって来させるよ」
斎藤君:「執事さん、協力してくれるの?」
わたし:「心から協力しないだろうけど、
     A●Bの握手券で買収したから、大丈夫」
斎藤君:「あの堅そうなひとがAK●……」
わたし:「人間だれしも、弱点はあるってこと。
     それさえつかめばこっちのもんだよ、
     はっはっはっは」
斎藤君:「合言葉は?」
わたし:「みたいな!」
斎藤君:「みたいな!」

先週の水曜日:
斎藤君「男爵、そろそろいいかな?」
わたし:「ええと、壺にポットに脚立、扇……。
     今日アレも来るはずだから、
     バッチリだね!
     明日 実行しよう」
斎藤君:「合言葉は?」
わたし:「みたいな!」
斎藤君:「みたいな!」

そして先週の木曜日、
ついに実行当日となりました。
わたしがいる大部屋が会場となります。
まず部屋のドアを締め切り、
六人いる同室の方にはすべて
ベッド回りの個別カーテンを閉めてもらいました。
部屋の中央でする作業が見えないようにです。

わたしと斎藤君は大部屋の中央に
執事がこっそりと運んできた物資を配置します。
斎藤君:「男爵、脚立はこのへん?」
わたし:「ああ、いいんじゃないかな。
     斎藤君、お湯は?」
斎藤君:「さっき沸いてたよ。早い、さすがティフ●ール」
わたし:「これ、ちゃんと中央に敷けてる?」
斎藤君:「もうちょい左かな? 壺はいい感じ」
わたし:「よっしゃ、じゃあカーテンを開けよう」
斎藤君:「合言葉は?」
わたし:「みたいな!」
斎藤君:「みたいな!」

「いいですかー、
まだ目を開けないで下さいよー。
カーテンだけ開きますからねー」
私と斎藤君は同部屋の六人のベッドカーテンを
開けて回ります。
ベッドの上にはおじさんやらおじいさんやらが
律儀に言われたとおりに目をつぶって
横たわっています。
これからなにが始まるのかは
まったく聞かされていません。

よっしゃ、準備完了!

斎藤君:「それでは合言葉を言ってください!」
部屋のみんな:「みたいな?」
わたし:「目を開けてください!」
部屋のみんな:「おおおおおおお!」

合図で目を開けたみんなは、
目にした光景にどよめきました。

大部屋の中央に緋毛氈(ひもうせん。赤いじゅうたんみたいなの)が
一面に敷かれています。
その上には信楽焼の大きな壺が置かれ、
壺には、いまがさかりと満開の花をつけた
桜の枝が八本 活けられていました。
設置された脚立にのぼった斎藤君が
大きな緋色の扇で桜をあおぐと、
桜の花びらが、はらはらと緋毛氈に舞い落ちます。

「すごい、本物の桜だ!」
同部屋のみんなは思わず起き上がって、
まじまじとその光景を見つめます。
わたしは号令をかけます。
「さ、起きられるひとはもっと近くへどうぞ。
触ってもいいし、じっくり見てください。
合言葉は?」
同部屋のみんな:「みたいな!」
みんなで桜を囲んで車座になります。
わたしはテ●ファールで沸かしたお湯で
桜茶(塩漬けの桜にお湯を注いだもの)を作り、
配って回ります。
塩分が気になる方には、
わたしがたてたお抹茶を配ります。

みんなは手の内の井戸茶碗の桜茶の桜を見て、
頭上の桜を眺めて、
ため息をつきました。
「きれいだなあ」
「まさか、本物の桜をこんな近くで見られるとは思わなかった」
「桜、遠いもんなあ。本当に何年ぶりだろう」
中には涙ぐんでいる方もいました。
病人生活の楽しみといえば、お見舞いとテレビだけ。
桜を見るのも、テレビの中継か、
窓の外の遠い桜を眺めるだけ。
桜吹雪なんて、もう何年も経験していません。
同部屋の仲間の中にはご家族がすでに亡く、
お見舞いすらほとんどないという方もいます。

「まさか桜を見られるとは思わなかった。
ありがとう、男爵君、斎藤君」
誰ともなく感謝の言葉と拍手が沸き上がりました。
わたしと斎藤君は首を振ります。
斎藤君:「いいえ、お礼なら、竹内さん(仮名)に言ってください」
わたし:「今回のプロジェクト『みたいな』は竹内さんのおかげで
     始動しましたから」
みんな:「え?」
竹内さん:「え、オレ?」
みんなの視線が竹内さんに集まります。

わたしは説明しました。
「今回の『みたいな』プロジェクトのアイデアは
竹内さんからです。
竹内さん、この前、言っていたじゃないですか。
「桜がみたいな」って。
だから、斎藤君とわたしで魔法をかけました。
竹内さんのあの一言がなかったら、
いまのこの光景はありませんよ」
竹内さんは慢性病で入院歴が長く、
またご家族が亡くなっているので、
お見舞いも差し入れもほとんどありません。
わたしと斎藤君は竹内さんの一言を
かなえるべく、今回 奮闘したのでした。

「ありがとう、ありがとう」
竹内さんは涙を浮かべて、
わたしと斎藤君に頭を下げました。
わたしたちはあわてて手を振ります。
わたし:「竹内さん、わたしたちは便乗しただけなので、
     むしろお礼を言うのはこっちですよ」
斎藤君:「そうですよ、楽しかったですよ」
竹内さん:「本当にありがとう」
みんな:「ありがとう」
わたし:「いやもう、お礼なんてお互い様ですよ。
     同じ病人仲間じゃないですか。
     さ、そんなことより、桜を楽しみましょう。
     屋外が遠いんなら、屋外を室内に入れればいいんですよ。
     合言葉は?」
みんな:「みたいな!」

こうして、男爵&斎藤君プロデュースの
プロジェクト『みたいな』は無事完了しました。
正確にいうと、この後、
どんちゃん騒ぎになって、
婦長が鬼の形相で乗り込んできて(二回目)
わたしと斎藤君はまたリノリウムの床で
正座させられて、説教を食らいました。

婦長は半ば呆れてました。
婦長:「よくもまあ、室内で花見なんて思いつきますね」
わたしと斎藤君:「いやあ、それほどでも」
婦長:「褒めてない!」(拳骨がわたしたちの頭に落ちる) 
日常の中の非日常って大切だよね。
まして病気なんてネガティブなもの抱えていたら、
心の持ちようで人生が変わってしまいます。
たまには はめを外してもいいんじゃないの。
桜の季節くらいはさ。


以上、ホラ九割程度で。
まあ、仮名が多いし、そもそも病院名も伏せてるから、
ホラが多くなります。
でも、お花見はしたよ。
桜っていいよね。
それでは最後に合言葉は?
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「みたいな」はあえて平仮名です。
「見たいな」と「~みたいな」(花見みたいな)(女子高生風)を
かけてます。
竹内さんは桜の下で笑ってました。
それだけでわたしと斎藤君は満足です。

2013年2月17日 (日)

斉藤君、なにやってんの。

今日は、病人仲間の斉藤君から手紙をもらいました。
(斉藤君について詳細は下記日記を参照。
 世界に広がる病人の輪:
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2012/03/post-b8f7.html
 ミラーボールは輝いて:
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2012/06/post-78ed.html

手紙っていうか、具体的に言うと、ハガキだったけど。
ハガキっていうか、詳細を言うと、喪中ハガキだったけど。
死亡予定の本人から、写真つきの黒枠で囲ったハガキをもらいました。
なにやってんのwww

えーと、なんだって?
ハガキによれば、斉藤君は先週の水曜日くらいに
死亡しているとの事です。
つまり今頃はもう、羽根が生えてエンジェルになってるってことですね。
この世の人ではないわけです。
ハガキはつづります。
「生前はひとかたならぬご厚情をいただき、誠にありがとうございます」
「本人の意志にて葬儀は密葬で」
「葬儀は2月●●日 於:自宅」
「航海はした、後悔はしなかった、更改は必要がある、
というのが最期の言葉でございました」
なにやってんのwww
実はさっき、斉藤君と電話で話して、
名探偵コ●ンの最終回について予想していたので、
このハガキはまったく意味がないのですが。

というか、意味がないハガキをヤツはあえて出してきたのですが、
本当に、
なにやってんのwww
自虐ネタもここまでくると笑います。
いったい何人にこのハガキを出したのか知りませんが、
ちゃんと灰色のすかしで「偲」とか文字が入ってて、
凝ってます。
印刷屋さんにお願いしたに違いありません。
どうやって発注したんだろ。
「わたしの喪中ハガキを出してください」って言ったんだろうけど、
その場に居合わせたかったよ。
印刷屋さんのリアクションが見たかったな。
つーかさ、これってつまり、
「電話くれってことだよね」
お金と時間をかけて盛大にボケ倒しているのですから、
人としてツッコミを入れてあげなくてはいけません。
わたしは早速、さきほど話したばかりの斉藤君のPHSに連絡しました。

「もしもし、男爵だけど」
「あれ、どうしたの。コナ●の最終回になんか閃いたの」
「違ぇよ、ハガキ届いたよ。このたびはご愁傷様でした」
「いいええ、病人とは言え、
やりたいようにやりぬいた人生でしたら、
本人も思い残すことはなかったと思います」
「そうでしたか。思い残しはありませんでしたか。
ソレは何よりでした。
ですが、惜しいひとを亡くしました。
友人たちはみな涙に暮れると思います」
「そういっていただければ、本人も喜ぶと思います」
「ええ本当に。最期に立ち会うことができなかったのが、
残念でなりません。
それだけが友人として心残りです」
「穏やかな最期でした。すぅっと眠るような最期でした」
「そうでしたか。苦しまずにすんで何よりでした」

「ところで男爵様は今回は何点くらいだと思われますか」
「そうですね、手間と時間をかけてますし、
自虐度と皮肉がかなり高レベルなので、
芸術点と技術点が加算されて、
9.98くらいではないかというのが審査員の一致した意見です」
「9.98ですか。0.02のマイナスが痛いですね」
「そこはそれ、ブラックユーモアですから。
お子様に向かないということで、自戒をこめてのマイナスですね」
「次回はやはりもっとファニーな方向でしょうかね」
「世界が求めているのは、自虐ではなく
ファニーですね。明るい笑いですね。
まあ、私は個人的にこういうの、キライじゃないですけどね」
「キライじゃないですか。ならよかったです」
「ええ本当に。次回はふたりでまたなにかやりましょうと、
お伝えください。
三人寄れば文殊の知恵、二人寄れば阿修羅の知恵と言いますから。
二人なら、ファニーな方向で高得点を得られるアイデアが出ると思います。
ではでは、また」
わたしは遺族であり、死亡者本人でもある斉藤君との電話を切りました。

斉藤君、本当に、なにをやってんのwww
まあ、ヒマだったんだろうけどな。
いまはわたしも入院していないので、
なんとか独りでボケてウケをとろうとしたんでしょう。
彼はボケに、くだらないことに命をかけてます。
またお見舞いに行きたいな。
なかなか体調が外出を許してくれませんが、
わたしを待っている友人がいる。
そう思うと、なんか元気出てきました。




以上、ホラ九割くらいで。喉元までホラにつかるくらいで。
たまにはブラックユーモアもあります。
でも、わたしはやっぱり斉藤君が大好きです。
血反吐はきながらでも、笑う。
その根性が、見あげたもんだと思います。
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次回はもっとほのぼのとしたブログをUpしたいですね。
来週くらいなら、春も来てるかもしれませんからね。

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2012年6月30日 (土)

ビックリ、みんなゾンビだよ☆ と、男爵の退院。

夜の病院と言うのは、
ある種の恐怖が淡く漂っているものです。
緑色の非常口案内、
カーテンを引かれた病室、
耳を澄ませば――いや、静かなので
ついつい無意識にも耳を澄ませてしまうのですが――
遠く誰かの足音がする。
誰の足音だろう。
こんな真夜中に院内を歩いているのは
見回りの看護士くらいだけれど、
自分自身がその見回りの看護士だ。
あの足音、なんだか近づいて来る。

いや! 気のせいだから。
また先輩に笑われちゃうから、
しっかりしないと。ちゃんと見回らないと。
そう思い、片手のペンライトで足元を
照らしながら病室へ入り、
順番に一番手前のベッドで寝ている田中さんに
軽く光がかすめた瞬間、
「ぎゃあああああああっつっつ、きゃあああああ!!!」

青黒い皮膚の上で、
田中さんの鼻と耳と目が溶け出していました。
おっおっおっ、お化け! 腐乱死体!

「はーい、ビックリ大成功!」
わたくし黒羊男爵は田中さんのベッドの横で
腰を抜かしている看護士さんにスリッパを鳴らしながら近づきます。
看護士さんは振り返り、私を認めると、
「ぎゃああああああ!」
とまた、心地よい絶叫を上げました。
はい、わたし自身も特殊メイク加工された
ゾンビマスクをすっぽりかぶってました。

悲鳴を聞きつけて、他の看護士さんがやってきます。
「ちょっとどうした、うわあああっ!」
「こんばんは」
同じくマスクをかぶった斉藤君(入院仲間)が
駆けつけた看護士さんの肩を暗闇から叩きます。
斉藤君を認めて、看護士さんがのけぞりました。

「大成功!」
斉藤君と私はきゃっきゃっと喜びました。
今晩はよく眠れそうでした。

翌日、婦長が病室にやってきて、
厳かに伝えました。
「黒羊さん、あなた、出て行ってください」
「へ? なんでわたしが?
あ、もしかして昨夜のことですか?
あれはちょっとした冗談ですよ~。
それにそれなら、入り口担当の田中さんや
足音BGM担当の久保さん、
斉藤君も同罪ですから、
わたしだけを罰すると言うのは
ちょっと不公平ですよね~」
「違います。罰ならあとで説教を用意しています」
婦長は無表情に言いました。
「昨日の定期診断で、
あなたの、●●の数値が通常に戻りました。
だから退院してください」
「え、男爵と仲間たちの冒険の物語はこれからなのに?」
「さっさっと出て行け、このろくでなし!」
三時間の説教のあと、婦長に蹴り出されるようにして
わたしは退院しました。
斉藤君は笑っていました。

こうしてわたしは自宅に戻ってきました。
いろいろあった病院生活ですが、
職業病人ですから、また入院することもあるでしょう。
入院したら、斉藤君と新しいネタをやります。
え、入院してるほうがブログ読んでて楽しいって?
そんなこと言わないでくださいよ、
男爵と仲間たちの冒険の物語はこれからなんですから。




以上、ホラ八割程度で。強めのお薬くらいで。
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2012年6月17日 (日)

ミラーボールは輝いて。

現在 わたしは入院中です。
絶対に安静にしてろというお達しが出ています。
でもさ、退屈なんだよね。
執事が持ってくる本も読み終わっちゃったし、
アマゾンで取り寄せた ちはやふる の最新巻も読んだ。
(あの千早ちゃんが●●が●●だと自覚するとは!)

同じ病室はいつものメンバー。
そうです、ここはホームグラウンドの病院なので、
もう入院する部屋も決まってるし、
だいたい大部屋のメンバーも変わってない。
まあ、二、三人、出入りがあるくらいですね。
同部屋には入院仲間のあの斉藤君もいます。
(※ 斉藤君とわたしの関係については、下記。
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2012/03/post-b8f7.html

先週、わたしの中の「非日常を求めるぞ熱」が高まり、
ついに斉藤君とわたしは、またヤっちまいました。
なにをやったのか。
それはね。

「イエーイ、レッツパーリー!」
「イエーイ!」
ジャンプの裏表紙の通販で購入した卓上ミラーボールが
カーテンを引かれた大部屋の中央で回ります。
斉藤君とわたしの手元にはおうちカラオケ用のマイク。
同部屋のみんなにはタンバリンやカツラ、カスタネットを配布。
「さあ、今日も始まりました、
●●病院、●●号室 真昼のパーリー!
ご案内役はわたくし黒羊男爵と」
「病院歴は伊達じゃない、
熟練のコメンテーター、斉藤がお送りいたします」
「ではまず最初の一曲目、
病歴十五年の田中さんが歌います王道中の王道、
この歌を、どーぞ!」
♪チャンチャンチャチャララ、チャンチャンチャチャララ
田中さんが水戸黄門のテーマ曲を熱唱します。
田中さんに向かって、怪我しないよう
芯を抜いた紙テープが飛びます。
「イエーイ、盛り上がってまいりました、
続いては、わたくし、黒羊男爵が歌わせていただきます。
曲は、へんなあだ名はイヤ!」
「おっと、万年窓際の工藤さんから「ちょっと待った」だ!
工藤さんの名曲、地上の星 をお聞きください」
「では、わたくし、斉藤は、よくある苗字斉藤 を魂込めてお送りします」
次々にマイクが回されて、ミラーボールが輝く中、
歌いたい曲を歌いたいように歌う患者たち。
中には半身を起こすこともできない人もいますが、
口元のマイクへむかって蚊の鳴くような声で
「メリーさんの羊」を歌います。
歌は心です。
どんな曲だろうと、盛り上がろうと思えば盛り上がれる。
病室の興奮は最高潮に達しました。
ベッドの上で仁王立ちになる病人たち。
自然にウエーブが生まれ、曲に合わせて
人波が病室を回ります。
「イエーイ、パーリー!」
「レッツ、パーリー!!」

「うるさーい! なにやってるんですかっつっつつ!」
バリケードを作っておいたドアを強行突破して、
婦長が鬼の形相で現れました。
「イエーイ!」
わたしは婦長にハイタッチを試みますが、
代わりに脳天へチョップをくらいました。
倒れるわたし。止まるミラーボール。
「またあなたたちですか、黒羊、斉藤!
いったい何回 病人は病人をやってろと言えば、
おとなしくするんですか!」
「いや、差別はよくないですよ、
パーリーしてても病人はちゃんとやってますよ」
ほら、と斉藤君が自分の背後の点滴棒を指さします。
「病人はパーリーはしない!
当たり前のことを言わせるな」
婦長のチョップが斉藤君の脳天にも炸裂。
DJがふたりとも完全沈黙したので、
他の病人たちはそそくさと布団の中へ戻りました。

このあと、ミラーボール、マイク、小道具はすべて没収されました。
当然、わたしと斉藤君は婦長の監視下に置かれ、
「次にやったら、部屋を変える」とまで言われてしまいました。
でもさ、病人だって、たまにはバカをやりたいんだよ。
はっちゃけたいんだよ。
はっちゃけすぎちゃったみたいだけど。
ウエーブはやりすぎだったかもだけど。
ライブ会場みたいになってたもんね。

そんなこんなで、わたしはまたヤっちまいまして、
見張られているわけです。
相変わらず、ブログはトイレの個室からの更新になるわけです。
斉藤君は、でも、さっきトイレへ行くわたしにウィンクしました。
わたしにはそのウィンクの意味がよくわかりました。
「また次、なんかおもしろいことやろうぜ!」
もちろん、了解です。
次は、そうですね、病室メンバー全員で
ゾンビのお面とかかぶるといいかもしれません。
夜中の巡回にやってきた新卒の看護士さんが
絶叫をあげることになるでしょう。




以上、ホラ八割程度で。
わたしと斉藤君は、まったく懲りません。
病人を続ける間は、きっと懲りないと思います。
そんな二人が入院している
医療法人●●会●●病院は、
とっても楽しい病院です。
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