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2016年4月10日 (日)

千●戦争の帰趨。

前回までのあらすじ:
 友人Vに夕食に招かれて、手土産持参で訪れた黒羊男爵。
 だがそこは、毎晩 嫁姑戦争が繰り広げられる漆黒の戦場だった……!
 友人Vは客人である男爵を放置してあっさり戦死、廊下に沈没した。
 残された男爵は修羅二人、もとい女性的な生物二体とともに友人V宅のリビングにて、
 千●戦争の停戦協定に挑むことになる……!

ち、沈黙が重い。
ダイニングテーブルの上のチンジャオロースが冷めていく。
向かい合う席に座ったお母さんと奥さんはひとっことも発しません。
ただ眼だけを爛々と輝かせて、相手をにらんでいます。
視線だけで「その生命(たま)、とったろか!」と言っています。
フローリングの床に正座した俺は、もう生きた心地がしません。
ですが、なんとかしないと!
なんとかして、帰宅しないと!
このまま友人V宅でお泊りとか絶対に嫌だよ!
それって地獄に前泊するようなもんだよ!
次の日も地獄になるってもう決まってるようなもんだよ!

「えーと、とっても美味しそうな晩御飯ですね!」
俺は乾いた喉から声を絞り出します。
「そう? 脂ぎっててあたしは受け付けないね」
お母さんは料理よりも冷えた言葉を投げます。
「またまた、お母様ったら。
お母様が喜んで受け付けるもののほうが少ないじゃないですか。
この世では」
奥さんは微笑みながら言いました。うおお、寒い! 寒いよぉ!
戦場ではシベリアのツンドラ地帯並のブリザードが吹き荒れています。
どうにかせねば。
どうにかしなくては、俺の生命が危ない!

「わたくしは、あの、思うんですけど、
お二人はおそらく誤解されていると思うんですけど」
俺は起死回生の文言を繰り出しました。
「誤解? なにをだい?」
「なんのことかしら?」
修羅二人は一斉にこちらを見ます。
うおおお! 視線の強さがハンパない。
心臓が弱い人なら死んでそう。
「あのですね、
お二人はそもそも競合するようなお立場ではないと思うんですよね。
だから、大丈夫だと思うんですよ。
うん、大丈夫なんですよ、ホントは。
本当は、もっと笑い合って暮らせるはずなんです」
「意味がわからないね」
「わたしは十分、楽しい生活を送っていますよ?」
「つまりですね、お二人はお立場が違うんです。
お母様は、息子さんをとても慈しまれた。
もしかしたらこの世で一番大切にしてきたのかもしれない。
だから当然、息子さんに最優先される権利がある、
そうじゃないですか」
「あたりまえだよ」
お母さんはふん、と鼻息を吹きます。やっぱり、ドラゴンに似てる。
逆に、奥さんは露骨にすっごく嫌そうな顔をしました。
俺は慌てて次の言葉をつなぎます。
「で、奥様は息子さんに一番に愛されて嫁いできた。
だから、当然、息子さんにとってかけがえのない存在である。
そうじゃないですか」
「……そういうもんかね」
「当然ですね」
今度は奥さんが鼻息を吹きます。
「で、で! わたくし思ったんですけど!
お二人にとって、
どちらが息子さんにとって至上の女性かという問題が
重要なんではないかと思ったんですけど、
違いますか」
「その通りだよ。まあ、あたしだけどね」
「結婚指輪がすべてを物語っていますけどね」
修羅二人は再びにらみ合います。
わたしは全身の勇気を振り絞って割って入り、
「だからですね!
お二人とも立場が違うんですよ。
たとえて言えば、
魚のアジは鳥と馬、どっちに似ていますか?
比べられませんよね?
女性というくくりが同じだから、
簡単に比較できると勘違いしていまうんですけど、
本来、母性と異性は比較できるものじゃないんですよ。
それは女性という同じものの違う面でありながら、
同時にまったく異なる性質なんです。
だから、お二人が同時に
息子さんにとってそれぞれ尊いということはあるんです。
ありえるんです。
それは息子さんが優柔不断だからとか、
選べないからということではなく、
お母様は息子さんにとって世界一の母親、
奥様は息子さんにとって世界一の異性、ということなんです。
次元がまったく違うんですよ。
もしお二人が同時に崖から落ちそうになって
どちらか一人しか助けられないということになったら、
息子さんはおそらく、自分がまっさきに飛び降りるでしょうね。
だから、この戦争には意味がないんです。
だって比較できないものをどうやって比較するんです?
どうやって何を基準に選ぶんです?
もし選べないはずがないというのなら、
逆にわたくしから訊きます。
あなたの旦那様と息子さん、どちらが大切ですか?
これでどちらか一つを選べるのなら、
それこそ、そっちのほうが女性として、
母として異性として不人情じゃないんですか。
息子さんは、友人Vはとても情が深い。
だから奥様もお母様も大切にしている。
鳥は鳥であるように、
馬は馬であるように、
どちらもそれぞれの美しさを、あるがままを愛している。
それじゃ駄目ですか。
これだけ愛されても、あなた方には足りませんか」
と、長々と演説をぶちました。

「!」
お母さんと奥さんは、驚いたような表情で黙り込みました。
「そうなんです、比較はできないものなんですよ」
俺はダメ押しを叩き込んで、立ちました。
「女性同士だから、比較できると勘違いしてしまうだけなんです。
比較はできません。選ぶことはできないんです。
お母様、もし息子さんがあなたを選んだら、
息子さんは孝行息子かもしれませんが、
鬼のような夫でしょうね。
奥様、もし友人Vがあなたを選んだのなら、
彼はいい旦那様かもしれませんが、
父親として、息子として失格でしょうね。
そんな烙印を、彼に、あなた方は押したいですか?
自分たちの大切な息子・伴侶をひとでなしにしたいですか?
もし愛されたいのなら、まず愛してください。
彼を大切にしてあげてください。
それでいいじゃないですか。
彼はきっと、愛された分だけ、愛してくれます。
大切にしてくれます。
それで、いいじゃないですか」
そっと、俺はテーブルの横を抜け、
愕然として座り込んでいる元修羅たちから離れます。
そうです、二人とも驚きのあまり、敵意が失せていました。
「あ、あたしは……」
「わたしは……」
そのまま、言葉が続きませんでした。
俺はもうそれ以上何も言わずに、ドアのところで深く一礼し、
通りすがりに廊下で沈没している友人Vにもう一度 蹴りを入れ、
「失礼いたしました」
と言って、玄関ドアを閉めました。

終わったよぉおおおおお!
出られたよぉおお!
うわあああん、もう駄目かと思った、
もう二度とこの家から出られないんじゃないかと、
自宅に帰れないんじゃないかと思ったよ!
こうして、友人V宅の千年戦●は終結を迎え、
俺はもう這うようにして帰宅したのでした。
もう二度と、あいつの家にはいかない。


以上、ホラ九割程度で。
まあ、今回も適当にもっともらしいこと(ホラ)を吹いて
なんとか窮地を逃れました。
これ、あくまでもホラだから、
絶対に自分の家の嫁姑戦争に使ったりしないでね!
なにか起きてしまっても、責任とれないからね!
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でも、比較できないものを比較したくなる気持ちもわかるよ。
それだけ愛しているから、愛されたいんだよね。
そう思うことは悪いことじゃないと思うよ。

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