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2016年2月21日 (日)

「人の為」と書いて。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。
ええと、来週末にまた簿記二級受けるんですけど、
肋間神経痛が出たせいで、全く勉強できていません。
呼吸が苦しくて痛いです。
でもそんなことでへこんでたら、俺の人生、何一つ始まらない。
てなわけで、いつもように、ホラを通常運転で吹いていきたいと思います。

「でもな、いかんせん、ベッドに釘づけ状態じゃ、
できることが限られているよな」
ミルクティーを飲みながら、俺は執事に言いました。
執事は首をかしげて、
「ホラに身体状況は関係ないのでは?
大病を患っていても、ベッドでも座敷でも路上でも、
吹きまくるのがホラではありませんか?」
と言いました。
なんだ、こいつ、自分はホラをほとんど吹かないくせに、
言いたいことを言ってくる。
なんだそれ、美学か、おまえの美学なのか。
執事の癖に美学があるとか、生意気な。

「じゃあ、俺が以前、ボランティアに行った時のことを話してやるよ。
それならいいだろ」
「わたくしは特に何も申し上げておりませんが」
「うるせえ! そこまで言われたら、もう話すしかねえだろ。
だから話してやるよ、Sさんに起きた悲劇をよ」
俺は話し始めました。

そもそもSさんは、児童文学が好きな独居老人でした。
赤毛のアンが大好きで、図書館の児童書コーナーで
俺と知り合いになりました。
うん、そう、俺は赤毛のアンも読むよ。
ていうか、モンゴメリの著作はかなり保持している。
詩集とか、レアなもんまで持ってる。
Sさんはつつましやかな、穏やかな笑顔の似合うおばあさまで、
俺は自分のコレクションの一部をSさんに貸し出して、
二人でモンゴメリ談義をするようになりました。
「男爵さんほどじゃないけれど、うちにもモンゴメリの本はあります」
Sさんは言います。
「うちにある宝物と言えば、本くらいなの。
わたしが死んだら、誰も読む人がいなくなってしまう。
もしかしたら、遺品整理とかで捨てられてしまうかもしれない。
それがとても寂しいの。
価値がわかるひとに、ずっと読んでほしい。
そう思うの」
「わかります、そのお気持ち。
本は読まれてこそ生きるものですからね」
「ええ。ホントは、いまだって読むのが私一人だから、さびしいの。
男爵さんみたいに、一緒に話ができる人がもっといたらなあって思うの」
「じゃあ、こういうのはどうですか」
俺が提案しました。
「近所の児童相談所に相談してみて、
週末だけでも個人文庫を開いてみるのは?
子供に読ませると本が傷んでしまうかもしれませんけど、
世代を超えて本が受け継がれていくことは間違いないと思います」
「わたしにできるかしら」
「やろうと思えばできますよ」
こうして、Sさんは自宅で週末、小さな個人文庫を開くことになりました。

しかし。
「誰も来ないわねえ……」
Sさん宅のリビングで本を前にして、Sさんはぽつんとつぶやきました。
「うーむ、宣伝が足りなかったのかもしれませんね。
どうでしょう、子供が来やすいように、
絵入りのわかりやすいチラシを家の前に貼ってみるのは?」
「わかったわ、そうね、やってみましょう」
児童相談所へ周知を依頼するとともに、
絵は得意なわたしが、Sさんのイメージする「本とお茶のある家」を
ポスターに描き、Sさん宅の玄関横に貼っておきました。

数日後。
「男爵さん、来たわ、来たわよ!」
Sさんから興奮した電話がありました。
「初めて来てくれたの。女の子二人組が。
わたしの赤毛のアンを一緒に読んで、笑ったのよ!」
「よかったですね!」
俺も笑顔になりました。
「何歳くらいの女の子ですか」
「十歳と十二歳よ。近所の子だから、顔見知りだったの。
親御さんにもちゃんと話して、許可をもらったわ」
「それはなによりですね。
その年齢なら、ある程度漢字は読めますが、
モンゴメリの作品には心情描写が大人っぽいものもありますから、
読みやすい話から紹介してみたらどうですか。
あと、絵本もお持ちでしたよね。
そっちも見せてみたら」
「やってみるわ! また来てくれるって言っていたの」
Sさんは幸せそうに話しました。

やがてSさんの個人文庫に女の子が多くやってくるようになりました。
Sさんは赤毛のアンシリーズを一緒に読みながら、
レース編みの実演や編み物の方法などを見せて
週末を楽しく過ごすようになりました。
俺もボランティアとしてお茶を入れたり、
本を整理したりするようになりました。
赤毛のアンって言ったら、
美味しい紅茶と美味しいお菓子だよね。
お菓子はふんだんに出てくるもんね。
Sさんがとても幸せそうなので、
俺も「文庫を勧めてよかったな」と思いました。

でもある日。
「Sさん、Sさん! しっかりしてください!」
女の子に本を音読していたSさんが突然、倒れました。
俺は病人なので、救急車は呼び慣れており、
救急車を手配するとともに、失礼ながら保険証を漁って見つけ、
靴を用意し、
Sさんと一緒に救急車に乗りました。

Sさんの脳の血管が一部 破れたのです。
その発作は致命的なもので、
Sさんは意識不明のまま何日も集中治療室にいました。
もう無理しれない。
そう思いながらも、俺は、毎日治療室に通いました。
Sさんには身寄りがいません。
お見舞いに来るのはオレだけです。
でも、そんなある日。
「……っ……」
Sさんの瞼が微かに震えました。
奇跡的に意識が戻ったのです。
「……こ、こ……は……」
「病院です。Sさんは倒れて、運ばれたんですよ」
俺はもうベッドにすがりつきそうになりながら、言いました。
Sさんは、ふと微笑み、
「そう……あの子たちに、続きを、話して、あげない、と……」
そういって、Sさんの呼吸は止まりました。
病室に俺の嗚咽が響きました。
俺はそっと、Sさんの手に
女の子たちが作ったお見舞いの折り鶴を握らせました。
どうか、この鶴の翼に乗って、天国へ羽ばたいていってください。
本当は戻ってきてほしかったけど、
もっと話して、一緒にいたかったけど、
もう無理だから、もう無理だから。
こうして、Sさんの個人文庫は静かに終わったのでした。


以上、九割九分くらいホラで。
うん、ごめんね、ホラなんです。
えええー、感動秘話なのにぃ! という叫びが
全国から聞こえてきますが、この話、ほぼ虚言です。
でもね、これだけは言わせてください。
「にんべんの人の為」と書いて、「偽り」なんですよ。
偽りは、自分の為ではなく、誰かのために紡がれるんです。
今日はあなたのために、紡ぎました。
お気に召したら、幸いです。
次はまた別のお話をいたしますね。
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そうなんです、偽りは、人の為なんですよ……。
でもね、「口に虚しい」と書いて、「嘘」でもありますね。
どっちがホントか、さあ、どうでしょう。
あなたはどちらがホントだと思われますか?

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