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2016年2月14日 (日)

普通人一年生。その3。卒業式。

前回までのあらすじ:
 友達の友達の自宅警備員を普通人デビューさせることになったわたし。
 言うまでもなく、俺自身が かなりな野生児で「普通ってなに?」というレベルだが、
 そんなことは今はもうどうでもいい。
 要は自宅警備員に就職活動をさせて、普通人らしく見せればいいんだよ!
 嘘と虚栄と欺瞞とホラと夢に満ちた、男版マイ・フェア・レディが始まった……!

「ついに君もここまで来た」
清書された履歴書を前に、わたしは感慨にふけります。
「はじめは拙者とか言ってた君が、
でありますとか言ってた君が、
履歴書を完成させる日がついにやってきた。
あとは明日、MOSの試験で合格し、
履歴書の資格欄にMOSと記入するだけだな」
「はい! 教官!」
なぜか相変わらずアーミーテイストが抜けない自宅警備員は胸を張ります。
俺はちょっと額を押さえて言いました。
「だから、俺は教官じゃないから。
友達の友達だから。しいて言えば友達みたいなもんだから。
そこは軍隊は止めて。黒羊さんでいいから」
「はい! ……ええと、黒羊君!」

「君は今、まさに自宅警備員を卒業しようとしている」
わたしはちゃぶ台の上の履歴書を手に取ります。
「だが、忘れてはならない。
就職活動は就職するまでが就職活動だ。
最初に言ったとおり、君はこれから100社に応募しなければならない。
つまり、履歴書は100通必要になる。
これは最初の一歩に過ぎない。
だが大きな飛躍的な一歩なのだ」
「なぜ100社に応募しなければならないのですか」
「簡単なことだ」
わたしは短く答えます。
「100社くらい応募しなければ、君を採用しようという企業はないからだ。
職歴なし、スキルなし(まあこれからMOSとるけど)、
つまり誰かによる保証なしという君を採用しようという企業は、
100社に1社あるかないかだろう。
実際、オレの経験では75社に応募して採用にこぎつけたことがある。
それくらい、初心者に社会は厳しい。
だが、チャンスがないわけではない。
ゼロではないのだ」
「……はい」
「俺の今までの教えを覚えているな?
一人称で拙者は止める。
語尾はですますにする。
自宅から一歩出たら、マリアンちゃんのことは口にしない。
会話はよく考えて、返答する。
多少答えが遅くなっても、実直そうに見えるようにふるまえば問題はない。
ヒゲは毎日剃る。
シャツもパンツも毎日洗う。
お母さんにおはようございますと言う。
エレベーターや入室では目上の人から通す。
すみませんではなく、ありがとうと言う。
面接会場では一礼し、着席し、
一生懸命 相手の目を見て答える」
「はい、教官、いや黒羊さんには、たくさんの教えをいただきました」
「その他のいろいろも全部 メモをとっているな?」
「はい」
「全部を最初から完璧にできなくてもいい。
俺が教えたことは、継続することに意味がある。
100社応募して断られ続ければ、心が折れそうになる日もある。
そういう日は、マリアンちゃんを抱きしめて眠れ。
そしてあきらめるな。
あきらめる人は多い。挫折する人も多い。
けれど、あきらめなければ、ある日 道は開く。
必ず開く。
君は妻帯者だろう、お母さんもいるだろう。
君の生涯が実り多きものとなれば、
マリアンちゃんもお母さんも幸せになる。
君の幸せはみんなの幸せだ。
君が自宅警備員を辞めて、普通人となっても、
君の幸せはみんなの幸せだ。
それを忘れてはいけない」
「……はい……!」
「では、自宅警備員君、ここに君の卒業を認める」
俺は履歴書をもう一度チェックし、OKを出して、
そっと自宅警備員に差し出します。
卒業証書を、元自宅警備員は震える手で受け取りました。

「じゃあ、元気でな……!」
俺はアパートの扉を開きます。
「本当に、本当にありがとうございました……っ」
「礼はまだ早い。
就職しても失敗することもある。
そんなときはまた連絡くれ。
二人でどうしたらいいか考えてみよう。
君は一人ではない」
「ありがとう、ございます!」
「身体には気を付けるんだぞ。じゃあな」
もう目の幅涙を流している元自宅警備員に
俺は別れを告げて扉を閉めました。

そして、深く大きくため息をつきました。

「普通人がどんなものか、本当は誰も知らないんだ。
みんなちょっとずつ野生児なんだ。
だから、自分は普通人だと思っていれば、
それでもう、普通人一年生は終わりだよ」
冬の青く澄んだ空には飛行機雲が一筋、跡を残していました。
その線は迷いのないかっきりとした跡に見えました。
でも、その操縦かんを握っているひとは、きっと、
いろいろ迷って悩んで、そうして操縦かんを握ることを選んだのでしょう。
その迷いは、飛行機雲には表れません。
悩みながら道を進んだ後に振り返れば、一筋の直線になっているのです。
人生なんて、そんなものでしょうね。


以上、ホラ九割程度で。
うん、最後のほうの感動的なセリフに至っては全ホラで。
飛行機雲とパイロットの人生がどう関係してるかなんて、
赤の他人の俺にわかるわけないよね。
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人生なんて、好きに生きればいいと思います。
死ぬときに後悔しなければ、それでいいと思います。
だから本当は、自宅警備員で死ぬとき後悔しないなら、
自宅警備員のままでも構わないと思います。
人それぞれです。
ただ、今回は病気のお母さんがいたので、
卒業してもらいました。
卒業できたのは、自宅警備員がお母さんが大好きで一生懸命がんばったからです。
それは俺の功績ではなく、彼の成果です。
あ、あとマリアンちゃんへの愛もあるな。
うん、空気嫁だけにね、
彼にとって、酸素のように生きていくのに必要なんでしょうね。
空気嫁だけに。

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コメント

無事に卒業できたようでよかったです。
さて、勝手に紹介させていただきました。
ご了承あれ!

jun様、こんばんは。
ほりょ? ご紹介ですか?
ええと、どこかの料亭でしょうか?
美味しいお料理と綺麗な芸者さんは大好きですので、ウェルカムです。
え? どこをどう斜めに読んだらそうなるのかって?
うーん、斜めに読んだというか、願望というか、希望というか。
正直な欲望が だだもれたというか。
ともあれ、jun様のご紹介なら、大歓迎です。
コメントありがとうございました!

素晴らしい欲望の後に、
申し訳ないのですが、
このブログを私のブログで
勝手に紹介しました!ってことです。
期待にそえず、もうしわけない!!

jun様、こんにちは。
おお! jun様のブログでのご紹介ですか!
光栄です!
ありがとうございます、ありがとうございます。
今まで頑張っててよかった(なにを? ホラを?)
これからも虚言を繰り広げていければと思いますので、
またいらしていただければ嬉しく存じます。
ご紹介、ありがとうございました(敬礼)!

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