« 2016年1月 | トップページ | 2016年3月 »

2016年2月

2016年2月28日 (日)

ハートをつかめ!

どうもこんにちは、黒羊男爵です。
そうなんです、今日 簿記二級の試験日です。
でも行けそうにありません。
体調が激悪くて、(特に腹)
大腸がスプラッシュマウ●テンみたいになってます。
トイレから出られません。当然 電車なんか乗れません。

「ですが、何度も申し上げますが、
体調とホラを吹くかどうかは別問題では」
新しいトレぺを差し入れながら、執事が言いました。
なんだ、それ、美学か。おまえの美学なのか。
ホラを吹かないくせに美学だけあるとか、生意気な。
「わーったよ、じゃあ、話してやるよ、
話せばいいんだろ、O君に起きた悲劇をよ」
「わたしくしはそこまで申し上げておりませんが」
「うるせえ、黙って聞いてろ!」
やけくそになって、俺は話し始めました。

そもそも、O君と俺は赤の他人でした。
まったくの見ず知らずでした。
それが図書館の雑誌コーナーで知り合ったのです。
ある日、俺がNE●TON読みながら、
「重力波ってすげえな」と思ってたら、
なんか隣に座ってた高校生のほうがチラチラする。
チラチラというか、キラキラしてる。
ちっちゃな線香花火みたいな光がまたたいてる。
なんなの?
そーっと横目で確認すると、
その高校生の肩に、
「なんかいる……!」
ひらひらのドレス着て、手に星のついた杖を持った、
ちっちゃな、羽の生えた女の子みたいなのが、座ってる。
なにこれ? 妖怪?(俺は妖怪が見える)
でもこんなドレス着た洋風の妖怪なんて聞いたことない。
妖怪じゃなかったら、なんなの?
まさか。まさか、もしかして。
俺は横目で熱心に観察を続けていると、
(あ! あなた、あたしが見えてるわね!)
ソレに気付かれてしまいました。
いかん! なんかもう嫌な予感がする。
俺は首を扇風機のように振り戻し、
NEWT●Nに熱心にのぞきこんでいるフリをしました。
しかし、ソレは、
(見えてるでしょ! 見えてるでしょ!)
と言いながら、俺の視界を飛び回ります。
うざい、光が目に入って、うざい。
思わず「しっしっ」と蠅を追い払う動作で反射的に手を振ってしまい、
(やっぱり見えてたわね!)
と言われてしまいました。

(あたしは恋の妖精・ユリエッタよ!)
なれなれしく俺の肩にとまったソレは
勝手に自己紹介してきます。
俺はもうNEWTO●を丸めてソレを叩こうとしましたが、
敏捷によけられてしまいました。
(ちょうどよかった、あたしの言うことを彼に伝えてほしいの)
「彼?」
俺は思わず、隣の高校生のほうを見ます。
貧乏ゆすりをしながら、ちらちら時計を見ている男子高校生。
(そうよ、彼はこれから人生の一大転機を迎えるの。
そんな彼のために、アドバイスをするのが、
恋の妖精の仕事なのよ!)
「なら、さっさとすりゃいいじゃねえか」
俺は見えてないふりをあきらめて、小声で応えました。
(駄目なの、あたしの声が彼には聞こえないの。
だから、あなたに伝えてほしいのよ)
「なにを伝えてほしいんだよ」
(彼女の心をキャッチする方法よ)
「彼女?」
(彼は、O君は、これから、図書館の裏で女の子に告白するの。
それがうまくいくように、アドバイスをしたいのよ)
「そんなん、俺には全然関係ねーだろ、巻き込むな」
(だってあなた、あたしが見えて、声が聞えるんですもの)
ユリエッタは杖を振りました。
(よっぽど心が綺麗じゃなきゃ、あたしは見えないのよ。
あなた、そんな態度だけど、本当はいいひとなんでしょ)
「俺はいいひとではない。いい性格ではあるが」
俺に妖精が見えるのは、まあ、放送事故みたいなものです。
(とにかく、物陰から彼にアドバイスして。
あたしが中継して、その声を彼の頭の中に送り込むから)
「だったら、てめえの声を送り込めばいいだろ」
(あたしの声は小さすぎて、誰かの声を中継するのが精いっぱいなの)
「そーかよ、そーかよ。俺にはまったく関係ねーな」
ユリエッタはにっこりと笑います。
(なんなら、あなたの頭の中を、今ここにいる人全員に中継してもいいけど)
えええっ、貸し出しカウンターのおねえさんの胸、
けっこうデカいなとか思ってたことを中継される?!
なんてことを言うんだ、このクソ妖精!
(協力してくれる、わね?)
ユリエッタは付加疑問文で俺に念を押しました。

時刻は土曜日の午後三時、図書館裏にO君が立ちすくんでいます。
視線の先にはかわいいショートカットの女の子がいます。
「呼び出しに来てくれたってことは、
まったく脈がないわけじゃねえんだな」
物陰に隠れた俺は肩のユリエッタに確認します。
ユリエッタは点滅しながら説明しました。
(Y子ちゃんも実はO君のことがほのかに好きなのよ。
だから告白さえうまくいけば、二人はまとまるの)
「どういう告白をさせるんだよ」
(Y子ちゃんがキュンキュンしちゃうような告白。
しっかりとハートをキャッチするような告白がいいわね!)
「具体的なようでいて、抽象的の極みのアドバイスだな」
(大丈夫よ、さあ、O君に言わせたいことを念じて。
それをあたしがO君の頭に中継するわ)
「そーだな、ええと、キュンキュンするような言葉ね……」
俺はちょっと考えてから、言葉を紡ぎ始めました。

「ずっと前から、思ってたんだけど……Y子ちゃん、
とっても目が大きいよね。笑顔とかすごいかわいいいし」
O君の口から俺が作った台詞が飛び出します。
「え、そ、そうかな」
Y子ちゃんは照れながら髪をいじります。
「あ、その仕草もいいなって思ってたんだ、俺。
ショートカット、似合ってるよね」
とりあえず褒めて褒めてY子ちゃんを持ち上げます。
恋愛童貞の俺に、イカス口説き文句なんて思い付きません。
直接的な言葉しか思い浮かばない。
でも、雰囲気は悪くないです。
Y子ちゃんも、まんざらではなさそうな感じだし。
うん、じゃあ、そろそろ告白しないと。
そのために呼び出したわけだし。
「俺さ、Y子ちゃんに、ずっと隣にいてほしいなって。
そばにいてほしいなって、思うんだ……。
こんな俺だけど……俺と付き合ってください!!」
いきました、もうドストレートに直球を投げました。
Y子ちゃんは顔を真っ赤にして、「え」とか言いながら、
差し出されたO君の手を見つめます。
よっしゃ、あと一押しだな。
ユリエッタも はねまわりながら叫びます。
(今よ、彼女の胸をつかむのよ!)
「今だ、胸をつかめ!」
俺のひそやかな絶叫とともに、
O君の手がしっかりとY子ちゃんの胸をつかみました。
ズッバン、と強い激しい平手打ちの音が、昼下がりの図書館裏に響いて、
やがて消えていきました。


以上、ホラ九割九分程度で。まあ、赤い風船くらいの、宙に浮く美しいホラで。
え、O君がこのあとどうなったかって?
顔にモミジつけてましたよ。
ブログランキング参加中にて、
「ああ、悲劇ってこういうこと」と納得された方、
「青春、だね!」と感慨深い方、
「男爵は泣ける話より笑える話のほうがいいよ」と思った方は、
下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
恋愛ってなかなかうまくいかないもんだよね。
いやー、俺も今回代理告白してしみじみとその難しさを痛感したわ。
てか、「胸をつかめ」ってアドバイスを
直情的に実行されるとは思わなかったよ!
それは単なるセクハラというか、痴漢行為だよね。
犯罪です! みんなは絶対にしないでね。
胸をつかめって言われたら、普通、ハートをキャッチじゃないの?
やっぱ青少年は暴走しがちだよね。
青い春は、青いんだなあ。

2016年2月21日 (日)

「人の為」と書いて。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。
ええと、来週末にまた簿記二級受けるんですけど、
肋間神経痛が出たせいで、全く勉強できていません。
呼吸が苦しくて痛いです。
でもそんなことでへこんでたら、俺の人生、何一つ始まらない。
てなわけで、いつもように、ホラを通常運転で吹いていきたいと思います。

「でもな、いかんせん、ベッドに釘づけ状態じゃ、
できることが限られているよな」
ミルクティーを飲みながら、俺は執事に言いました。
執事は首をかしげて、
「ホラに身体状況は関係ないのでは?
大病を患っていても、ベッドでも座敷でも路上でも、
吹きまくるのがホラではありませんか?」
と言いました。
なんだ、こいつ、自分はホラをほとんど吹かないくせに、
言いたいことを言ってくる。
なんだそれ、美学か、おまえの美学なのか。
執事の癖に美学があるとか、生意気な。

「じゃあ、俺が以前、ボランティアに行った時のことを話してやるよ。
それならいいだろ」
「わたくしは特に何も申し上げておりませんが」
「うるせえ! そこまで言われたら、もう話すしかねえだろ。
だから話してやるよ、Sさんに起きた悲劇をよ」
俺は話し始めました。

そもそもSさんは、児童文学が好きな独居老人でした。
赤毛のアンが大好きで、図書館の児童書コーナーで
俺と知り合いになりました。
うん、そう、俺は赤毛のアンも読むよ。
ていうか、モンゴメリの著作はかなり保持している。
詩集とか、レアなもんまで持ってる。
Sさんはつつましやかな、穏やかな笑顔の似合うおばあさまで、
俺は自分のコレクションの一部をSさんに貸し出して、
二人でモンゴメリ談義をするようになりました。
「男爵さんほどじゃないけれど、うちにもモンゴメリの本はあります」
Sさんは言います。
「うちにある宝物と言えば、本くらいなの。
わたしが死んだら、誰も読む人がいなくなってしまう。
もしかしたら、遺品整理とかで捨てられてしまうかもしれない。
それがとても寂しいの。
価値がわかるひとに、ずっと読んでほしい。
そう思うの」
「わかります、そのお気持ち。
本は読まれてこそ生きるものですからね」
「ええ。ホントは、いまだって読むのが私一人だから、さびしいの。
男爵さんみたいに、一緒に話ができる人がもっといたらなあって思うの」
「じゃあ、こういうのはどうですか」
俺が提案しました。
「近所の児童相談所に相談してみて、
週末だけでも個人文庫を開いてみるのは?
子供に読ませると本が傷んでしまうかもしれませんけど、
世代を超えて本が受け継がれていくことは間違いないと思います」
「わたしにできるかしら」
「やろうと思えばできますよ」
こうして、Sさんは自宅で週末、小さな個人文庫を開くことになりました。

しかし。
「誰も来ないわねえ……」
Sさん宅のリビングで本を前にして、Sさんはぽつんとつぶやきました。
「うーむ、宣伝が足りなかったのかもしれませんね。
どうでしょう、子供が来やすいように、
絵入りのわかりやすいチラシを家の前に貼ってみるのは?」
「わかったわ、そうね、やってみましょう」
児童相談所へ周知を依頼するとともに、
絵は得意なわたしが、Sさんのイメージする「本とお茶のある家」を
ポスターに描き、Sさん宅の玄関横に貼っておきました。

数日後。
「男爵さん、来たわ、来たわよ!」
Sさんから興奮した電話がありました。
「初めて来てくれたの。女の子二人組が。
わたしの赤毛のアンを一緒に読んで、笑ったのよ!」
「よかったですね!」
俺も笑顔になりました。
「何歳くらいの女の子ですか」
「十歳と十二歳よ。近所の子だから、顔見知りだったの。
親御さんにもちゃんと話して、許可をもらったわ」
「それはなによりですね。
その年齢なら、ある程度漢字は読めますが、
モンゴメリの作品には心情描写が大人っぽいものもありますから、
読みやすい話から紹介してみたらどうですか。
あと、絵本もお持ちでしたよね。
そっちも見せてみたら」
「やってみるわ! また来てくれるって言っていたの」
Sさんは幸せそうに話しました。

やがてSさんの個人文庫に女の子が多くやってくるようになりました。
Sさんは赤毛のアンシリーズを一緒に読みながら、
レース編みの実演や編み物の方法などを見せて
週末を楽しく過ごすようになりました。
俺もボランティアとしてお茶を入れたり、
本を整理したりするようになりました。
赤毛のアンって言ったら、
美味しい紅茶と美味しいお菓子だよね。
お菓子はふんだんに出てくるもんね。
Sさんがとても幸せそうなので、
俺も「文庫を勧めてよかったな」と思いました。

でもある日。
「Sさん、Sさん! しっかりしてください!」
女の子に本を音読していたSさんが突然、倒れました。
俺は病人なので、救急車は呼び慣れており、
救急車を手配するとともに、失礼ながら保険証を漁って見つけ、
靴を用意し、
Sさんと一緒に救急車に乗りました。

Sさんの脳の血管が一部 破れたのです。
その発作は致命的なもので、
Sさんは意識不明のまま何日も集中治療室にいました。
もう無理しれない。
そう思いながらも、俺は、毎日治療室に通いました。
Sさんには身寄りがいません。
お見舞いに来るのはオレだけです。
でも、そんなある日。
「……っ……」
Sさんの瞼が微かに震えました。
奇跡的に意識が戻ったのです。
「……こ、こ……は……」
「病院です。Sさんは倒れて、運ばれたんですよ」
俺はもうベッドにすがりつきそうになりながら、言いました。
Sさんは、ふと微笑み、
「そう……あの子たちに、続きを、話して、あげない、と……」
そういって、Sさんの呼吸は止まりました。
病室に俺の嗚咽が響きました。
俺はそっと、Sさんの手に
女の子たちが作ったお見舞いの折り鶴を握らせました。
どうか、この鶴の翼に乗って、天国へ羽ばたいていってください。
本当は戻ってきてほしかったけど、
もっと話して、一緒にいたかったけど、
もう無理だから、もう無理だから。
こうして、Sさんの個人文庫は静かに終わったのでした。


以上、九割九分くらいホラで。
うん、ごめんね、ホラなんです。
えええー、感動秘話なのにぃ! という叫びが
全国から聞こえてきますが、この話、ほぼ虚言です。
でもね、これだけは言わせてください。
「にんべんの人の為」と書いて、「偽り」なんですよ。
偽りは、自分の為ではなく、誰かのために紡がれるんです。
今日はあなたのために、紡ぎました。
お気に召したら、幸いです。
次はまた別のお話をいたしますね。
ブログランキング参加中にて、
「うおお、ちょっとウルってきたのに」という素直で純真な方、
「こんなことだろうと思ってたぜ」という鋭い方、
「次は笑い話でお願いします」という次回に期待という方は、
下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
そうなんです、偽りは、人の為なんですよ……。
でもね、「口に虚しい」と書いて、「嘘」でもありますね。
どっちがホントか、さあ、どうでしょう。
あなたはどちらがホントだと思われますか?

2016年2月14日 (日)

普通人一年生。その3。卒業式。

前回までのあらすじ:
 友達の友達の自宅警備員を普通人デビューさせることになったわたし。
 言うまでもなく、俺自身が かなりな野生児で「普通ってなに?」というレベルだが、
 そんなことは今はもうどうでもいい。
 要は自宅警備員に就職活動をさせて、普通人らしく見せればいいんだよ!
 嘘と虚栄と欺瞞とホラと夢に満ちた、男版マイ・フェア・レディが始まった……!

「ついに君もここまで来た」
清書された履歴書を前に、わたしは感慨にふけります。
「はじめは拙者とか言ってた君が、
でありますとか言ってた君が、
履歴書を完成させる日がついにやってきた。
あとは明日、MOSの試験で合格し、
履歴書の資格欄にMOSと記入するだけだな」
「はい! 教官!」
なぜか相変わらずアーミーテイストが抜けない自宅警備員は胸を張ります。
俺はちょっと額を押さえて言いました。
「だから、俺は教官じゃないから。
友達の友達だから。しいて言えば友達みたいなもんだから。
そこは軍隊は止めて。黒羊さんでいいから」
「はい! ……ええと、黒羊君!」

「君は今、まさに自宅警備員を卒業しようとしている」
わたしはちゃぶ台の上の履歴書を手に取ります。
「だが、忘れてはならない。
就職活動は就職するまでが就職活動だ。
最初に言ったとおり、君はこれから100社に応募しなければならない。
つまり、履歴書は100通必要になる。
これは最初の一歩に過ぎない。
だが大きな飛躍的な一歩なのだ」
「なぜ100社に応募しなければならないのですか」
「簡単なことだ」
わたしは短く答えます。
「100社くらい応募しなければ、君を採用しようという企業はないからだ。
職歴なし、スキルなし(まあこれからMOSとるけど)、
つまり誰かによる保証なしという君を採用しようという企業は、
100社に1社あるかないかだろう。
実際、オレの経験では75社に応募して採用にこぎつけたことがある。
それくらい、初心者に社会は厳しい。
だが、チャンスがないわけではない。
ゼロではないのだ」
「……はい」
「俺の今までの教えを覚えているな?
一人称で拙者は止める。
語尾はですますにする。
自宅から一歩出たら、マリアンちゃんのことは口にしない。
会話はよく考えて、返答する。
多少答えが遅くなっても、実直そうに見えるようにふるまえば問題はない。
ヒゲは毎日剃る。
シャツもパンツも毎日洗う。
お母さんにおはようございますと言う。
エレベーターや入室では目上の人から通す。
すみませんではなく、ありがとうと言う。
面接会場では一礼し、着席し、
一生懸命 相手の目を見て答える」
「はい、教官、いや黒羊さんには、たくさんの教えをいただきました」
「その他のいろいろも全部 メモをとっているな?」
「はい」
「全部を最初から完璧にできなくてもいい。
俺が教えたことは、継続することに意味がある。
100社応募して断られ続ければ、心が折れそうになる日もある。
そういう日は、マリアンちゃんを抱きしめて眠れ。
そしてあきらめるな。
あきらめる人は多い。挫折する人も多い。
けれど、あきらめなければ、ある日 道は開く。
必ず開く。
君は妻帯者だろう、お母さんもいるだろう。
君の生涯が実り多きものとなれば、
マリアンちゃんもお母さんも幸せになる。
君の幸せはみんなの幸せだ。
君が自宅警備員を辞めて、普通人となっても、
君の幸せはみんなの幸せだ。
それを忘れてはいけない」
「……はい……!」
「では、自宅警備員君、ここに君の卒業を認める」
俺は履歴書をもう一度チェックし、OKを出して、
そっと自宅警備員に差し出します。
卒業証書を、元自宅警備員は震える手で受け取りました。

「じゃあ、元気でな……!」
俺はアパートの扉を開きます。
「本当に、本当にありがとうございました……っ」
「礼はまだ早い。
就職しても失敗することもある。
そんなときはまた連絡くれ。
二人でどうしたらいいか考えてみよう。
君は一人ではない」
「ありがとう、ございます!」
「身体には気を付けるんだぞ。じゃあな」
もう目の幅涙を流している元自宅警備員に
俺は別れを告げて扉を閉めました。

そして、深く大きくため息をつきました。

「普通人がどんなものか、本当は誰も知らないんだ。
みんなちょっとずつ野生児なんだ。
だから、自分は普通人だと思っていれば、
それでもう、普通人一年生は終わりだよ」
冬の青く澄んだ空には飛行機雲が一筋、跡を残していました。
その線は迷いのないかっきりとした跡に見えました。
でも、その操縦かんを握っているひとは、きっと、
いろいろ迷って悩んで、そうして操縦かんを握ることを選んだのでしょう。
その迷いは、飛行機雲には表れません。
悩みながら道を進んだ後に振り返れば、一筋の直線になっているのです。
人生なんて、そんなものでしょうね。


以上、ホラ九割程度で。
うん、最後のほうの感動的なセリフに至っては全ホラで。
飛行機雲とパイロットの人生がどう関係してるかなんて、
赤の他人の俺にわかるわけないよね。
ブログランキング参加中にて、
「えええー、感動が台無しだよ」と泣き笑いの方、
「ていうか、どこが真実の一割なのか気になる」という方、
「やっぱりいかさまくさいよなあ」と真実を見抜いた方は下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
人生なんて、好きに生きればいいと思います。
死ぬときに後悔しなければ、それでいいと思います。
だから本当は、自宅警備員で死ぬとき後悔しないなら、
自宅警備員のままでも構わないと思います。
人それぞれです。
ただ、今回は病気のお母さんがいたので、
卒業してもらいました。
卒業できたのは、自宅警備員がお母さんが大好きで一生懸命がんばったからです。
それは俺の功績ではなく、彼の成果です。
あ、あとマリアンちゃんへの愛もあるな。
うん、空気嫁だけにね、
彼にとって、酸素のように生きていくのに必要なんでしょうね。
空気嫁だけに。

2016年2月 7日 (日)

普通人一年生。その2。入学式。

前回までのあらすじ:
 友達の友達の自宅警備員の面倒を見て、
 調教し、社会復帰を目指すことになったわたし。
 えええー、俺自身が「普通ってなに?」ってあんまし自信ないけど……。
 でも自宅警備員は俺から見ても重度の自宅警備員だった……!
 男爵の「普通人講座」が始まる……!

「まあ、いろいろと改善すべきところはあるけど、
とりあえず目標をはっきりさせよう。
目標は『履歴書を書けるようになる』だ。
で、100社に応募して、就職し、お母さんを安心させる。
これだな」
わたしの断言に、
自宅警備員は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えます。
「しゅ、就職でありまするか……。
履歴書……。
拙者はそのようなことは考えたこともなく」
「うん、そうだろうと思ってた。
でも、もうその現状維持の思考回路は捨ててください。
お母さんが倒れている現在、
君しかこの家を支えられる人間はいないので、
パラサイト的な、自分に都合がイイ的な思考回路は
この際、ドブ、もしくは水洗トイレに捨ててください」
「せ、拙者にはとうてい無理であります……!」
拙者は近所のコンビニに行くのが精いっぱいで、という
自宅警備員の発言に、俺は微笑します。
「だいじょーぶ、だいじょーぶだって!
意外と他の人だって、普通って何かわかってないんだから。
君から見たら、俺は普通に見えるでしょ?
でも異常だから。俺、君以上の異端児だから。
やれることができれば、履歴書も就職も大丈夫だから」

「まずは口調から変えよう」
わたしは持ち込んだホワイトボードに朱書きします。
「基本の一人称は「拙者」ではなく「俺」。
目上の人と話すときは「わたし」。
それから語尾は、「ですます」で行こう。
「あります」は以後 禁止」
「せ、せっ」
「お・れ。わかった? 俺って言ってみて」
「お、俺は、こんなの絶対、無理であり」
「ありますではなく、無理です、だよね。さんはい」
「俺には無理です……」
「大丈夫、慣れの問題だから。
これからはマリアンちゃんと話すときも俺で行こう。
たぶん、そのほうがマリアンちゃんも安心するよ」
「そ、そうで、すか……」
「君に究極の極意を教えてあげよう」

俺はホワイトボードに大きく書きます。
「君は内面を変える必要はない。
自宅警備員のままで構わない。
つまり、マリアンちゃんの旦那のままで、ぜんぜんOK。
ただ、外見と言動、行動を少々修正するだけだ。
要するに、潜入スパイみたいなもんだね。
今日が君の普通人入学式、そして明日が卒業式だ」
「えっ、一日で卒業で、すか」
「うん、そう」
俺は再びにこやかに微笑します。
「その代わり、今日一日で、普通人になってもらいます!
早速、履歴書を書きましょう。
君、今までに就職したことは?」
「……ないでありま、ないです」
「うん、そうだと思ってた。
でも大丈夫、経験がなくても、最終兵器があればなんとかなる。
君、なにか資格持ってない?」
「硬筆三級なら……」
俺の眉間に皺が寄りました。
字が綺麗なのはいいけど、もっとこう、履歴書に書ける資格が欲しい。

「うーん、Office系のソフト、ExcelとかWordとかを触ったことは?」
自宅計警備員の顔が初めて輝きました。
「Excelなら得意であります、得意です」
「お、いいね! マイクロソフトの認定資格・MOSが取れそうじゃない。
Excel、ちょっとやってみてよ」
「はい!」
警備員はPCを立ち上げると、Excelの新規ブックを作り、新規シートに、
「できたです!」
円を三つ三角形に並べて描画してみせました。
「えっ、これなに? 表計算じゃないの?」
「ミッ●ー●ウスです!」
「おまえ、一回死んで来い!」
俺はホワイトボードで自宅警備員の頭を殴りました。


以上、ホラ九割程度で。
いや、Excelでも絵は描けるけど、
オフィスで求められてるのはそーゆーんじゃないでしょ……。
しかし、俺にも時間はないのです。
他にやることもあるんで、自宅警備員にばかり時間を割いていられません。
なにより、肋間神経痛が出て、病院に行かねばならないのでね。
痛い、痛いです。胸が痛いです。物理的な意味で。
ブログランキング参加中にて、
「え、今日入学して明日卒業?」と驚愕した方、
「これはいくらなんでも無理じゃない?」と疑問を感じた方、
「Excel、ちゃんと使えてるね!」と笑顔の方は下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
とりあえず、MOSを取らせる予定ですが……。
そうですね、絶対参照と相対参照を叩き込んで、
関数使えるようにして、グラフ書けるようにすればなんとか。
自宅警備員とソフトウェアは相性が悪くないはずなんで、
どうにかなるんじゃないでしょうか。

« 2016年1月 | トップページ | 2016年3月 »