« 空を飛ぶ方法。その1。 | トップページ | おとしだま、もらいました。 »

2015年12月27日 (日)

空を飛ぶ方法。その2。

前回までのあらすじ:
 「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」=俺&斎藤君は、
 またしても不可能ミッションに挑む!
 ベッドに釘付けの余命わずかなS村さんを
 家族に内緒でドイツのクリスマス市に連れていくことに!
 今日 クリスマスイブ、果たして奇跡は起こるのか……?!

(ちょっと時間はさかのぼって24日の昼)
「メリークリスマスイブ!」
派手にクラッカーを鳴らしながら、
俺&斎藤君はS村さんの個室に侵入しました。
「あらまあ、斎藤さん」
S村さんは首だけ動かしてこちらを見ました。
S村さんは、小柄で細い、きゃしゃな感じの品の良いおばあさんでした。
かろうじて手と首だけが動くらしく、
ひらひらと骨ばった手を斎藤君に振ってみせました。
S村さんはもう、自力では上体を起こすことすらできないのです。
「こんにちは、S村さん、今日は友達を連れてきたよ」
斎藤君は俺を押し出します。
俺は丁寧に頭を下げてから、
「10分間旅行社・代表の黒羊男爵です。今日はよろしくお願いいたします」
と言いました。
S村さんは首をかしげます。
「10分間旅行社……?」
「はい。どんな人でも10分間だけお望みの場所に連れていく旅行社です」
「えっ、どういうことですか」
「今日はクリスマスイブです!」
俺と斎藤君は声を合わせます。
「いま、ドイツではクリスマス市が最高潮の賑わいです!
よろしかったら、10分間だけ行ってみませんか」
S村さんは寂しげに微笑みます。
「でも、わたしはもう……」
歩くこともできないから。
俺は勢いよく首を振ります。
「いえ、S村さん、あなたはもうすでに移動手段に乗っているじゃありませんか」
「え?」
「そのベッドですよ。
いいですか、ベッドというのは異世界と現実の境にあるもの、
あなたと世界を結ぶ場所です。
たとえば夜になれば、そのベッドであなたは夢を見ますよね?
その間、あなたの体は動いていません。
しかし、あなたの魂は、心はベッドに乗って様々な経験をします。
その経験は嘘でしょうか?
でも夢を見ているその時は、真実のように感じますよね?
だったら、目を覚ましているときだって、
ベッドにいるなら、どこへだって行くことができますよ」
「そんなことって」
「可能なんですよ、わたしにかかれば」
俺はS村さんの手に、数枚の写真を握らせます。
「これは……?」
「今まさに開催中のクリスマス市の写真です。
どうですか、行きたくないですか」
「ああ……」
S村さんは写真を一枚ずつ丁寧にじっくりと眺めて、
「ありがとうございます、この写真だけでもう、行けたような気がします」
と言いました。
うおおお、S村さん、いいひと!
これはぜひとも、10分間旅行に連れて行かねば!

「その”行けたような気がする”が10分間旅行には大事なんです」
俺はそういって、S村さんに耳栓とヘッドフォンを渡しました。
「なんですか、これ」
「これからこのベッドでドイツへ移動します。
猛スピードですから、それなりに音がしますので、
到着するまで耳を保護するために耳栓とヘッドフォンをつけてください」
「でも、わたしにはもう旅行なんて」
「大丈夫ですから!」
俺はどん、と胸を叩きます。
「写真を見たS村さんなら、絶対にドイツに行けますから!
信じてください。
ただ、その気になってくださればいいんです
あと、10分間旅行では、景色を見ることはできません。
世界のどこへでも行ける代わりに、目に目隠しを当てさせていただきます」
「ふふふっ、おかしいな方ですね。変わった遊びですね」
笑いながら、S村さんは写真を置きます。
俺がそっとS村さんの目に三重にしたガーゼタオルを巻きます。
「では、出発します。耳栓をつけますね」
斎藤君がヘッドフォンの装着を手伝います。
いよいよ10分間旅行が始まりました!

S村さん:「うすぼんやりしてますけど……あ、凄い風!」
びゅうびゅうとS村さんに風が当たります。
ベッドもガタガタと揺れました。
S村さん:「急に寒くなってきました。風が冷たい」
斎藤君が耳栓とヘッドフォンを外します。
俺:「そろそろドイツに着きますよ!」
S村さん:「え、もう?」
俺:「はい、わたしたちはドイツのカウフボイレンのクリスマス市の上空にいます。
  降りますね」
S村さん:「きゃっ、なにか冷たいものが顔に」
俺:「雪です。カウフボイレンはホワイトクリスマスなんです。
  傘をさしましょう。あと失礼して手袋をはめさせていただきます。
  とても冷えますから」
S村さん:「え、本当にここはドイツなんですか」
俺:「はい。音も聞こえてくるでしょう?」
S村さん:「本当だわ、ドイツ語かしら、たくさんの人がいるみたい」
俺:「クリスマスソングも流れていますね。
  さて、S村さんはクリスマス市のどこへ行きたいですか?」
S村さん:「行きたいところ……ああ、もし本当に行けたら……。
  クリスマス市は出店がたくさん出ているんですよね、
  市場のお店もとってもきれいで……。
  ショーウィンドウを見てみたい……」
俺:「旅行の規則なので、お見せすることはできませんが、
  ご希望の場所にはお連れできます。
  まずクリスマス市の出店に行ってみましょう」
S村さん:「出店、なんの出店ですか」
俺:「季節柄寒いですから、温かいものをだすお店に行きますね。
  ドイツと言えば、ビールとソーセージですけど、
  クリスマス市の出店でもソーセージをあぶっていますよ」
S村さん:「本当だわ、お肉の焼ける匂いがする」
俺:「ハーブ入りの太いソーセージですね。
  あと、シュトーレン、ホットワインなんかもよくあります。
  香りがするでしょう」 
S村さん:「お酒の匂いがする……」
俺:「野外ですから、冷えませんか?
  S村さんのご体調ではお酒は無理ですけど、
  あったかいココアなんかいかがですか?」
S村さん:「えっ、いただけるんですか」
俺:「もちろん。ちょっと待ってくださいね、注文しますから」
S村さん:「信じられないわ……」
俺:「はい、熱々のココアです。飲むとき、やけどしないでくださいね」
S村さん:「本当にココアだわ。陶器のマグカップに入ってる……。甘くて温かくて美味しい」
俺:「出店はたくさん出てますけど、旅行の時間は10分間だけですから、
  せっかくですから、どこかお店に入りましょう。
  いいですか」
S村さん:「はい!」

俺:「ここはクリスマスのオーナメント(飾り)を売っているお店です。
  室内なので、手袋は外しましょう」
S村さん:「空気が暖かくなってきたわ……それにさっきよりも明るい」
俺:「店内にはオーナメントがたくさん飾られています。
  お店の中央にはS村さんより大きなツリーがありますよ。
  市場に面したショーウィンドウには天使の飾りと楽団の人形が置かれています。
  照明にオーナメントがキラキラしていて、とてもきれいですよ」
S村さん:「ああ、見てみたい……」
俺:「じゃあ、オーナメントをいくつかお渡ししますね。
  旅の記念に本場のクリスマス市の飾りを触ってみてください」
S村さん:「触れるんですか?!」
俺:「もちろん。これは何だと思います?」
S村さん:「尖ってる……。五芒星の形……。
  わかったわ、ツリーのてっぺんに飾る星ですね!」
俺:「そうです。ではこれは?」
S村さん:「人形……羽根がついてる。天使だわ。
  足のクリップでツリーに留めるんですね」 
俺:「こっちはなんでしょう」
S村さん:「ベルだわ! 本当にちりんちりん可愛い音がする」
俺:「ではこれは?」
S村さん:「長くて手触りがいい……リボンですね?」
俺:「そうです。金糸を織り込んだ赤いリボンです」
S村さん:「緑のツリーに映えそうですね」
俺:「はい。では最後にこれは?」
S村さん:「台座みたいなものの上につるつるの丸い玉……。
   なにかしら?」
俺:「これはスノードームというおもちゃです。
  玉の中に水と雪と人形が入れてあって、
  振ると、雪が舞い上がって、雪景色を楽しめるミニチュアの世界です」
S村さん:「まあ、素敵だわ。見てみたい」
俺:「残念ですが、決まりですから、ここでは見られません。
  名残惜しいですが、そろそろ10分ですね。
  日本に帰りましょう」  
S村さん:「えっ、もう時間ですか。ああ、もっといろいろ回ってみたい」
俺:「また来年、今度は違う街のクリスマス市にお連れしますよ。
  では耳栓をつけます」
S村さんの耳に耳栓とヘッドフォンが装着されます。
S村さん:「また凄い風だわ」

「はい、日本に戻ってきました。
いかがでしたか、10分間旅行は」
目隠しを外されて、眼をぱちぱちしているS村さんに俺は訊きました。
S村さんはうっすらと涙ぐみながら、言います。
「素敵だったわ、本当に素敵だった。
何十年ぶりに雪を感じて、ココアをいただいて……お店では飾りまで触って。
どうやったんですか?
まるで本当にベッドごとドイツに行ったみたいでした」
「ですから、10分間旅行社ですから。 
どんな方でも、どんな場所へでも、10分間だけお連れします。
嘘ではなかったでしょう?」
「ええ、本当に。本当にわたし、ドイツのクリスマス市に行ったのね」
これが事実だったら、どんなによかったでしょう。
S村さんはそっと目を伏せました。
俺は言います。
「S村さん、わたしたちは嘘はついていませんよ。
あなたは本当にドイツに行っていたんです。
それが真実ですよ」
「え、でも、まさか」
「その証拠にホラ」
俺はS村さんのベッドサイドテーブルを指さします。
「ちゃんとお土産まで、ありますよ」
テーブルの上には、赤いリボンが巻かれたあのスノードームがありました。



以上、ホラ九割程度で。 
この話、具体的になにをどうやったのか、ネタバレしてもいいんですけど、
しないほうが楽しいと思います。
今回のドイツ訪問、これは無理ではありません。
準備さえしておけば、まったく問題ありませんでした。
あとは俺の話術というか、演出ですね。
これは嘘ではなく、ホラだからこそ、できた奇跡です。
S村さんはこの日、スノードームを抱きながら眠ったそうです。
きっとまたドイツへ行ったんでしょうね。
ブログランキング参加中にて、
「うおおお、ネタバレ希望!」と思われた方、
「確かにドイツに行ったらしい」と思われた方、
「えーっ、どこまでが本当?!」と気がかりな方は下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
どうしても真実ではなく、事実が知りたい、という方へ。
世の中、そっとしておいたほうが楽しい場合もありますよ。
何をどう使ったとか、知ったら、しらけちゃうかもしれないですからね。
ただヒントとして言えるのは、
「男爵が話している間、斎藤君は大活躍していた」ということです。
「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」は、
今回も新しい伝説を作りました。
次の伝説がどんなものかは、神の味噌汁です。

« 空を飛ぶ方法。その1。 | トップページ | おとしだま、もらいました。 »

「医療法人●●会●●病院の伝説の二人組」」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568051/62942661

この記事へのトラックバック一覧です: 空を飛ぶ方法。その2。:

« 空を飛ぶ方法。その1。 | トップページ | おとしだま、もらいました。 »