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2015年6月14日 (日)

貝の名前。

どうもこんばんは、黒羊男爵です。
えー、数々の体調不良及び不運に見舞われていますが、
生きてます。
しかも入院しないで済んでます。
これって、俺の人生的にはかなりマシなほうです。
定期的に病院に行くのは仕方ないとしても。

いつもの病院で、いつも通りの定期診断。
その後、お変わりないですかー。
ないですよー。しいて言えば、アンラッキーが五割三分増しくらいですかねー。
お薬増やしますかー。あんまりよくないんですけどー。
いや、もう不運と不調には慣れてるんで、結構ですー。
じゃあまた来月も来てくださいねー。
わかりましたー。そんじゃまたー。

てな感じの会話をいつもの先生と交わして。
執事が会計を済ませている間に、ふらふらと院内を歩き回り。
目的の人物に出会いました。
「久しぶり―」
私は片手をあげます。
「久しぶり―」
少年はジャンプして、私のあげた手にハイタッチしました。
「どうよ、調子は?」
顔なじみの入院患者のS君に尋ねると、
「別に、大丈夫だよ」
とはっきりしない答えが返ってきました。

S君は小学三年生です、学校に通えていれば。
でも病気が悪くなってしまって
もう二年ほど、この病院に入院していました。
わたしは毎月の定期検診時にふとしたきっかけで
S君と話すようになり、
それからなんとなく、毎月S君を訪ねては
二人で待合室の隅っこの椅子に座って、
足をぶらぶらさせながら、だべるようになっていました。

「あー、俺に気を遣わなくていいよ」
わたしはS君に言います。
「病状が悪くなってたら、体調悪いって言っていいよ。
俺だって病人だし、
それに、君の通りすがりの知人程度の仲だしね。
イイコを演じる必要はない。
お互い、どうでもいい仲じゃないか。
遠慮せずに言いたまえ」
「検査結果が悪くて……」
S君は短く返します。
「お母さんが、元気ない……」
S君のお母さんは仕事の帰りに毎日 病院へ来て、
S君を看病しています。
お父さんはいません。
S君はお母さんがとにかく大事で、大切にしているのです。
そんなお母さんが自分の病気のせいで、
苦労して疲れて、落ち込んでいる。
S君にとってはなによりの大問題でした。

「なるほど、わかった!」
俺は立ち上がり、腰に手を当ててふんぞり返ります。
「今日はそんな君に、いいものを持ってきたよ!」
パンパカパーン。
口で効果音を言いながら、私はカバンを探ります。
ええと、今日は何だったかな。
だいたい外出するときは、他人との会話のネタになるように
なにかをカバンに入れてきてるんだけど、
今日は何だったかな?
でがけに慌てて適当に入れたから、あんまり記憶がない。
あ、あった。
「ジャーン!」
再び効果音を言いながら、俺の手がかざしたそれは、
「え、サツマイモ……?」
S君の目を点にさせてしまいました。

なぜよりによって、今日はサツマイモだったのか。
ミニカーとか、プラレールとか
小学生男子の心をそそるものだったらよかったのに。
俺は心が折れそうになりますが、
(イモを入れたのは俺自身で、悪いのは俺ですが)
勇敢に事態に立ち向かいます。
「違うよ、これはサツマイモじゃないよ」
「え、どう見てもイモじゃないの」
S君はもう不審者を見る目でオレを見つめます。
「イモじゃないなら、なんなの?」
「これは、貝です」
俺は断言しました。
「その証拠に、耳に当てると、海の音がします」
「え、どういうこと?」
「まあまあ、物は試しでやってみればいいよ」
俺はS君にサツマイモ、もとい、イモの形をした貝を渡します。
「それを耳に当ててみて。潮騒が聞こえるから」
「……」
S君はおっかなびっくりそれを耳に当てます。
「ね? 聞こえたでしょ」
「……何も聞こえないけど……」
「ウッソだー! 聞こえるよ。ホラ、ザーンって。ザザーンって」
「……やっぱり聞こえないけど……」
「うーん、これは問題だね」
俺はS君の頭をわしゃわしゃと撫でます。
「いいかい、この貝で海の音が聞こえない人はね、
心が弱ってる人なんだよ」
「え?」
「心が元気な人なら、音が聞こえるんだ。
だから、聞こえないなら、それは心が弱ってる証拠。
S君、きみはいま心が弱ってるみたいだね。
元気がないんだ」
「……そうかも、しれないけど……」
「心が元気な人なら、笑って、音が聞こえた! って言うはずなんだよ。
だから、きみはね、いま心が弱ってるんだ。
君を一番悩ませているのは、病気じゃないよ、
一番、心を弱らせるのは、病気じゃない。
大切な人――お母さんのことなんだ」
「……」
「これからどうしたらいいか、わかるかい?」
「……わからない」
「この貝をお母さんに渡すんだよ」
俺はしっかりとそれをS君に握らせます。
「で、お母さんには海の音が聞こえるかどうか、訊いてごらん?
もし聞こえるって言われたら、今度はS君、きみにも聞こえるようになるよ。
もし聞こえないって言われたら、きみはクソ真面目な顔でこう言うんだ。
絶対、聞こえるよ、だってぼく聞いたもん、て」
「……え」
「この貝から、海の音が聞こえたって、言ってごらん?
できるだけ真剣な顔で、おごそかに、言うんだ。
お母さんはたぶん、
そんなわけないじゃない、って、嘘ついちゃ駄目よって言いながら、
ちょっとだけ笑ってくれるよ。
そしたら、きっときみも、笑えるだろう?
ふたりで耳を澄ませて笑えるだろう?」
だから、この貝は君にあげる。
俺はそう言って、S君の肩を叩きます。
「心が元気じゃないときは、優しさと笑いが効くんだよ。
同情じゃなくて、共感が効くんだよ。
だから、ふたりで同じ体験をして、笑ってみて。
もしそれでも、やっぱり海の音が聞こえなかったらね」
俺は一度言葉を切り、それから、
「あん畜生、だましやがったな! って叫んでごらん?
たぶん、やっぱり笑っちゃうから。
いいね? これが俺のきみへの処方箋」
「……なんだかよくわかんないけど、やってみる」
お母さんが少しでも笑ってくれるんなら。
S君は大事そうに、それを膝の上に置きました。

「じゃあまた、来月ー!」
俺はそう言って、会計を済ませた執事と合流します。
「あ、ありがと」
S君は小さく言いました。
やっぱり、いいこだなあ、この子は。
だから俺も最後に教えてあげました。
「その貝の名前はね、ホラ貝っていうんだ。
お母さんが笑ったら、言ってみて。
たぶん、もう一度笑ってくれるよ」




以上、ホラ七割程度で。
病気になると心も元気がなくなります。普通はね。
それが当たり前です。
だって体と心は同じものの表裏だからね。
で、体は健康にはできないときがある。
もう人間の手ではどうにもできないときが。
でも、心は、そんなに絶望することない、と思います。
笑いで少しだけ浮上できるときもある。
そんな笑いをたくさん、作れたらいいなと思います。
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いや、イモだと判明した瞬間は、冷や汗が出ましたよ。
何も今日に限って小道具=イモじゃなくてもいいのに、と思った。
どうにか話をまとめましたが、これかなりな綱渡りでした。
明日の小道具はもっとマシな、話しやすいものにしたいと思います。

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