« 花火のような人生。 | トップページ | 喜怒哀楽。 »

2014年8月24日 (日)

動け。

どうもこんにちは、黒羊男爵です。

昨夜、寝付けずにベッドの天井を見上げていたオレは、
天井から水色の煙が漂いだし、
象みたいな形になるのを目撃しました。

ああ、あいつか。

妖怪です。妖怪友達の露流しがやってきたのでした。
露流しは見た目、空色の象みたいな妖怪です。
好きなものは和菓子。
そして、苦い涙。
獏(バク)が悪夢を食べるように、
露流しは人間の涙を食べる妖怪なんです。
正確に言うと、涙の重さを食べ、
一晩 その人が眠ることができるようにしてくれる妖怪です。
(前回 露流しがやってきた時の日記は下記)
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2013/02/post-a866.html

そんな妖怪が、
「……なんでよりにもよって今日来たんだよ」
オレはぶっきらぼうに言いました。
「いま和菓子ねえぞ」
露流しは穏やかに言います。
「違うよ、涙にひかれてきたんだよ」
「うっさいわ」
オレはごしごしと目元をこすりました。
露流しは静かに言いました。
「幸せな涙は辛くて苦くてまずい。
不幸な涙は甘い。
君、どうして甘い涙を流していたの」
「……うっさいわ」
「うるさくないよ、友達だよ」
「……うっさいわ」
そうもう一度言ってから、オレはむくりと起き上がり、
「ごめん」
と露流しに頭を下げました。
いまのは、オレが悪かった。
露流しは友人のオレを心配しているだけなんだから。

「どうしたんだい、こんなに甘い涙は久しぶりだよ」
また持病が増えたの?
露流しが訊いてきたので、
「いまさら持病くらいでは泣かない」
とオレは答えました。
「持病は死ぬまでオレが抱えるものだ。
死ねばなくなる。百年後にはない。
それくらいで、泣かない」
「じゃあ、どうしたの」
「……無力と非力の差について考えてた」
「無力と非力の差?」
「似てるけど、ぜんぜん違う」
オレは露流しに洗いざらい話すことに決め、
話し始めました。

「昨日の夜、子猫の声がしたんだよ」
うちの屋敷がある住宅街のすぐそばから。
「気になって見に行ったんだ。
飼うことはできないけど、
保護することや病院に連れていくことはできる。
オレは非力だけど、無力じゃない。
そう思ってた」
「うん」
「そしたら、ある家から主婦が一人出てきて。
やっぱ鳴き声気になるからって一緒に探し始めて」
「うん」
「子猫の居場所を突き止めたんだけど、
その子猫が隠れてる物置がある庭に入るには、
住民の許可が必要だからって、
主婦がその家をピンポンして」
「うん」
「そしたら、またひとり主婦が出てきて。
で、主婦の輪が広がって、どんどん、
知り合いの近所の主婦が出てきて、五、六人は出てきて」
「うん」
「最後には、主婦に連れられて、子供まで何人も出てきた。
『子猫―?! どこー?!』とか子供が喚きだして」
「うん」
「子猫がおびえてパニックになって」
「うん」
「オレは落ち着かせて、捕獲しようとしたんだけど、
子猫、もうわけがわからなくなってて。
追いつめられて、夜の住宅街を走り去ってしまったんだ。
捕まえることはできなかった」
「うん」
「最近、暑いだろ。
今日だって三十度以上あっただろ。
こんな暑い中、あんな小さな子猫が
隠れる場所もなくして、生きられるわけがない。
そう思ったら、なにもできなかった自分に
腹が立って、腹が立って。
オレは非力だと思ってたけど、
それは思い上がりで。
結局、無力で」
オレは自分の両手を眺めました。
「あのとき、子猫が走り去るとき、
手を伸ばせばよかった。
もっと積極的に捕まえようとすればよかった。
落ち着かせてとか考えずに。
オレは肝心な時に動かなかった。
……動かないのは、駄目だ」
オレは目頭を拳でこすりました。
「結局、非力と無力の差って、
動くか動かないかなんだ。
その程度の差なんだ。
だったら! オレ動けよ! って話だよ!
てか、なにを茫然と見送ってんだよ、
動けよ!」
オレは最後はもう、涙混じりに怒鳴りました。
「それでずっとひとりで泣いていたの」
露流しはじっとオレを見つめました。

露流しは言葉をつづけました。
「それは確かにそうかもしれない。
非力と無力の差は、
動くか動かないかの違いなのかもしれない」
露流しは言いました。
「けど、そうやって自分だけ責めるのもよくないよ。
だって男爵はまさか主婦がそんなに何人も出てくるなんて、
思わなかったんでしょ」
「……うん」
「まさか子供まで出てくるなんて、思わなかったんでしょ」
「うん、子供が出てきて、子猫が隠れてる物置を
バンバン叩くとは思わなかった」
「僕は言うけど、友達だからじゃなくて、
客観的に言うけど、
そんな状況でちゃんと子猫を捕まえられるほうが
無理があるよ。
たぶん、誰にも無理だよ、その状況で捕まえるのは」
「けど、オレが動かなかったから、
可能性がゼロになったんだ!
動けば、まだ可能性はゼロじゃなかった!」
「主婦たちはその間、何してたの」
「普通に、子供放置して輪になって世間話してた」
「僕、思うけど、その子猫のこと、
こんなに気にしていたの、男爵だけじゃないの。
主婦たちは珍しいから出てきただけで、
助けようとしてたの、男爵だけじゃないの」
「……そうかも、しれない」
「男爵、悪くないよ」
「でも、オレは無力だった、悔しいし、腹が立つ!」
「仕方ないひとだなあ」
露流しはなぜか少し笑いました。
「男爵は、欲張りなんだねえ」
「欲張りでもいい、子猫を助けられるんなら」
畜生、とわめいて、
オレは枕に顔をうずめました。
駄目だ、やっぱり涙が出てくる。

「執事さんはこの件について、なんて言ってたの」
露流しが尋ねてきたので、
オレは答えました。
「きっとあれから逃げ込んだ先で、保護されてるって。
いいひとがいて、ちゃんと子猫を助けてくれるって」
「僕もそう思うよ」
「そんなん理想論だろ! 気やすめだろ。
世の中 そんなに甘くねえよ!」
「君の涙は甘いけどねえ」
露流しは長い鼻をのばして、
ふんふんと空気の匂いを嗅ぎました。
「君さあ、前回来た時に
今度はとびっきり苦い、幸せな涙を用意するよって、
言ってくれたでしょ。
駄目じゃない、こんなに甘くちゃ。
約束破りだよ」
「うっさいわ」
オレは枕を離して怒鳴ります。
「好きでこんなに無力感に打ちのめされてるんじゃねえ!
オレの馬鹿、ホント、オレの馬鹿!
動けっての、どうしようとか考えるより動けっての!
動かねえなら、どんなごたく並べても、
無駄無駄、無力なんだよ、畜生」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
露流しは鼻を揺らして耳を広げます。
「もし君をぼくが喜ばせることができたら、
君はとびきり苦い、幸せな涙をくれるかい?」
「そんなんできたらな!
いくらでも出してやるよ! できんけどな!」
「ふふふっ」
露流しはちいさく笑って、話し始めました。

「今日は夕方 雨が降ったでしょう」
「降ったね」
「僕は気分がよくて、ここの近所の雨上りの道路を歩いていたんだよ」
「え、おまえ、道路歩いたの? 大丈夫か」
と言って、オレは、ああ、そっかと納得しました。
妖怪は見える人にしか見えない。
この派手な空色の象も、見えない人には見えない。
露流しは続けます。
「そしたらね、いたよ」
「なにが?」
ぽかんとするオレに露流しは目を細めて笑いかけました。
「ちっちゃなピンクの首輪をした子猫がね、
道路に沿って歩いて、角のあの家へ入っていったよ。
ねえ、こんな頻繁にこの場所で子猫が出現するわけないから、
あの子は、きっと男爵が捕まえ損ねた子猫だよ。
いまはもう、ちゃんと家があって、
家族がいるんだよ」
「……その話、マジか」
「マジマジ」
「そっか」
あの子猫、死ななかったのか。
助けてくれる人がいたんだな。
オレは何もしてないけど、
オレは今回 ホントに無力な役立たずだったけど、
でも、ハッピーエンドになったんだな。
胸の内側が温かくなりました。
よかった、本当によかった。
ぽろりと涙の粒が手元にこぼれました。
「約束」
と言って、露流しが鼻を伸ばしたので、
オレも笑いながら「ほらよ」と、
最後に流した涙をのせた拳を差し出します。
露流しは拳から鼻で何かを吸い込んで、
その鼻を口元に持っていってモグモグと口を動かし、
「苦いなあ、まずいなあ」
と言って、笑いました。
「うん、やっぱり涙はまずいほうが
僕は好きだな」
「物好きだな、おまえ」
「男爵もだよ。見ず知らずの子猫一匹のために
すっごくたくさん泣いたじゃない」
「知らないな。オレはそんな泣いたりしてねーよ。
なにせ、冷たい人間だからな」
「ふふふっ」
露流しはオレと目を見合わせて笑うと、
天井のほうへ浮かび上がりました。

「じゃあ、またね。
また、まずい、とびっきりまっずい涙を飲ませてね」
「おう」
オレはけろっとした顔で手を振りました。
バイバイ、と露流しが消えていきました。
直後に、
「失礼いたします」
ノックとともに、執事がやってきました。
「ご主人様、昨夜の子猫でございますが、近所の話によりますと」
「ああ、角の家で飼ってもらえることになったんだろ」
「ご存知でしたか」
執事は驚いて、
「ですが、ご主人様は今日一日、
寝室に閉じこもっておられたのに、どうしてご存知なのですか」
と訊きました。
オレは布団を引き上げて、横になりながら、
「さあね」
と答えました。
妖怪たちは時折我が家にやってきて、
世間話をしたり、おやつを食べたりします。
オレは妖怪が大好きです。
なんつーか、やつらのゆるさが好きです。
でもなによりも好きなのは、
「こっそり、友達が教えてくれたんだよ」
やつらがオレの友達だからです。


以上、ホラ三割程度で。
真実が混じってることが驚きの場合もありますね。
ですが、非力と無力の差って、
行動するかどうかだと思います。
もちろん、行動する以上は、ちゃんと責任取ろうね!
責任取らないのに行動するのは、
ただ状況を悪化させるだけだからね!
ブログランキング参加中にて、
「こんな友達・妖怪なら、いてもいい」と思われた方は
下記をクリック。
にほんブログ村 その他日記ブログ たわごとへ
にほんブログ村
あなたがひとりで泣いていたら、
きっと露流しがやってきて、
涙の重さを吸い取ってくれるでしょう。
やつはそういう妖怪です。

« 花火のような人生。 | トップページ | 喜怒哀楽。 »

妖怪話」カテゴリの記事

コメント

きゃっ!久しぶりにのぞいてみたら、
大好きな露流しさんが!!
(最近、PC開かなくて、ご無沙汰でした!)
露流しさん、いつもここぞの時に
来てくれますね。
最後は、苦い涙になってよかった。
うちにも来てくれないかな―。

jun様、こんにちは。
露流しは「バイバイ」の時に、
これから、一足早い紅葉を見に北のほうへ行くと言ってました。
秋になり次第、紅葉前線(?)を追いかけて
北海道の北端から九州の南端まで全国を南下するみたいです。
どうかとびっきり苦い、まずい涙をご用意ください。
きっとやつは旅の途中、喜んでjun様のおたくにうかがうと思います。
コメント、ありがとうございました!

残念ながら、苦い涙も甘い涙もないんですよねー。
でも、露流しには是非とも会いたいから、
こっちに来るまでに頑張ろうかな。
北九州に来るのは、10月末くらいでしょうか。
来た暁には、すぐに連絡しますねー。
コメント返しどーもでした!

jun様、コメント連投ありがとうございます!
そうですね、10月末ごろに
そちらにうかがうのではないでしょうか。
幸せな、すっごくマズイ涙の用意をお願いいたします。
あ、でも、露流しはみたらし団子も好きです。
涙が無理でしたら、みたらし団子をあげてください。
そのとき、わたしが「また来いよ」と言っていたと
伝えていただければ幸いです。
そろそろ秋が近づき、一反木綿がアンニュイになる季節です。
妖怪の話は、そのうち、またいたしますね。
ではでは(^ ^)/

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/568051/60202224

この記事へのトラックバック一覧です: 動け。:

« 花火のような人生。 | トップページ | 喜怒哀楽。 »