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2014年5月25日 (日)

君にサプライズを。その3。

前回までのあらすじ:
 いつものように入院した先で
 ツーカーコンビ・斎藤君とともに
 伝説を作る毎日の黒羊男爵。
 ある日、斎藤君が難題を持ち込んできた。
 「長期入院で希望をなくした乙女・岸和田さん(仮名)を
  オレたちで笑顔にするんだ……!」
 しかし、斎藤君が紹介した悲劇のヒロイン、
 助けを求める麗しの乙女は、
 貧相な体型で口の悪いクソ生意気な、リストカットを繰り返すガキだった……。
 はたして男爵は岸和田さんの度肝を抜くことに
 成功するのだろうか……?!(※趣旨が変わってる)

「えー、ベニヤ板、ダメそう?」
オレは斎藤君に確認します。
ベニヤ板担当の斎藤君は金づち片手に、
「うん、無理っぽい。
重すぎるし、窓枠のサッシに釘が刺さらない」と
説明しました。
仕方ない。
「じゃあ、バルサ材でいくか。
バルサ材+ガムテで。
それでそれらしくなりそうかな?」
「たぶん大丈夫。男爵のほうは?」
「力を入れて作業しすぎたせいで、
右手を一時期、痛めたけど、大丈夫、
なんとなかりそう」
「じゃ、決行は予定通りに?」
「明日でいいよ。
明日の昼、必ず、岸和田さんを十分間、
病室から連れ出すんだぞ」
私の命令に、斎藤君は敬礼します。
「イエッサ―」
「ふふふ、今に見ておれ、クソガキが」
わたしは不敵に笑います。
「大人の本気を見せてやるよ!」
(※完全に趣旨が変わってます)

「斎藤のおにいちゃんだよ~」
相変わらずとろけそうな笑顔で
斎藤君は岸和田さん、もとい、クソガキの病室をノックします。
ロックが解除され、
「うるさいってんだよ、このバカ!」
鋭い蹴りが斎藤君の下腹にヒットしました。
どうやら岸和田さんは今日は元気のようです。
わたしは隣の病室の窓から身を乗り出して
カーテンの隙間から一部始終を見ていましたが、
岸和田さんがこちらに背を向けたとたんに、
「やらねば!」
と素材をひきずって岸和田さんの
個室の窓に取り付きます。
まずバルサ材とガムテ。
それから模造紙と……。
オレが指示した通り、
斎藤君は病室に戻ろうとする岸和田さんの足元に
すがりついて離れません。
岸和田さんはこちらに背を向けたまま、
笑顔でもだえる斎藤君を足蹴にしています。
あいつ、ああいう習癖があるとは知らなかったよなー。
Mの血が流れているとはホント知らなかった。
などと考えつつ、わたしはすばやく作業し、
予定通り十分以内で準備は完了しました。
「よっしゃ」
あとは口先で岸和田さんを乗せるだけです。

「なに、またSMプレイやってんの」
懲りないねえ、とわたしは蹴る岸和田さんと蹴られる斎藤君の
前におもむろに登場します。
「プレイじゃない。本気だから。
本気で斎藤には死んでもらいたいから」
「またまた~。自殺願望があるのはおまえのほうだろうが。
斎藤君はオレと同じく、生にしがみつく立派な病人だから」
「うるっさい、二人ともさっさと消えろ! 死ね、バカ!」
今日も岸和田さんの悪口は絶好調です。
遠慮や礼儀という言葉を知りません。
わたしは畳みかけます。
「そんで、その後、どうなわけ?
いまも生きてるところをみると、
自殺には失敗続きなわけ?
リストカットやめたの?
まあ、リストカットじゃなかなか死ねないけど」
私の問いかけに岸和田さんは舌打ちします。
「うるっさいなあ、もう! いつどう死のうが、あたしの勝手でしょ」
「相変わらず、外の世界を全否定?」
「どうせ病院から出られないんだから、
外の世界なんてある意味ないでしょ!」
消えればいいのに、と岸和田さんは毒づきます。
ホント、かわいくないガキだよ。
くそったれ(罵詈雑言、申し訳ありません)。

「まあ、今日はそんな腐った根性のお前のために
オレたちが特別なプレゼントを用意してやったぞ」
わたしは声高らかに宣言します。
「ちょっとでも驚いたら、オレたちの勝ちな。
動揺したり、泣いたり、笑ったりしたら
オレたちの勝ち、
相変わらずおまえが腐ったこと言ってたら、
お前の勝ちだ」
「なんの勝負なの、バッカみたい」
岸和田さんは顔をそらして言いました。
「いまさら、あたしがなんかを見て動揺するとでも思ってるの?
世界に興味なんかない。
なにがどうなろうが、驚いたりしない」
「その言葉に二言はないな」
「バーカ、バーカ」
「ふうん、あくまでそういう態度をとるわけだ」
わたしは個室の窓際へ移動します。
窓には岸和田さんが引いたカーテンがかけられています。
「おまえがあんまり外の世界を馬鹿にするからなあ、
……世界がお前を拒絶するようになっちまったんだよ!」
わたしの手がカーテンをいっぱいに開きます。
窓は、すべて外側から板で覆われていました。
廃屋のように、外が見えない状態になっていました。

「な、なにこれ?!」
岸和田さんがギョッとして窓に駆け寄ります。
「どうして、誰がこんなこと!」
「だから言っただろ。
外の世界になんか興味ない、
自分の人生にも興味もないおまえに
外の世界は必要ない。
だから、そう思ったら、見られないように、
物理的に封鎖してやったんだよ」
わたしは鼻をほじりながら、言ってやりました。
「これがおまえの理想の世界だ。
窓なんかいつ見ても、病院の塀と空しか見えなくて
意味がないって言ってカーテン閉めたよな?
人生投げるつもりなら、カーテンなんか生ぬるいぜ。
これくらいしなきゃ、覚悟がなってねえ」
「だ、だからって」
岸和田さんは眼をいっぱいに見開いて窓を見つめ、
それからオレたちを振り返って叫びました。
「だからってこんなことまですることないじゃない!
絶望に絶望を重ねるようなことしなくてもいいでしょ!
これじゃ空も見えない、何も見えないじゃない」
「おまえが見たくねえって言ったから、消しただけだ」
わたしは真剣な表情で返しました。
「わかったか。おまえが覚悟半分で言ってた
『世界なんかいらない』ってことは、こういうことだ。
こういうことなんだよ。
空すら見えない、そういう場所に、
自分で自分を追い込んでるってことなんだよ」
「……そんな……」
岸和田さんはなにかを噛みしめるようにこぶしを握り、
ギッと顔を上げてオレと斎藤君をにらみました。
「いいわ、じゃあ、もうこれがあたしの世界でいいわ!
中途半端な覚悟じゃダメなんでしょ、
なら、いいわよ、もう一生、このまんまでいいわ!
どうせあたしの人生なんか、大したものを見ることもなく
終わっていくんだから!」
とわめきました。
ほほう、やはりそうきましたか。
素直にこれで折れる小娘ではありませんでしたか。

「これでいいわよ、上等じゃない!」
岸和田さんは板を指さします。
「これで満足?! 残念でした、
あたしはちっともなんともないわよ、
どうせ出られない外なんか、
ふさいでもらって、けっこうよ。
どうせ大したものなんか一生見られないんだから。
キレイなものも、感動するようなものも、
なんにも、見られないのが、あたしの人生なんだから」
「おまえ、その言葉に二言はないな?」
わたしは重ねて確認します。
開き直った岸和田さんは鼻息も荒く、
「ないわよ。ええ、いいわよ、どうせこの病室が
あたしの棺桶みたいなもんなんだから」
と返しました。

わたしは深く息を吸いました。
それから、出せる限りの大声で、
「この大馬鹿者!!!!!」と叫びました。
「そんなんだから、キレイなものなんか見つからねえんだよ。
てめえの心が濁って淀んでるから、
キレイなものなんかいっくら探したって、
仮に外に出られたとしたって、見つからねえんだよ。
いい加減、ソレに気づけ。
この病室が棺桶だって?
そうしてるのは、おまえだろうが!
板で封じられて、それで納得してるような
ちっせえ枠でしか物事を考えられないから、
世界が狭くなるんだろうが。
キレイなものはある。
たとえこの病室が棺桶でも、
真面目にちゃんと探せば、キレイなものくらい、見つかるんだよ!」
「そんなもん、ないわ!」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「ない、ないもん!」
岸和田さんの甲高い声に、オレは岸和田さんの手を強くつかみ、
窓際に引きずっていきます。
「あるって言ってるだろうが、
このくそったれ」
わたしは窓を開け、岸和田さんの手のひらを板に当てます。
「ちゃんと真面目に探して、
ぶちやぶれば、キレイなもんくらい、
見るかるんだよ」
岸和田さんの手に自分の手を重ねて、
わたしは板を勢いよく叩きました。
その瞬間、ガムテがはがれて、バルサ材が落下します。

そして一面の薔薇の花で、視界が覆われました。
板の向こうは、薔薇の花園だったのです。

「な? だから言っただろ」
わたしは茫然としている岸和田さんの小さな手を離します。
「キレイなもんくらい、いくらでもあるんだよ。
ちゃんと正しく探しさえすれば、
たとえ外の世界に行けなくても、
自分の世界の中にだって、
キレイなもんはいくらでもある」
「……この花……どうして……」
岸和田さんは窓を埋め尽くす花から一歩後ずさります。
「なんで板の向こう側に……いつもの空と塀じゃなくて……」
「オレと斎藤君の魔法だよ。年上ナメんな」
わたしは病室のドアに寄りかかって
一部始終を見守っていた斎藤君に歩み寄ります。
「よく見ろよ、クソガキ」
「すごい……」
岸和田さんはもう一度窓に近づきます。
視界を埋める薔薇がすべて、
「これ、絵だ。……絵だったんだ……」
真実に気づいてこちらを振り返りました。
「お前を閉じ込めていたのは、おまえだ。
わかったか」
わたしと斎藤君は並んで、こちらと窓一面の絵を交互に
見つめる岸和田さんを眺めます。
岸和田さんは、満足げなオレたちを見返して、
「どんだけ手間と時間かけてんの……バッカじゃないの、
バッカじゃないの」
といつものように罵倒して、笑いならがら泣きました。
その顔を見て、オレは深くうなずきます。
「オレたちのミッションはこれで終了だな、斎藤君」
「そうだね、男爵。ちゃんと笑わせたね」
「『ちゃんと』かどうかはもうどうでもいい。
とにかくオレは疲れた。帰るよ、斎藤君」
「じゃあまたね、岸和田さん」
名残惜しそうな斎藤君をひきずって、
オレは絵の前で立ち尽くす岸和田さんの前から退出しました。


以上をもちまして、
男爵&斎藤君コンビによる
『岸和田さんを笑わせるぜ』ミッションは完了しました。
笑わせると同時に泣かせてしまいましたが、
まあ、こんなもんでしょう。
わたしは無感動の底にいた岸和田さんから
喜怒哀楽を引き出すことに成功しました。
あとは彼女の世界が何色になるかは、
彼女次第です。
ホラは九割ってところですかね。
手首がいまだに痛いのは事実だ。
あのねえ、模造紙十二枚分の薔薇の絵って
描くの、すっげえ、すっげえ大変だったんだからね!
手首も痛くなります。
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いや、ホント疲れました。しばらく病人やってると思います。(いつもやんか!)

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