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2014年5月

2014年5月25日 (日)

君にサプライズを。その3。

前回までのあらすじ:
 いつものように入院した先で
 ツーカーコンビ・斎藤君とともに
 伝説を作る毎日の黒羊男爵。
 ある日、斎藤君が難題を持ち込んできた。
 「長期入院で希望をなくした乙女・岸和田さん(仮名)を
  オレたちで笑顔にするんだ……!」
 しかし、斎藤君が紹介した悲劇のヒロイン、
 助けを求める麗しの乙女は、
 貧相な体型で口の悪いクソ生意気な、リストカットを繰り返すガキだった……。
 はたして男爵は岸和田さんの度肝を抜くことに
 成功するのだろうか……?!(※趣旨が変わってる)

「えー、ベニヤ板、ダメそう?」
オレは斎藤君に確認します。
ベニヤ板担当の斎藤君は金づち片手に、
「うん、無理っぽい。
重すぎるし、窓枠のサッシに釘が刺さらない」と
説明しました。
仕方ない。
「じゃあ、バルサ材でいくか。
バルサ材+ガムテで。
それでそれらしくなりそうかな?」
「たぶん大丈夫。男爵のほうは?」
「力を入れて作業しすぎたせいで、
右手を一時期、痛めたけど、大丈夫、
なんとなかりそう」
「じゃ、決行は予定通りに?」
「明日でいいよ。
明日の昼、必ず、岸和田さんを十分間、
病室から連れ出すんだぞ」
私の命令に、斎藤君は敬礼します。
「イエッサ―」
「ふふふ、今に見ておれ、クソガキが」
わたしは不敵に笑います。
「大人の本気を見せてやるよ!」
(※完全に趣旨が変わってます)

「斎藤のおにいちゃんだよ~」
相変わらずとろけそうな笑顔で
斎藤君は岸和田さん、もとい、クソガキの病室をノックします。
ロックが解除され、
「うるさいってんだよ、このバカ!」
鋭い蹴りが斎藤君の下腹にヒットしました。
どうやら岸和田さんは今日は元気のようです。
わたしは隣の病室の窓から身を乗り出して
カーテンの隙間から一部始終を見ていましたが、
岸和田さんがこちらに背を向けたとたんに、
「やらねば!」
と素材をひきずって岸和田さんの
個室の窓に取り付きます。
まずバルサ材とガムテ。
それから模造紙と……。
オレが指示した通り、
斎藤君は病室に戻ろうとする岸和田さんの足元に
すがりついて離れません。
岸和田さんはこちらに背を向けたまま、
笑顔でもだえる斎藤君を足蹴にしています。
あいつ、ああいう習癖があるとは知らなかったよなー。
Mの血が流れているとはホント知らなかった。
などと考えつつ、わたしはすばやく作業し、
予定通り十分以内で準備は完了しました。
「よっしゃ」
あとは口先で岸和田さんを乗せるだけです。

「なに、またSMプレイやってんの」
懲りないねえ、とわたしは蹴る岸和田さんと蹴られる斎藤君の
前におもむろに登場します。
「プレイじゃない。本気だから。
本気で斎藤には死んでもらいたいから」
「またまた~。自殺願望があるのはおまえのほうだろうが。
斎藤君はオレと同じく、生にしがみつく立派な病人だから」
「うるっさい、二人ともさっさと消えろ! 死ね、バカ!」
今日も岸和田さんの悪口は絶好調です。
遠慮や礼儀という言葉を知りません。
わたしは畳みかけます。
「そんで、その後、どうなわけ?
いまも生きてるところをみると、
自殺には失敗続きなわけ?
リストカットやめたの?
まあ、リストカットじゃなかなか死ねないけど」
私の問いかけに岸和田さんは舌打ちします。
「うるっさいなあ、もう! いつどう死のうが、あたしの勝手でしょ」
「相変わらず、外の世界を全否定?」
「どうせ病院から出られないんだから、
外の世界なんてある意味ないでしょ!」
消えればいいのに、と岸和田さんは毒づきます。
ホント、かわいくないガキだよ。
くそったれ(罵詈雑言、申し訳ありません)。

「まあ、今日はそんな腐った根性のお前のために
オレたちが特別なプレゼントを用意してやったぞ」
わたしは声高らかに宣言します。
「ちょっとでも驚いたら、オレたちの勝ちな。
動揺したり、泣いたり、笑ったりしたら
オレたちの勝ち、
相変わらずおまえが腐ったこと言ってたら、
お前の勝ちだ」
「なんの勝負なの、バッカみたい」
岸和田さんは顔をそらして言いました。
「いまさら、あたしがなんかを見て動揺するとでも思ってるの?
世界に興味なんかない。
なにがどうなろうが、驚いたりしない」
「その言葉に二言はないな」
「バーカ、バーカ」
「ふうん、あくまでそういう態度をとるわけだ」
わたしは個室の窓際へ移動します。
窓には岸和田さんが引いたカーテンがかけられています。
「おまえがあんまり外の世界を馬鹿にするからなあ、
……世界がお前を拒絶するようになっちまったんだよ!」
わたしの手がカーテンをいっぱいに開きます。
窓は、すべて外側から板で覆われていました。
廃屋のように、外が見えない状態になっていました。

「な、なにこれ?!」
岸和田さんがギョッとして窓に駆け寄ります。
「どうして、誰がこんなこと!」
「だから言っただろ。
外の世界になんか興味ない、
自分の人生にも興味もないおまえに
外の世界は必要ない。
だから、そう思ったら、見られないように、
物理的に封鎖してやったんだよ」
わたしは鼻をほじりながら、言ってやりました。
「これがおまえの理想の世界だ。
窓なんかいつ見ても、病院の塀と空しか見えなくて
意味がないって言ってカーテン閉めたよな?
人生投げるつもりなら、カーテンなんか生ぬるいぜ。
これくらいしなきゃ、覚悟がなってねえ」
「だ、だからって」
岸和田さんは眼をいっぱいに見開いて窓を見つめ、
それからオレたちを振り返って叫びました。
「だからってこんなことまですることないじゃない!
絶望に絶望を重ねるようなことしなくてもいいでしょ!
これじゃ空も見えない、何も見えないじゃない」
「おまえが見たくねえって言ったから、消しただけだ」
わたしは真剣な表情で返しました。
「わかったか。おまえが覚悟半分で言ってた
『世界なんかいらない』ってことは、こういうことだ。
こういうことなんだよ。
空すら見えない、そういう場所に、
自分で自分を追い込んでるってことなんだよ」
「……そんな……」
岸和田さんはなにかを噛みしめるようにこぶしを握り、
ギッと顔を上げてオレと斎藤君をにらみました。
「いいわ、じゃあ、もうこれがあたしの世界でいいわ!
中途半端な覚悟じゃダメなんでしょ、
なら、いいわよ、もう一生、このまんまでいいわ!
どうせあたしの人生なんか、大したものを見ることもなく
終わっていくんだから!」
とわめきました。
ほほう、やはりそうきましたか。
素直にこれで折れる小娘ではありませんでしたか。

「これでいいわよ、上等じゃない!」
岸和田さんは板を指さします。
「これで満足?! 残念でした、
あたしはちっともなんともないわよ、
どうせ出られない外なんか、
ふさいでもらって、けっこうよ。
どうせ大したものなんか一生見られないんだから。
キレイなものも、感動するようなものも、
なんにも、見られないのが、あたしの人生なんだから」
「おまえ、その言葉に二言はないな?」
わたしは重ねて確認します。
開き直った岸和田さんは鼻息も荒く、
「ないわよ。ええ、いいわよ、どうせこの病室が
あたしの棺桶みたいなもんなんだから」
と返しました。

わたしは深く息を吸いました。
それから、出せる限りの大声で、
「この大馬鹿者!!!!!」と叫びました。
「そんなんだから、キレイなものなんか見つからねえんだよ。
てめえの心が濁って淀んでるから、
キレイなものなんかいっくら探したって、
仮に外に出られたとしたって、見つからねえんだよ。
いい加減、ソレに気づけ。
この病室が棺桶だって?
そうしてるのは、おまえだろうが!
板で封じられて、それで納得してるような
ちっせえ枠でしか物事を考えられないから、
世界が狭くなるんだろうが。
キレイなものはある。
たとえこの病室が棺桶でも、
真面目にちゃんと探せば、キレイなものくらい、見つかるんだよ!」
「そんなもん、ないわ!」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「ない、ないもん!」
岸和田さんの甲高い声に、オレは岸和田さんの手を強くつかみ、
窓際に引きずっていきます。
「あるって言ってるだろうが、
このくそったれ」
わたしは窓を開け、岸和田さんの手のひらを板に当てます。
「ちゃんと真面目に探して、
ぶちやぶれば、キレイなもんくらい、
見るかるんだよ」
岸和田さんの手に自分の手を重ねて、
わたしは板を勢いよく叩きました。
その瞬間、ガムテがはがれて、バルサ材が落下します。

そして一面の薔薇の花で、視界が覆われました。
板の向こうは、薔薇の花園だったのです。

「な? だから言っただろ」
わたしは茫然としている岸和田さんの小さな手を離します。
「キレイなもんくらい、いくらでもあるんだよ。
ちゃんと正しく探しさえすれば、
たとえ外の世界に行けなくても、
自分の世界の中にだって、
キレイなもんはいくらでもある」
「……この花……どうして……」
岸和田さんは窓を埋め尽くす花から一歩後ずさります。
「なんで板の向こう側に……いつもの空と塀じゃなくて……」
「オレと斎藤君の魔法だよ。年上ナメんな」
わたしは病室のドアに寄りかかって
一部始終を見守っていた斎藤君に歩み寄ります。
「よく見ろよ、クソガキ」
「すごい……」
岸和田さんはもう一度窓に近づきます。
視界を埋める薔薇がすべて、
「これ、絵だ。……絵だったんだ……」
真実に気づいてこちらを振り返りました。
「お前を閉じ込めていたのは、おまえだ。
わかったか」
わたしと斎藤君は並んで、こちらと窓一面の絵を交互に
見つめる岸和田さんを眺めます。
岸和田さんは、満足げなオレたちを見返して、
「どんだけ手間と時間かけてんの……バッカじゃないの、
バッカじゃないの」
といつものように罵倒して、笑いならがら泣きました。
その顔を見て、オレは深くうなずきます。
「オレたちのミッションはこれで終了だな、斎藤君」
「そうだね、男爵。ちゃんと笑わせたね」
「『ちゃんと』かどうかはもうどうでもいい。
とにかくオレは疲れた。帰るよ、斎藤君」
「じゃあまたね、岸和田さん」
名残惜しそうな斎藤君をひきずって、
オレは絵の前で立ち尽くす岸和田さんの前から退出しました。


以上をもちまして、
男爵&斎藤君コンビによる
『岸和田さんを笑わせるぜ』ミッションは完了しました。
笑わせると同時に泣かせてしまいましたが、
まあ、こんなもんでしょう。
わたしは無感動の底にいた岸和田さんから
喜怒哀楽を引き出すことに成功しました。
あとは彼女の世界が何色になるかは、
彼女次第です。
ホラは九割ってところですかね。
手首がいまだに痛いのは事実だ。
あのねえ、模造紙十二枚分の薔薇の絵って
描くの、すっげえ、すっげえ大変だったんだからね!
手首も痛くなります。
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いや、ホント疲れました。しばらく病人やってると思います。(いつもやんか!)

2014年5月18日 (日)

業務連絡。

前回までのあらすじ:
 持病が悪化して入院した黒羊男爵。
 そこで待ち受ける数々のミッションを
 ツ-カーのコンビ・斎藤君とこなしていく。
 だが、そんな男爵を恐ろしい罠が待ち構えていた……!

どうも。黒羊男爵です。
すんません、また、ヤッちまいました。
いえ、ミッションの話じゃありません。
オレの右手の話です。
右手が動かなくなりました。
指先は動くので、現在 かろうじてブログ書いてますけど、
手首に鈍痛が走ります。
医者の先生の診断では、
神経か筋を痛めているそうで、
湿布のお世話になってます。

そんなわけで、今週はやりかけた『君にサプライズを。』の
続きをUpすることができません。
すみません。
いまこの文章を書くだけで精いっぱいッス。
来週にはもうちょっとよくなってると思うので、
カンベンしてください。


以上、業務連絡でした。
ホラは0割です。あっても0.5割くらいです。(あるんかい!)
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続きをあげられなくて、本当に申し訳ありません。

2014年5月11日 (日)

君にサプライズを。その2。

ココログにて いいね! を押してくださってる方、
ありがとうございます。
チキンなので、いいね!返しができませんが、
心の支えになっております。

前回までのあらすじ:
 いつものように病気をこじらせて入院した黒羊男爵。
 しかし入院先の病院では
 ツーカーのコンビ・斎藤君とともに
 やりたい放題、伝説を作る日々。
 そんなある日、斎藤君が難題を持ち込んできた。
 「長期入院で生きる気力をなくした岸和田さん(女性・仮名)を
  オレたちでどうにか笑かして、生きる気力を取り戻すんだ」
 はたして、男爵&斎藤君コンビは
 岸和田さんを笑顔にすることができるだろうか……?!

「まあ、でも、最初に挨拶くらいはしておいたほうがいいよね」
廊下を進みながら、オレは斎藤君に話しかけます。
「あと、好きなものとか嫌いなものとかわかると、
作戦を立てやすいしね。
敵を知れば、おのずと戦略ができるってもんだよ」
「彼女の好きなものと嫌いなものかぁ。
オレが知る限り、
嫌いなもの=生きること
好きなもの=死ぬこと だなあ」
斎藤君の台詞にオレはコケます。
「そんなん、死亡フラグまっしぐらじゃないか!
病人は生をあがいてこその病人だろ」
「彼女、いまはちょっとナーバスになってるから、
しょうがないんだよ」
「まあ、うら若い女性が長期入院したら、
ちょっとばかりナーバスになっても仕方ないかもね」
オレは自分に言い聞かせ、
岸和田さん(仮名)の病室を訪ねました。
病室の前でオレは斎藤君の服の裾をひっぱります。
「おい、個室じゃないか。
彼女、金持ちなの?
それとも重病なの?」
「両方」
答えて、斎藤君はノックしました。
「こんにちは~、斎藤のおにいちゃんだよ~」
とろけそうな満面の笑みでこう言いました。
おい、斎藤君、君、キャラが崩壊してるじゃないか。
いくら相手が美女とはいえ、
そこまでデレる必要があるとは思えない。
いや、そこまでしなければならないほどの美女なのか。
そうなのか。
オレもやる気と気分が盛り上がってきました。
斎藤君をまねて言います。
「どうも~、斎藤のおにいちゃんのお友達の
黒羊男爵もいるよ~」
扉のロックが外されて開きました。
そして、中から、
「ふたりしてバッカじゃないの」
貧相な少女がひとり現れ、
オレと斎藤君を冷たい目で一刀両断しました。

オレのセンサーがピコンと反応します。
容貌……普通
バスト&ヒップ……貧相(てか、小学生か?)
性格……悪そう、ていうか、最悪っぽい
いかん、オレの「生意気なガキ大嫌い」センサーが
ビンビンに反応している。
つーか、
「おい、斎藤君! 美女は?!
オレたちの助けを求める悩める娘・岸和田さんはどこだ?!」
オレは声を大にして斎藤君に詰め寄ると、
斎藤君は笑み崩れたまま、
「何言ってるんだよ、男爵、
ほら、岸和田さんだよ、可愛いだろう」
と言ってそのクソ生意気そうなガキを指さしました。
その指を、ガキがぽきりと折ります。
「人を指さすな、バカ斎藤」
「ぎゃあああ! 指が、指が」
斎藤君は激痛に転げまわりますが、オレは茫然と少女を凝視します。
マジか、マジでこいつが岸和田さんなのか。
「……これはオレの守備範囲外じゃないか……」
年齢といい、容姿といい、性格といい、
全部「アウト」判定です。
オレはきびすを返しました。
その足に斎藤君がすがりつきます。
「待って、男爵、待って、ちょっと話を聞いて」
「いやもう、お腹いっぱいだから。
もう聞きたい話はないから」
「本当は可愛い子なんだよ、
いまちょっとヒネちゃってるだけで、シャイな子なんだよ。
緊張してるんだよ」
「何言ってんの、斎藤、気持ち悪い」
岸和田さん――ガキは、
芋虫状態の斎藤君を容赦なく足蹴にしました。
斎藤君は笑顔のまま もだえます。
うわ、こいつ、こういう趣味のヤツだったのか。
知らなかった。
友達だけど、今日はもう付き合えないな。
オレは廊下を戻ろうとしますが、
斎藤君が足を離してくれません。
「話、話だけ聞いて、お願い、男爵~」
「「だから、おまえ、気色悪いっての!」」
岸和田さんとオレは同時に斎藤君を蹴りました。
……なんだか、こういうところは気があうな、岸和田さん。

「で、なに、生きる気力がないんだって?」
わたしは鼻をほじりながら、岸和田さんに確認します。
ガキはあざ笑うかのように、オレの目の前に自分の左手をかざします。
手首に白い包帯が幾重にも巻かれていました。
「手首、切ってやった」
「リストカットかよ、うわ、おまえ頭悪いな」
オレはもう容赦なく指摘します。
「本当に死にたいなら、手首なんか切るな。
手首じゃ なかなか死ねないぞ」
「うるさいな! いいでしょ、どこを切っても!」
あたしは死にたいんだから、とガキは大声で言いました。
生きたくても生きられなくて死んでいく人がいる病院で、
なんつーことを言うんだ、このガキは。
「死にたがりかよ、ガキが」
オレは足元で丸まってる斎藤君に言います。
「斎藤君、オレもう帰っていい? ていうか、帰る」
「待って、男爵、待って、
ふたりで岸和田さんを笑顔にしようよ!」
「ふざけんな、こんなクソガキ笑顔にする意味なんかねーわ!」
「笑顔ってどういうことよ、あたしは死ぬのよ、
笑うわけないでしょ」
オレと岸和田さんは、また同時に斎藤君を足蹴にしました。
……本当に気が合うな、こういうところだけは。

「笑いたくなんかない。
もう見たいものもない、欲しいものもない」
岸和田さんは宣言します。
オレは
「あーそ-ですか。そーですか。
じゃあさっさと生きるのやめてください。
ていうか、もう生きていないようなもんだけどね。
そんだけ外を、世界を拒絶してたらね」
言いたい放題を言います。
こんなクソガキに遠慮なんかするか。
「いや、男爵、待てって。
彼女、本当は笑顔が可愛い子なんだよ、
いまはちょっとナーバスになってて」
斎藤君がオレに懇願します。
「二人でこの子を笑顔にしよう、な?」
「断る」
オレは断言しました。
「こんなやつ笑顔にするために、労力使うんなら、
灼熱の炎天下で一生懸命 募金活動している
捨て猫保護サークルでボランティアする。
あのひとたちのほうがはるかに尊敬できるし、
猫のほうがもっとずっとかわいい」
「あたしは猫に劣るっていうの?!」
「劣る。断然 劣る」
「ふざけんな、なら笑わしてみなさいよ!」
岸和田さんが叫びました。
「こんなつまらない、くだらない、価値のない世界に
意味なんかない」
「世界は美しい、どんなにつらい時でも!」
わたしは言い返します。
「だから世界は残酷なんだ。残酷だけど、美しいんだ。
世界から目をそらしたって、その真実は変わらない」
「そんな世界、なくなっちゃえばいい!」
岸和田さんは言います。
「どうせ、あたしは死ぬまでこの部屋から出られないんでしょ、
世界の美しさなんか、欠片も見ることがないまま、
死ぬんでしょ。
だったら、早く死にたい、終わらせたいと思ってなにがいけないの?!
みんな、みんな大嫌いよ!
一生見られない世界とか、一生出られない外とか、
なくなっちゃえばいい!」
わたしはちょっと息をのんで、わめいた少女を見つめました。
彼女の態度は、その深い絶望に根差していたのでした。
斎藤君と同じ、病院から自分が出ることがないと知っている、
その絶望から、彼女はすべてを拒絶していたのでした。
たぶん、斎藤君の中にも岸和田さんはいる。
こうなってくると、オレは岸和田さんを見捨てられない。
なぜなら、岸和田さん≒斎藤君 だからです。
斎藤君が岸和田んを見捨てられないのは
オレが斎藤君を見捨てられないのと同じ理由でしょう。
オレは決心しました。

「いま、世界なんか無意味だって、言ったな?」
わたしは岸和田さんにつめよります。
岸和田さんは挑戦的に言い返します。
「言ったよ、なくなっちゃえばいいって言った」
「なら、本当になくしてしまえばいい」
オレはずんずんと病室に入り、
窓のカーテンを全部 閉めます。
部屋は一気に暗くなりました。
「外の世界なんか、いらない、そういうんなら、
もう二度とカーテンを開けるな。
だって外なんか眺めても無意味なんだろ」
「……そうよ、別に、見たいもんなんかない」
岸和田さんは受けて立ちます。
「見たって、いつも同じ病院の塀と空しか見えない。
見たいもんなんかないわ」
「じゃあもう、二度と開けるなよ」
「開けないわよ、バーカ」
岸和田さんは嘲るように言って、
オレたちを病室から蹴りだしました。
「二度と来るな、バーカ」
もう一度、オレたちを罵ると、
ドアをロックしてしまいました。

「な、岸和田さん、可愛いだろ」
あざだらけになっても、笑顔で斎藤君は言いました。
オレは斎藤君の腰に後ろから蹴りを入れます。
「どこが可愛いんだよ、可愛いところなんか1ミリグラムもねーわ。
けどまあ、驚かせるのはいいね。
あんのクソガキがビックリするところはちょっと見てみたい」
「男爵、なんかアイデアあるの」
「ないこともない」
オレはさっき思いついたことを思い出します。
斎藤君の中にも、岸和田さんはいる。
なら、オレは岸和田さんを笑顔にしなくては。
脳内で戦略とプランを検討し、オレは結論づけます。
「さいわい、オレは絵が上手だから……まあ、うまくいくだろ」
「男爵、オレはなにをしたらいい?」
「毎日、岸和田さんに蹴られてこい」
「いや、別に今でも毎日 蹴られているけど」
「挑発して、彼女が外の世界に、興味を持たないようにするんだ」
「え、逆じゃなくて? 興味を持たせるんじゃなくて?」
「できるだけ持たないほうが望ましい。
そうだな、カーテンを二度と開けないようにしておくくらいがいいだろう」
「わかったけど……勝算は?」
「あるよ、だってオレたちは医療法人●●会●●病院の伝説のふたり、だろ」
「そうこなくっちゃ」
斎藤君とオレはハイタッチします。
「今日からさっそく行動開始だ」
オレは携帯電話で執事を呼び出します。
必要な物資を手配しなくては。
ええと、いるのは金づちと釘とベニヤ板と模造紙と絵具と……。
隣で斎藤君がご満悦でスキップしています。
早くも岸和田さんの笑顔を想像しているのでしょう。

さて、男爵は岸和田さんを笑顔にすることができるのでしょうか。
いったいなにをどうするつもりなんでしょうか。
仕込みに時間がかかるため、来週に続く。


以上、ホラ九割程度で。
生きるのが嫌になることくらい、
生きてりゃ何回もあるよ。
死んだほうが楽なんじゃないかって思うときもあるよ。
けど、だからって本当に死ぬのも違う気がする。
オレの座右の銘は「死ぬときはドブの中でも前のめり」だから。
生きてるとき、すっごくあがいて、自分のベストを尽くした人だけが、
死ぬとき、満足できるんじゃないかな。
往生できるんじゃないかな。
そういうひとだけが、ちゃんと死ねるんじゃないかな。
どうだろうか。
死んだことないから、本当のところはよくわからないけど、
オレは「とりあえず生きてる間はあがく派」です。
まあ、人それぞれ考えはあると思うので、
生き方は自由だと思います。
死に方も自由だと思います。
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2014年5月 4日 (日)

君にサプライズを。

前回までのあらすじ:
 相変わらず虚弱で病弱な黒羊男爵。
 持病が悪化して何度目かの入院生活を送る羽目に。
 もう慣れたもので、病院内でも
 斎藤君というツーカーの仲間とともに
 やりたい放題、伝説を作りまくる毎日。
 そんな男爵は、今週は何をしていたのかな?

先週のはじめ、病室のわたしを訪れた斎藤君が
珍しく深刻な表情で言いました。
「最近、生きる気力が湧かない」
「へえ、奇遇だね! 実はオレも生まれてこの方、
生きる気力があったことがなくて。
もう毎日 灰色で仕方なくて。
いやんなっちゃうよね、ホントに。はっはっはっ」
斎藤君がどんな無茶ブリをしても、応えるわたし。
斎藤君は首を振ります。
「違う、違う、オレじゃない。
オレは生きる気満々だから。
それから、男爵でもない」
「へ? じゃあ婦長さんとか?
まさか院長が? やっぱり脱税してたんだ?」
「違う、違う、婦長さんでも院長でもない。
それから院長はカツラで入れ歯かもしれないけど、
脱税はしてない。オレが知る限り」
「するってえと、謎の第三の人物ですね、斎藤刑事」
「そうなんだ、被疑者はなかなか口を割らない。
割らないどころか、活きる気力がないと言う。
男爵刑事、君はこういうのどう思う?」
「イカンですね、病人から生きる気力を取ったら、
あっさり死人になってしまいます」
「そうなんだ、イカンよね。
死に抵抗してこそ、病人、生にしがみついてこそ、病人だよね」
斎藤君はため息をつきました。

「で、被疑者は誰なんスか」
わたしはベッドサイドのメモ帳を取り上げ、
刑事を続けます
斎藤君は顎をこすりながら、
「被疑者は岸和田良子(仮名)、
オレと張るくらい、入院歴が長く、
つくづく疲れてしまって、生きる気力をなくしている」
と言いました。
ほう、ほう。
「てことは被疑者はうら若い女性で、
にもかかわらず、無感動の極みにいる、ということですね」
「そうだ、彼女は若い。もったいないな」
「もったいないスね。美人スか」
「それなりに。将来に期待できるだろう。
そこでだ、男爵刑事」
斎藤君は本題を切り出しました。
「ぼくらで彼女を、たくさん笑かして、
生きる気力を持たせることはできんかね?」

うーん……。
わたしはメモ帳を捨てて真剣に考えます。
なかなか今回のミッションは難しい予感がするぞ。
だって本人に生きる気力がないのに、
それを掘り起こそうって話でしょ。
「かなりな難題ッスね」
「そう思うか? だが、やりがいはあるだろう」
「そりゃ、美人を一人救ったとなると、
大きく自己満足できそうッスけど」
「オレたちは医療法人●●会●●病院の
伝説のふたり、だな?」
斎藤君の確認に、オレは刑事をやめます。
「まあ、そうだけど」
「いままで何度も、同室の人たちを笑わせてきたよな?」
「まあ、成功したね、オレと君がやればね」
「だったら」
斎藤君は宣言しました。
「オレと君で! 岸和田さんを笑わせ、
生きる気力を取り戻すんだっ」
「イエッサ―! 男爵の辞書に『不可能』はありません。
うちの辞書、落丁本なんで!」
「そうだ、オレたちに不可能はない!
思い込み激しいから!」
オレと斎藤君は両手で強く握手し、
ここに、
「岸和田さんをどうにか笑かして
生きる気力を取り戻す会」が結成されました。
岸和田さん本人の意志とは無関係に。

果たして、男爵&斎藤君コンビは、
岸和田さんを笑かして、
前向きにすることができるんでしょうか。
このミッション、かなり難しいので、来週に続く。


以上、ホラ九割程度で。全員仮名だしね。
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「あー、オレもたまに生きる気力なくすわ」って方、
「そんなときもあるよね、でも立ち直るよ」って方、
「いったい、男爵たちはどうすんの?」って思われた方は
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まずは情報収集からですかねえ。
敵を知らないと戦えないからね。
そこらへんから、来週は始めます。

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