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2013年5月 6日 (月)

それだけの話。

前回のあらすじ:
 入院中のわたしは病院の中庭で
 煙草を吸っていたとあるおっさんにナンパされる。
 もう末期だから、おっさんの「生き方」の継承者になって欲しいとのこと。
 そんなん、無関係のオレに言われても困るよ。
 「わたしも(頭が)末期です」と返したけど、あきらめないおっさん。
 じゃあこっちも条件を出します。
 それは――って話。

「どんな条件なんだよ?」
おっさんが訊いてきたので、
わたしはさくっと、
「いまから十分以内に互いに騙しあいましょう。
わたしをだませたら、生き方でも美学でもなんでも、
引き継いであげます」
と答えました。
おっさんはすこしびっくりしたようで、
「だます? そんなことしていいのか?」
と聞きました。
「ゲームですから、ありでしょう」とわたし。
「そうか、ゲームか。ならいいのか」
納得したおっさんは、「実はな、オレは末期なんだけどよ」と語り始めました。

「オレは結婚詐欺師なんだ。
まあ、ろくでもない人生 生きてきたよ。
だけど詐欺師なんてのは、夢を売って暮らしてるんだ。
相手にバラ色の夢を見させてお金をいただく。
するってえと、別に悪いことじゃねえわな。
ろくでもないけどよ。
オレがあんたに引き継いでもらいたいのは、
結婚詐欺師のノウハウなんだよ」と言いました。
なんだこれ、すっげえわかりやすい嘘だな。

わたしは答えます。
「そうですか、玄人さんでしたか。
実はわたしも末期なので、もう余命いくばくもありませんが、
人々に夢を見せることを生業としているのです。
ホラ吹きですので」
「へえ、ちょっと詐欺師に似てるな」
「似てません。ホラは騙した後、笑わせます。
夢があります」
「夢で生きてけたら、いいよなあ」
おっさんは煙草をぷかーっとふかしてつぶやきました。

「十分経ちましたね。
残念ですけど、わたしをだませなかったので、
後継者にはなれません」
わたしが冷静に判定すると、おっさんはニヤリと笑いました。
「へえ、そうかね?
あんた、オレのついた嘘がわかったのかい」
「そんなの、わかりやすすぎますよ」
「ははあ、結婚詐欺師のところか? 違ぇよ」
おっさんの笑みが深くなります。
「オレは本当に結婚詐欺師さ。
この勝負、オレの勝ちだな。
残念だったな、オレのついた嘘は
末期だってところだ。
オレは末期じゃねえよ。明後日 退院予定なんだ」
「あー、それは十分前どころか、
話し始めたときから知ってました」
わたしはあっさりうなずきました。
「だって、末期の患者が中庭で
自由に煙草すってるわけないですからね。
看護士さんが許すわけないでしょ。
あなたが末期じゃないことは、初めっから知ってました」
だから、引き継いでいいって言ったんだよ。
死にゃしないだろうから、引き継ぐって話もナシだろうからね。

「なんだって、じゃああんた、オレに騙されなかったのか」
おっさんは仰天しますが、わたしは平静です。
「そりゃそうですよ、わたしもホラ吹きですから。
フィクションには敏感に反応しますよ」
「え、あんたのホラ吹きってのが嘘じゃねえのか」
「違いますよ、ホラ吹きってのは真実です」
「そんなら、あんたは嘘ついていなかったのか」
「つきましたよ」
わたしもさきほどのおっさんのようにニヤリと笑います。
「わたしも、末期患者じゃありません。慢性患者ですけどね。
来週にも退院予定です」
「てことは、お互いに最初っから騙そうとしてたってことかよ」
「そうなりますね、そもそもゲームとして成立しませんでした」
「ありえねえな」
おっさんはゲラゲラ笑い始めました。

「あんた、タダモンじゃねえな。
普通 初対面の人間にいきなり嘘はつかねえだろ」
「最初に嘘をついたのはそっちですよ。
わたしは合わせただけです。
それからわたしのは嘘じゃなくてホラです」
コーヒー牛乳を飲みながら、わたしは指摘しました。
「あんたみてえな人がいるんなら、
もうちょっと入院しててもよかったかもなあ」
おっさんが涙を拭きながら言うので、
わたしは丁寧に一礼しました。
「あなたも、そこそこおもしろかったですよ。
ですが、女性を食い物にするのはやめてください。
犯罪ですし、誰かを騙して悲しませるのはダメです。
最後は笑わせてください」
「今のオレみたいにか?」
「はい。それがわたしの流儀、生き方です」
ホラ吹きは胸を張って断言し、
「じゃあまた、いつか」
とおっさんに別れを告げました。
飲み終わったコーヒー牛乳はちゃんとゴミ箱に捨てました。
ゴミはきちんと分別しましょう。
使えるものはリサイクル。
これがわたしの流儀です。それだけの話。




以上、ホラ九割程度で。
まあ、困ったおっさんだよね。
でも女性がおっさんに魅力を感じちゃうのはわかる気がした。
ガキ大将みたいな憎めない感じの人だった。
でもフィクションを犯罪に使うのはダメだよ!
女性が泣くのもダメだよ!
最後は笑って終わらないとね。
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