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2012年11月

2012年11月25日 (日)

プロジェクト・プロポーズ。その4。志願兵

前回までのあらすじ:
 知り合いの知り合いという名の他人の
 プロポーズをなぜかプロデュースすることになった
 わたし。
 しかし現れた渡辺さん(仮)は好青年だったが、
 ファッションセンスが壊滅状態の
 ファッション・テロリストだった!
 わたしは彼のファッションを下着から
 改革、そして、プロジェクト・プロポーズが始まる。

だいぶマシになりました(率直な感想)。
はじめて会ってから三日後、
再度 待ち合わせた渡辺さん(仮)は
黒のチノパンにグレーのジャケットを合わせ、
白いシャツを着ていました。
マトモに見えます。
「いいですね、その調子です」
「でも、ぼく、男爵さんに言われたとおりの
組み合わせしか着てませんけど」
「今はそれでいいんです。
いずれ応用できるようになります。
で、彼女さんの反応はどうですか」
渡辺さん(仮)はにっこり笑いました。
「劇的に変わりました。
一緒に外出してランチを食べてます」
「では、そろそろ本題に入りましょう」

そうです、そもそもわたしが知り合いから受けた依頼は
「プロポーズをプロデュースすること」であって、
「おしゃれを改善」することではありませんでした。
現れた渡辺さん(仮)が重度のファッション・テロリストだったため、
遠回りになりましたが、
とにかくプロポーズをしないことには話が進みません。

渡辺さんは言います。
「ぼく、考えたんですけど、給料の三か月分の指輪を買って」
「うんうん」
「ランチの後に、君に特別なデザートだよって言って渡すというのは」
「アホですか、ダメに決まってるでしょーがぁ!」
わたしは吠えました。
「え、なんでですか、だって最近、ランチのときは機嫌もよくて」
「プロポーズの成否を握っているのは、非日常性です!
そんなデザートのよーなオマケのよーな感覚で
指輪を出したら、軽く断られるに決まってるでしょーが。
いいですか、断らせたらダメなんです。
断りにくいような状況でこそ、プロポーズすべきなんです」
といっても、わたしは独身主義なので、
一生 プロポーズとは縁がありませんが、
本や映画で見るかぎり、プロポーズって断られちゃダメだよね。
だったら、絶対断れない状況を作るべきだよね。
「そのためには演出が必要だし、
必要とあれば、通行人まで巻き込むようなプランが必要なんです。
いいですか、あなたにはセンスがありません。
それを自覚してください」
「センスって洋服以外も……?」
「ないです」
わたしは断言して、
「センスを見る、簡単なテストをしてみましょう」と言いました。

あなたはいま、三百円しか持っていません。
そのお金で今日が誕生日の彼女のために
花を買わねばなりません。
花屋へ行くと、カスミソウが一本二百円、
ポピーが一本五十円、
バラが一本三百円でした。
あなたはどの花を買いますか。

「えっと、それはカスミソウ一本と
ポピーを二本じゃ」
「失格です!」
わたしは切り捨てました。
「いいですか、彼女の誕生日なんですよ。
ポピーはたしかにかわいい花ですが、
特別な日、非日常が必要な日には難しい花なんです。
ポピーのよさをたった二本で表現するのは無理です。
ここはあえて! 真紅の薔薇一輪にリボンをかけてもらう、
これが正解です。
わかりましたか、花も指輪も買えばいいって問題じゃないんです」
「わかりませんけど、わかりました」
「とにかく、特別な日には特別な演出が必要なのです。
断られたくないでしょ」
「ないです」
「じゃあ、ちょっと考えましょう。
わたしが思うに、いつもは行かないような場所、
いつもは行かないタイミングがいいでしょうね」
「どんな場所ですか」
「ベタなところでは、彼女の誕生日でも、
付き合い始めた記念日でも、
ホテルの最上階のスイートをとって、
そこでプロポーズとか」
渡辺さん(仮)は純朴そうな表情で尋ねてきました。
「スイートってなんですか。お菓子ですか」
「そのスイーツではありません!」
ヤバイ、研究一筋だった渡辺さん(仮)はかなり
センスがないようだ。

「じゃ、じゃあ、彼女の憬れのレストランで
ディナーをセッティングし、
乾杯のシャンパングラスにエンゲージリングを入れておくとか」
わたしは必死に渡辺さん(仮)にも理解できそうな
シュチュエーションを考えますが、
渡辺さん(仮)は
「どうやってグラスにリングを入れるんですか?
手品ですか?」
ぜんぜんダメです。
「違います、お店の人に事前に頼んでおくんですよ……。
渡辺さん(仮)、あなたもしかして、
彼女が好きなものとか、彼女の趣味とか
あまり知らないんじゃ」
「よくわかりません」
「あーもうっ」

いったいどうしたらいいんでしょうか。
渡辺さん(仮)から彼女についての情報を得ることは
難しそうです。
でも彼女さんが断らないプロポーズを考えないと。
純朴なプロポーズ志願兵とともに、
わたしは悩みました。

あと一回だけ続く。




以上、ホラ七割程度で。
たぶんもうすぐ終わります。
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2012年11月18日 (日)

プロジェクト・プロポーズ。その3。屯田兵

前回までのあらすじ:
 ファッションセンスが壊滅状態の青年、
 ファッション・テロリストの渡辺さん(仮)。
 なりゆきで、彼のプロポーズを
 プロデュースすることになったわたし。
 しかし、問題はプロポーズだけではない。
 その日一日だけセンスアップしても、
 次の日にファッションが崩壊していたら、
 婚約は破棄されるだろう。
 そこでわたしが彼に言ったのは。

「根本的にあなたのファッションを変える必要があります」
わたしは言いました。
「テロリストが陥りやすい罠に『センス』というものがあります。
これがあるとオシャレッティな感じがして、
ついつい追い求めてしますのですが、
ファッション・テロリストにそんなものは無理です。
これからわたしが教える法則に乗っ取り、
論理的にファッションを構築してください」
「わかりました」
渡辺さん(仮)は肩掛けバッグからメモ帳を取り出しました。
ファッションはアレですが、
根が真面目な青年なんですね。
「いいですか、まず第一に。
トータルコーディネートを考えるときは、
基本はモノトーンにしてください。
それ以外の色はまだレベルが高すぎます」
「モノトーンって黒と白ですか」
「そうです。でも忠実にそれだけだと
お葬式になりますので、
アクセントカラーを入れて調整します。
明日から、いや、今日からあなたは、
黒+白+灰色、もしくは
黒+灰色+青、もしくは
黒+灰色+赤 の色の洋服を着てください」
「そんな色の洋服、あったかな……」
渡辺さん(仮)が不安そうな顔をします。
ちょっと待て、わたしが言った色は基本中の基本だぞ?
白いシャツと黒いズボンくらい
誰だって、持ってるでしょ。
ないかもってどういうこと?

「現状把握のために、
あなたのクローゼットの写真を見せてください。
写メしてきましたか」
わたしは宿題を確認します。
渡辺さん(仮)は素直に携帯を取り出して
わたしに渡しました。
わたしは画面を操作し、
「こ、これは……!」
髪の毛が逆立つような戦慄に襲われました。

青地に金色のペイズリー柄のタートルネックシャツ。
紫の虎柄のズボン。
ピンクのポロシャツに、緑に黄色の水玉のセーター。
タヌキのファー(?)の襟巻き。
縦ジマのズボンに横ジマのシャツ。
レ、レベルが高すぎる。
テロリストとしてのレベルが、高すぎる。

「あ、あなたは、普通のジーパンひとつ持ってないんですか!」
「ジーパン? ぼくはチノパン派でして。
ジーパンはサイズ展開がよくわからないと母が」
「ちょっと待て!」
わたしは再度、恐怖におののきました。
「もしかして、渡辺さん(仮)、
あなたは自分の洋服を自分で買ったことがないのでは」
「はい、母が全部みつくろってくれてますけど」
「……こ、これは、洋品店センス……ッツッ」
わたしはついに背筋が崩壊して、
マ●クのテーブルに突っ伏しました。
恐るべし、母親のマジック。
ということは、まさか、まさか、
「渡辺さん(仮)、あなた、グンパンじゃないですよね?」
「グンパンてなんですか」
「母親が買ってくるグ●ゼの白ブリーフのことです。
だいたい男子は中学生になればグンパンを卒業して、
トランクスかボクサーショーツに」
「普通に、ぼくはブリーフ派ですけど」
「おおおおおおお、下着から、テロリスト……っ」
いけません、これはいけません、
はたして彼が結婚していいのかどうか、
そもそも女性に彼を勧めていいのかどうか、
根本的な問題になってきました。

「あなたは予想以上に高レベルのテロリストです」
わたしは宣言しました。
「あなたが常駐している環境、
兵士として屯田している状況がもう、致命的です。
彼女と結婚したかったら、根本的な治療が必要です」
「――結婚、したいです」
「だったら、まず、お母さんファッションから
脱却する必要があります。
自分の服は自分で買いましょう。
軍資金は用意してきましたか」
「い、一応、五万円くらいは持ってきましたが」
「十分です。
いいですか、いまはセンスがいい人間になろうとか
褒められようとか、そういう邪念は捨ててください。
まずはあなたが駐留している泥沼の屯田から
抜け出すことを考えてください。
じゃあ、行きましょう」
「どこへ行くんですか」
「ここは渋谷です。洋服屋さんならたくさんあります。
さきほどわたしが言った法則を守るために、
『無地の』洋服を買いに行きましょう。
それから帰宅したら、
今クローゼットに入っている洋服はすべて、
「サイズが合わなくなったみたいだから」と言って、
フリーマーケットに出してください。
もう二度と着てはいけません」
「えっ、全部ですか。二度とですか」
「全部、二度とです」
わたしは断言し、体勢を立て直しました。
これは物凄い屯田兵の改革をすることになった。
一日で変えるのは無理だ。
戦いは続く。




以上、ホラ七割くらいで。
ヤバイ、真実の三割の部分がつらくなってきた。
全国の男性諸君、「あれ、オレもそうかも」と思ったら、
危険信号です。
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2012年11月11日 (日)

プロジェクト・プロポーズ。その2。脱走兵

前回までのあらすじ。
 知り合いの知り合いのプロポーズを
 プロデュースすることになったわたし。
 だが、待ち合わせに現れた求婚者・渡辺さん(仮)は
 出現と同時に渋谷のエクセルシ●ールを
 恐怖と失笑の渦に叩き込んだ、
 恐るべきファッション・テロリストだった……!
 全身をカーキ色一色でトータルコーディート(?)した
 渡辺さん(仮)に、わたしがまずアドバイスしたことは。

「とりあえずですね、自覚を持ってください」
写メまで撮られてエクセルシオー●を逃げ出した
わたしは、渡辺さん(仮)と109に近いマ●クに入りました。
平日の地下一階だから、幸い、そんなに客は入っていませんでした。
「自覚ってなんですか」
渡辺さん(仮)は首を傾げます。
惜しい! 首から上は本当にハンサムなのに。
イケメンなのに。
首から下のカーキ色でもう台無しです。
「あなたはファッション・テロリスト、
常人のセンスを崩壊させる力を持った
精神的なテロリストです。
つまり、あなたのファッションセンスは、
一言で言えば、ヒドイです」
「えっ、そうなんですか。
たしかにおしゃれには疎いですけど、
ぼくは普通だと思ってました」
渡辺さん(仮)は愕然とします。
いいや、シャツもズボンも靴もバッグも
カーキ色一色で渋谷に現れるセンスはもう、
テロです。同席しているのが、本当につらい。

「普通じゃないんです。
疎いとかそういうレベルじゃないんです。
あなたはマリオ●ートで言えば、
完璧にコースアウトしているんです。
ボーリングで言えば、ガーターの帝王です。
あなたが着たいと思ったもの、
それは間違いです」
「……そうなんですか」
「そうなんです。
だから、恋人さんも機嫌が悪くなるんです。
一緒に外出してくれなくなったでしょ」
「はい。研究室では普通に話してくれますけど、
白衣を脱いだらもう、他人みたいな顔をします」
渡辺さん(仮)の目に涙が盛り上がりました。
「ぼく、もうどうしようもないんですか?
一生 このままで、彼女と結婚できないんですか?」
「だいじょうぶです」
わたしは力強く断言しました。
「ファッション・テロリストは治ります。
完治には時間がかかりますが、
とりあえず適当に普通レベルになるのは
簡単です」
「男爵さんみたいにおしゃれなひとには
簡単かもしれませんけど、
ぼくは本当におしゃれなんて考えたことが」
自嘲する青年に、わたしは切り札の爆弾発言を投げました。
「実はわたしも、ファッション・テロリストだったのです」

そうなのだ。
わたし自身がかつては重度のファッション・テロリストだった。
どのくらい深刻な病状だったかと言うと、
「当時のわたしには、服は
洗濯してあるものと、
してないものという区別しかありませんでした。
色あわせなんて考えたことないし、
TPOなんてまったく考慮してませんでした」
「信じられません。
だって男爵さんは画家さんに
あんなにセンスのいい衣装を作ってあげて」
「あなたに、わたしの大冒険の二位を話してあげます。
わたしは高校卒業後、紺色の学校ジャージ姿で
109の中をうろついたことがあります。
ちなみに靴は学校指定の革靴でした」
「えっ?! 109ってマルキューって言われてるところですか」
「そうです。若い女性のファッション発信地です」
わたしは重々しくうなずきました。
「おしゃれこそが正しい、おしゃれを追求する、
そんな女性たちが集うビルの中を、
わたしは「たまたま洗濯してあったから」という理由で
膝が破れたジャージ姿でエスカレーターに乗ったのです。
当時、109の中に大きな本屋があったので」
「周囲はどんな目で男爵さんを見たんですか」
「わかりません」
わたしは首を振りました。
「ファッション・テロリストの痛いところは、
自覚がないことです。
今から考えれば、きっと都市伝説になるくらいの衝撃が
109の中を走ったと思いますが、
当時はまったく気にしませんでした。
とにかく本を買わねばならなかったので」
「そんな過去があったんですか」
「そうです、全身カーキ色の今日のあなたが逃亡兵なら、
あのときのわたしは脱走兵とでも言いましょうか。
間違いなく、周囲にダメージを与えていました。
でも、治りました。ていうか、治しました」
「ど、どうやってですか。センスをどうやって磨いたんですか」
渡辺さん(仮)は身を乗り出します。 

「それは、センスを磨くことではありません」
わたしは断言しました。
「え」
渡辺さん(仮)は口をあけます。
わたしは説明しました。
「なぜなら、センスは
個人個人で定義が異なっているし、
説明も難しくて、一朝一夕で身につくものではありません。
あなたがある日ふりかえると、後ろについている。
それがセンスです。
重要なのは」
わたしは力強く、
「洋服の組み合わせに法則性を見出すことです」
と言い切りました。

「ほ、法則なんてあるんですか」
「あります。
この世にはセンスアップのための本がたくさんありますが、
そもそもファッション・テロリストは
そういう本に載ってるような服を持ってません。
だから最初は感性のセンスではなく、
頭で理論立てできる法則にしたがって服を選べばいいのです」
「どんな法則なんですか」
「それはですね……」
わたしは目を伏せてしばし考えました。
どれから伝えたら、一番わかりやすいかな?
まず、とりあえずアレか?

果たして、ファッション・テロリスト渡辺さん(仮)は
真人間になってプロポーズできるんでしょうか。
続く。




以上、ホラ七割くらいで。
109に学ジャーの幽霊が出るっていう
都市伝説があったら、
それはわたしです。
今回は身体張ってウケを取りに行ってます。
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2012年11月 3日 (土)

プロジェクト・プロポーズ。その1

こんばんは。
独身主義者なのに、他人のプロポーズを
プロデュースすることになった黒羊男爵です。
(なんでそんな羽目になったのかは、
下記をご参照ください。)
http://blacksheep.txt-nifty.com/blog/2012/10/post-5ebd.html

とりあえずですね、先週、
その「わたしのセンスが欲しい」と言う人と
待ち合わせをしました。
面識がないんですから、
いきなり自宅に招いたりしませんよ。
渋谷駅に近いエクセル●オールで
待ち合わせました。

そして。
「……まさか、ね」
カフェラテをすすりながら、わたしはつぶやきました。
いま入店してきた人物。
事前にメールしていたのですが、それにしたって、
「まさかね」
わたしはもう一度 自分に言い聞かせました。
このひとじゃないと思いたい。
じゃないと、これからの未来に絶望しそうです。
しかし、くだんの人物はズンズンわたしに近づいてきて、
「黒羊男爵さんですか?」
と訊いてきやがりました。
わたしは頭痛をこらえきれず、あきらかにしかめ面で
「あなたが渡辺さん(仮名)ですか」と確認しました。
渡辺さん(仮名)は元気よくうなずきました。
「はい、今日はどうぞよろしくお願いします!」
わたしは答えました。
「すみません、もう帰っていいですか?」

なぜ、初対面にもかかわらず、
わたしがこんなつっけんどんな対応をしたかと言いますと。
「……あなた、ファッション・テロリストですね」
そうです、入店してきてやってきた人物は
けっこう端正な顔立ちでハンサムで、高身長なんですが、
ですが。
カーキ色のチノパンにカーキ色のシャツを着て、
カーキ色の肩掛けバッグを斜めがけして、
カーキ色のバッシュをはいていました。
「ファッション・テロリストってなんですか」
エクセルシオー●で抹茶を頼んで、
渡辺さん(仮名)は首をかしげました。
わたしはこんなひとと同席する状況を呪いながら、逆に
「今日はなんで全身カーキ色なんですか?」
と尋ねました。
渡辺さん(仮名)は破顔して、
「もちろん、トータルコーディネートです。どうでしょうか」
と自信満々に言いました。
わたしは「落ち着け、落ち着け、こいつは天然物の
ファッション・テロリストなんだ、悪気はないんだ」と
自分に言い聞かせ、渡辺さん(仮名)を
「トータルコーディネートとは、
全身を一色に染めることではありません。
あなたはファッション・テロリスト、
ファッションを通じて、精神的なテロを行う痛いひとです」
と一刀両断しました。

渡辺さんは笑顔から一転して泣きそうな表情になりました。
「これ、ダメですか」
「ダメです」
「けっこう自信があったんですが。
今日は男爵さんに会うので、
いつも以上のぼくを見てもらおうと思って
頑張っておしゃれしたんですが」
「あなたが行っている行為はおしゃれではありません、
テロです。
その証拠に、わたしはさっきから周囲の視線が痛いです」
みんな、そんな目で俺を見るな。
ひそひそささやくな。
あと、こっそり指さすんじゃない。
「なにがダメなんですか。同じ色でバランスがいいと思うんですけど。
ぼくにはどこがいけないのか、ぜんぜんわからないんです」
渡辺さん(仮名)が言ったので、
わたしは説明しました。
「コーディネートというのは調和させるということです。
つまり複数の要素を、バランスよくとりいれるということです。
全身を一色で染めることではありません。
あなたにとって、おしゃれとはなんなんですか」
「わからないんです」
渡辺さん(仮名)は途方に暮れたようすで言いました。
「ぼくは大学で研究者をやってまして、
今までおしゃれとは縁のない生活をしてました。
白衣の下はチノパンとポロシャツだったのです。
この春に生まれてはじめて恋人ができて、
一緒に学校外を出歩くようになったんですが、
そしたら、恋人がぼくが一緒にいるのを嫌がるんです。
デートを断るようになりました。
プロポーズしたいと考えてるんですけど……
恋人はいつも機嫌が悪くてとても言い出せる雰囲気では」
「そりゃそうでしょうね」
わたしは深くうなずきました。
初対面のわたしですらこの場から逃げ出したいのに、
彼氏がいつもこうだったら、そりゃイヤだろ。

「そんなときに友達の結婚式があって、
男爵さんのご友人の画家さんに会ったんです。
同じテーブルの人たちがみんな
画家さんはさすがに色のセンスがいい、
きれいなドレスアップだ、って褒めてて
そうか、これがセンスっていうものなのかと思いました。
で、画家さんの衣装を作ったのは
男爵さんだと聞いて、
ぜひアドバイスをもらいたいなと思って」
「アドバイスをしてもいいですけど、
賭けてもいいですけど、
その日かぎりのセンスアップで終わりますよ。
仮にプロポーズの日だけうまくいっても、
次の日にいつもどおりのカーキ色のポロシャツチノパンだったら、
改めて断られると思いますね」
「カーキ色ってセンスが悪いんですか」
わたしはカフェラテを一気飲みしてから答えました。
「色の問題ではありません。
全身カーキ色だったら、普通、
どこの戦場から逃亡してきた兵士だ? と思いますよ」
「ぼくにはカーキ色は無理なんですか」
「いまは無理と言うより無謀です。
最初はまず」
わたしは言いかけて、席を立ちました。
ダメだ、もうこのエク●ルシオールにいられない。
写メ撮ってるひとまでいる。
頼むから、顔にはモザイクを入れておいてくれ。
「とりあえず移動しましょう」
店内中の視線を独占しながら、
わたしは渡辺さん(仮名)と店を出ました。
まだまだ、続きます。




以上、ホラ七割程度で。
センスって説明するのは難しいよね。
でもファッション・テロリストは実在します。
意外と自分自身がそうだったりするよ。
女子高生に写メ撮られていたら要注意です。
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