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2012年3月25日 (日)

世界に広がる病人の輪。

「病人」ってさ、
たまたまインフルエンザにかかった子どもから、
もう末期の重病患者まで、
幅広く受け入れている単語ですよね。
懐が広いよ。
もちろん、わたしもそのひとりですが、
当然 世界には病人は他にもいます。
わたしにも、実は、病人仲間がいます。
以前、とある病院に入院したときに同室だった人で、
いまだに退院できていないので、
ステータスは常に「病人」です。
まあ、わたしが「後衛・自宅警備型病人」なら、
彼は「前衛・戦地常駐型病人」ってことです。
仮に彼の名を「斉藤君」としましょう。

斉藤君とわたしは入院したときから、
異常なほど気が合いました。
それは、同室になったときに挨拶で、
(W:わたし S:斉藤君)
W:「今日から同室になりました黒羊男爵です。
  特技はホラを吹くこと、職業は病人です。
  わたしの言うことは絶対に信じないでください」
と言ったら、
彼は真面目な顔で細い片手を差し出しながら、
S:「どうも、はじめまして、
  子供のころからここに入院している斉藤です。
  特技は点滴棒をガラガラ持ちながら走ること、職業は病人です。
  明日には病室からいなくなってるかもしれませんが、
  どこへ行ったのかは追求しないでください」
と返しました。
素晴らしい。素晴らしい返しでした。
わたしたちは強く握手し、親友になりました。

わたしはその後、一年ほどで退院し、
斉藤君は病室に残りました。
初対面のときに、
「明日にはいなくなってるかも(霊安室に行ってるかも)」
とか言っておいて、
斉藤君はしぶとく、粘り強く生き残りました。
というか、彼の戦いは現在進行形です。
やっぱり病院から出ることはできませんが、
捨て身のユーモアを失わず、お見舞いに行くと、
顔に四角い白い布をかけて息を殺して横たわっていたりします。
おいおい、そのシャレはいろんなものの境界線上だから。
わたし以外の人間だったら、笑えねーだろうが。
でも、わたしは笑いをこらえて涙を流しながら、
「斉藤君、斉藤君! あああああっ、いいやつだったのに、
最期に会うこともできなかった!!」といってベッドに取りすがります。
すると彼は、
「会えたよーん。久しぶりー」と言いながら、顔の布を外し、
ふたりで笑います。
そんな二人組です、わたしたちは。

昨日も、斉藤君のお見舞いに行ってきました。
するとやつは、白髪のカツラをかぶって、
目を閉じてじっと寝ていました。
わたしが「来たよー」と言いながら近づくと、
斉藤君は薄目を開けて、
「おやおや、赤頭巾、来てくれたのかい」と言いました。
わたしはすかさず、
「うん、おばあちゃんが元気になるように、
手作りのジャムを持ってきたよ」と返して、
斉藤君ご所望の特製ジャムのビンを見せます。

120324_1602001

斉藤君は軽くうなずいて「ありがとう」と答えたので、
わたしは続けます。
「おばあちゃん、おばあちゃんの耳はどうしてそんなに大きいの?」
「それはね、おまえの声をよく聞くためだよ」
「おばあちゃんの目はどうしてそんなに大きいの?」
「おまえをよく見るためだよ」
「おばあちゃんの手はどうしてそんなに大きいの?」
「おまえをしっかり抱きしめるためだよ」
「おばあちゃん……おばあちゃんのお口はどうしてそんなに大きいの?」
「おまえを、まるッと食べるためさあ!!」
ここでカツラをかなぐり捨てて
ベッドからわたしに襲い掛かる斉藤君。
わたしは「キャー」と叫びながら逃げ、
二人でベッドの周りを回ります。
「なにしてるんですか、斉藤さん!」
騒ぎを聞きつけた看護士がやってきました。
「あ、狼さん、猟師さんよ」「ギャーッ、やられたー」
ばたんと倒れる斉藤君。揺れる点滴棒。
怒鳴る看護士。
笑いをこらえて涙目になっている同室の患者たち。

その後、わたしたちは、
病室のリノリウムの床で正座させられ、説教されました。
「あんたたちは、元気なんだか病気なんだか、
はっきりしなさい!
ていうか、病人は病人らしく、寝ていなさい!」
婦長じきじきのお叱りをちょうだいしましたが、
わたしも斉藤君も懲りません。
たぶん斉藤君は、次にわたしがお見舞いに行ったときは、
また違うネタを用意していると思います。 
わたしもまた悪ノリするでしょう。

だって、笑わないとやってられないじゃないですか。
笑いたいじゃないですか。
病気なんて、ネガティブでマイナスなもん、背負って、
眉間にしわ寄せていたら、
やってられない。生きるのが難しくなっちゃう。
笑わないと。生き残るために、笑いが必要です。
――なーんて、ことは考えてません。
わたしは、ただ、おもしろいから、やってます。
たぶん、斉藤君も同じです。
以前、斉藤君に訊いたことがあります。
W:「あのさ、将来の夢はって質問、されたことないよね」
S:「ないねー。将来がないかもしれないから、
  怖くてできないんだろうねー」
W:「訊いてくれていいのにな。
  わたしはばら色の夢を語るのに。
  白いおうちに美人の奥さんとでっかい犬と子どもがいてさ」
S:「そうそう。で、駅至近の広い家の花壇にはパンジーが咲いてて。
  子どもが寝る前に絵本を読んだりする。
  病人でも、そんなごく普通の夢くらい、語ることはできるのにね」
W:「住宅ローンや学資ローンを度外視した堅実な夢ねWWW」
S:「庭の手入れとか、ペットの面倒とかをガン無視した夢だよWWW」
つまりは、現実を見ていない夢です。
まあ、上記は冗談ですが、でも、斉藤君もわたしも、
病気に負ける気はありませんでした。
身体が負けないんじゃありません。
「心が」負けるつもりはない、ということです。

職業・病人の斉藤君は厳しい食事制限があるので、
わたしがいくら手作りのジャムを持っていっても、
食べることはできません。
でも、彼は持っていくと心から喜んで、
「ありがとう」「必ず食べるよ」と言います。
わたしは斉藤君の言葉が事実ではないことを知っています。
斉藤君も知っています。
でも、斉藤君の言葉は真実です。
彼はきっとわたしのジャムを食べてくれます。
すべてをゴミ箱へ破棄しなくてはならなくても、
「この前のはおいしかったよ」と言います。
わたしは、彼が大好きです。
彼が、知り合ったころのまま、
変わらず彼自身でいてくれて、本当によかったと思います。
斉藤君はわたしの自慢の、病人仲間です。




以上、ホラ八割くらいで。
病人ってのは、本人の性格によって、
ネガティブにもポジティブにもなります。
辛いこともあるから、八つ当たりしても仕方ないかもしれない。
でも、斉藤君のように、周囲を明るくしようとする人もいる。
別に、病人全員が斉藤君のようになる必要はありません。
ただ、あなたはあなた自身で、それでいいんだと思います。
あなた自身に、価値を見出して、一緒にいてくれる友達が
きっとできると思います。
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