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2012年1月17日 (火)

男爵、レベル3のフード・アサシンの相談を受ける。

彼女は、見た目はかわいい女の子でした。
仮にA子ちゃんとしましょう、
A子ちゃんはわたしの友人の娘で、
クリスマスや誕生日に顔をあわせる仲でした。
本が好きな十三歳の女の子で、会うと児童文学の話などをしました。
それが、
「どうしたの、突然。相談ってなにかな?」
先週末の日曜日、A子ちゃんが初めて我が家にやって来ました。
わたしはA子ちゃんの父親の友人なので、
彼女から見たら「顔見知りの大人」レベルの知己だと思いますが、
それがどうやって父親から聞き出したのか、
我が家に突然、やって来たのです。
相談がある、と言って。

「あの、あのう、男爵さんは、
中学三年で自立したって本当ですが」
A子ちゃんは問いかけてきます。
(※「おじさん」「おばさん」という忌まわしい呼称を避けるために、
わたしは知人の子どもには苗字を呼ばせてます)
「うん、そうだけど。父親と喧嘩してね、それで」
わたしはA子ちゃんに親切に答えます。
なんといっても、仲良しの友人の娘さんですから、
わたしにとっても、大切な子どもです。
「自立ってことは、掃除とか洗濯とか、料理とかも自分で?」
「したよ。最初のころは悲惨だったけどね~、ははは。
ん? それがなにか?」
「今日、今日は相談があって来ました」
「うん。なにかな?」
「前にお父さんにケーキの写真を見せてもらったんですけど、
男爵さんはお菓子作りが得意ですよね?」
「まあ、たしなむ程度には。一通り、何でも作るけど」
「チョコレート、とか、作れますか?」
「? 作ろうと思えば作れるよ。
あれはテンパリングするときの温度管理が大切だよね」
「……」
彼女はもじもじと沈黙します。
「?」
「……」
「?」
チョコレートと、女の子?
チョコレート?
チョコ……チョコ……ああああああ! わかった!
「そっか、バレンタインだ!」
「っ、……そ、そうなんです……」
「いいねえ、いいじゃない、手作りチョコレート!
既製品でもいいと思うけど、
手作りしようっていう気持ちがかわいいと思うよ」
「そうですか、そしたら、そしたら……」
彼女は視線をあげてわたしを見つめて、
「作り方を、教えて欲しいんです」
と言いました。

ひょえ?
「なんで? わたしよりもお母さんとか、友達とかと
作ったほうがよくない?」
普通、そうだよね? お父さんの友達のところには来ないよね。
有名なパティシェってわけじゃないんだから。
わたしがそう言うと、彼女は目を潤ませました。
「断られました」
「なんで?」
「……わたしが、そのう、……あまりにも……下手、だから」
「下手? 最初は誰でもそうだよ、そんなの気にすることないよ」
「男爵さん」
A子ちゃんは、手提げ袋から四角い白い小箱を出して、
中身を取り出しました。
なんだろう、見た目はトリュフみたいだけど。
「それ、A子ちゃんが作ったの? よくできてると思うけど」
「食べてみてください」
「? じゃあ、まあ、いただきます」
わたしはトリュフ的な物体を受け取って、思い切りかじりました。
「い、痛い!」
硬い。なんだこの硬度は。食品の硬度じゃない。岩石?
あと、
「辛い、辛いよ、これ!」
チョコレートの匂いはしますが、味はナマの唐辛子です。
A子ちゃんはもう泣き出す寸前でした。
「誰と作っても、どう作っても、こういう風になっちゃうんです……」
なるほど、これでは周囲はお手上げでしょう。
お母さんや友達にどうこうできるレベルじゃない。
「これは……これはすごいよ、ある意味、兵器だよ。
カカオからどうやって練成したのか、むしろ知りたい。
君は間違いなく天性の、フード・アサシンだ」
「フード・アサシンってなんですか」
「食糧を兵器に変える人のことだよ。
誰でも料理を作り始めのころは、その素質があるんだけどね、
うん、君はレベル3ってところかな。
レベル9までいくと、上級職のフード・ジェノサイダーになれる」
「あの、わたし、チョコレート、作れるようになりますか。
教えてもらえますか」
「えっ?! わたしが?」
「だってもう、他に聞けるひとがいないんです……」
A子ちゃんはついに しくしくと泣き始めました。
お母さんにも手伝ってもらった。
友達とも作ってみた。
でも、どうしてもうまくできない。
来るべきバレンタインには、チョコを渡したい相手がいるのに。

「思い切って、既製品をあげるというのは?
おしゃれなチョコを選べば、センスをアピールできるよ」
わたしはさきほどの発言内容を180度転換しました。
だって、これ兵器だもの。食用じゃないもの。
かわいいとかいう次元じゃないよ。
「他の女の子は、みんな手作りなんです。
わたしだけ買ってきたのはイヤなんです」
あああ、乙女心。
「まあ、ねえ……」
わたしはぽりぽりと頬をかきました。
繰り返しますが、彼女はわたしにとっても大切な子どもです。
ぜひ幸せになって欲しい。
「時間はさいわい、あと一ヶ月くらいあるから……、
なんとかなるかなあ……。
うまくいくと断言はできないけど、
じゃあ、一緒に頑張ってみる?」
「はい!!」
A子ちゃんはパッと顔を輝かせました。

こうして、わたしとA子ちゃんのバレンタイン大作戦が
始まりました。
毎週末にわたしの家で、特訓することになりました。

しかし、わたしはまだ知らなかったのです。
彼女のフード・アサシンとしての才能がどれほどのものか、
どれほど暗殺の可能性を秘めているのか、を。
……続きます。



以上、ホラ九割くらいで。
ちなみにフード・アサシンは実在します。
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コメント

続編楽しみにしています。
もし、うまくいかなかったときは、
彼女をスカウトしますね

junさん、こんにちは!
ある程度のレベルのフード・アサシンであれば、
訓練次第で真人間になりますが、
A子ちゃんの場合はどうだろう……。
かなりの潜在能力を感じます。
これからが勝負です。
もし失敗したら、プロのアサシンとして
スカウトしてあげてください。
コメント、ありがとうございました!

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