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2010年11月30日 (火)

悪だくみ進行中。VS結婚詐欺・その三。(最終回)

これまでのあらすじ:
我が黒羊男爵家の執事を騙した結婚詐欺師の美知子さん。
美知子さんは人類とは思えぬダルマ型の身体を持った生物だったが、
わたしは復讐のため、執事の名を借りて美知子さんに接近、
うまく会うことができた。その席上でわたしは話し始める――。

「なんでも言ってください。
きっとお役に立ちます」
わたしは、はにかむように笑ってみせた。
「ひっしーさん……」
美知子さんは視線(らしきもの)をテーブルの上に落とし、
ふるふると震え始めた。
なんだ、故障したのか?
「うう、うわぁああぁん」
ダルマは両目らしき裂け目からからなにか液体をこぼす。
なんだろう、これ。
予想ができないので、触れないように注意しよう。
「あたしぃ、あたしぃ、そんな親切なこと言われたことなくてぇ」
美知子さんは言った。
「もう本当につらくてぇ、誰かにすがりたかったのぉ」
よし! 流れがこっちにきているぞ。
「実は、実はぁ、すごい困ってて、もうパパもママも限界でぇ」
「どうしたんですか」
「弟の、弟の渡米費用なんだけどぉ、足りなくてぇ。
あと三百万、どうしても必要なのぉ。
もう、どうしたらいいのか……わかんなくてぇ」
ひっしーさん、わかってくれるぅ? とダルマが言った。
うん、よくわかるとも。
これが結婚詐欺というものなんだね。絵に描いたような詐欺だ。
おそらく、わたしが自主的に協力を言い出したから、
二軒目でやるはずだった演技を早めて、
ここで始めたのだろう。
ここからが正念場だ。
「……苦労したんでしょう、美知子さん。
わかります、わかりますよ」
「ひっしーさん」
「でも、もう心配しないで。わたしがついています。
何も心配せずに、任せてくれればいいんです」
「本当にぃ……?」
「ええ、すべてお任せください。
誠意の証拠をお見せしますから」
わたしは微笑み、ふところへ手をやった。
財布を出す。分厚くカードと札束で膨れたサイフだ。
札束は子供銀行券だが、この際、厚さが出ればいい。
美知子さんの視線(?)が釘付けのサイフをテーブルに置き、
もう一度、内ポケットから違うものを取り出す。
細長い封筒だ。昨日、カラープリンターで作った小道具だ。
封筒を半分開き、中のチケットがのぞくようにする。
「明後日ですけど、これでいいですよね。
安心してください」
「明後日ぇ?」
「はい」
脳裏で場の伏せカードを開く。
わたしはサイフをしまった。封筒を指先で示す。
「明後日、朝十時のニューヨーク行きの便のチケットが
四枚あります。ご両親と美知子さんと弟さん。
これで渡米できますよ」
「――……」
ダルマの口らしき器官が開いた。
わたしは語り続ける。
「パスポートはもうあるし、渡米する体力も
問題ないようですから、この便で行っちゃって下さい。
ホテルと国内線も手配済みです。
手術にはわたしの父の友人で、
世界的な心臓外科の権威である
カリフォルニア大学の
アーノルド・ワイズ教授のスケジュールを空けていただきました。
手術成功率八十七%です。
大船に乗ったつもりで、ご遠慮せずにどうぞ」
牛革の手帳を開き、日付を確認するふりをした。
ダルマは固まっている。
「……ぇ……」
「飛行機はもちろんファーストをご用意しています。
付き添いの医療チームも手配済み。
明後日の四時にはリムジンでお迎えにあがります。
三百万円なんて水臭いじゃないですか。
あとは美知子さんたちが荷造りするだけですよ」
よかったですね、と言って、わたしはシャンパンを飲んだ。
お酒がおいしい。さっきとは別の飲み物のようだ。
「もっとも、荷造りも看病しながらでは
たいへんだと思ったので、
引越しセンターの荷造りサービスを手配してあります。
正確には荷造りの指示だけ、出していただければけっこうです。
おたくはどちらですか。
電話番号と住所を教えてください」
「え……」
「やだなあ、美知子さん、そんなに気を使わないでください。
大変だったんでしょう? もう全部一気に解決ですよ。
遠慮なく、ご自宅の電話番号と住所をどうぞ。
引越しサービスとリムジンがうかがいます」
「えぇぇとぉ……」
ダルマは左を見て、右を見た。なにかを探しているようだ。
「さあ、電話番号と住所を。話が進まないじゃないですか」
わたしは笑顔で迫った。
「ちょっとぉ、いますぐってのはぁ、都合がぁ……」
「あ、そうですか。いつならいいですか。
スケジュールを変更します。そういうことはお任せください。
で、電話番号と住所を教えてください」
「電話番号と住所……」
ダルマはあわあわと頭部を回転させ、
「ご、ごめんなさいぃ、ひっしーさん、わたしのことは忘れてぇ!」
赤いバッグを抱えて飛び出そうとした。
はしっとその手(らしきもの)を、わたしはつかんだ。
「どうしたんですか、美知子さん。
さっきまであんなに楽しそうだったのに。
今日は遅くなりそうだって言ってたじゃないですか。
さあさ、座って、電話番号と住所をどうぞ」
「……くぅぅ……」
ダルマが震えながら座る。わたしはにこやかに言った。
「もし電話番号と住所が無理でしたら、
すべての計画をキャンセルしなければなりません」
「あ、はいっ、キャンセルでぇ!」
「アメリカは訴訟国家ですから、
きちんとキャンセルしないと訴えられるかも。
日本の警察に介入されるのもイヤでしょう?
キャンセル料金が発生します。
飛行機そのほかもろもろ込みで、
ちょうど三百万円。
電話番号と住所が無理なら、
払っていただけますね?」
「じゃ、じゃあこれから電話番号を言いますぅ」
「おっと」
わたしは携帯電話を取り出した。
「電話番号をうかがったら、すぐにかけてみます。
ご連絡は早いほうがいいですから。
じゃあ、どうぞ」
これでもうデタラメな番号を言うことはできない。
「……ぅぅぅ、三百万か、電話番号ぅ……」
チェックメイト。
ホラ吹きにかかれば、
ウソつきなんて、この程度だ。

わたしは燃え尽きて灰になったダルマを置いて、
レストランを出て、夜空へ向けて伸びをした。
手にはダルマ・美知子さんが書いた
三百万円の借金の念書を持っていた。
請求する気なんか初めからないが、
美知子さんはこれから借金の督促に怯えながら
生活するのだろう。
とうぶんはこれに懲りて、結婚詐欺はしないと思うぞ。

あーあ、よくよく考えたら、
くだらないことでホラを使っちゃったな。
ちょっとブルーになりながら、
わたしは念書を細かくちぎり始めた。
この程度のことにホラを使っていたら、
ご先祖様に叱られてしまうというもの。
執事が騙されて頭にキてしまったからの
行動だったのだが、
まだまだ修行が足りないぜ。
やるんなら、もっとスマートな方法があったかもしれないしな。
わたしはしょんぼりしながら、目に付いたゴミ箱へ
念書を捨てた。
未確認生物に接触してしまったし、
刺激的な夜だったが、やっぱり鬱屈しちゃうなあ。
執事、殴っとこうかなあ。

おじいさま、わたしはまだまだ、未熟者でございます。
今日は、帰ったら早く寝よう……。
いや、マンガ読もう……。



以上、そんな感じで、しょんぼりしながら成功したホラでした。
すべては純粋なホラで。ありえない出来事で!

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