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2010年11月26日 (金)

執事と、執事の執事の羊のひいちゃん。短かった蜜月。

さきほどの対面から二時間後、
「仲良くなっているかなあ」
わたしは「お昼だということを知らせる」ということにかこつけて、
執事の部屋へむかっていた。
もちろん、主人が召使を呼びにいくなんて、
本末転倒なのだ。
だが転倒がどうした。転倒だろうと転勤だろうと、
ひいちゃんがめんこいのなら、わたしはどこへでも行くぞ。
元気いっぱいのひいちゃん。
さっきも走り回っていたなあ。
お耳と尻尾がぴるぴる動いて、かわいかったなあ。
執事の居室は新館の一階にある。
「おい、執事」
自動ドアは閉じられていた。
どうやらひいちゃんが逃げないようにロックしているみたいだ。
わたしは軽くノックした。親しき仲にも礼儀あり。
「おい」
ノックが聞こえていないのか。庭にでも出てるのかな?
部屋にいるんだよな?
わたしはなにか聞こえないかと、扉に耳をつけた。
「……うなりごえ?」
執事がうなってる。なにやらごにょごにょ言ってる。
ひいちゃんに話しかけているのか?
その割にはなんだか、居丈高で脅すような……。
ひいちゃんがおびえたら、かわいそうじゃないか!
「おい、こら、執事!」
扉の開閉を手動に切り替え、
無理やり扉を開けたわたしの眼に飛び込んできたのは、
「おまっ、なにしてるんだ?!」
白く発光する床の魔法陣とがくがく震えてるひいちゃん。
執事はなにかを詠唱しながら、ひいちゃんを指さす。
霧のようなものがひいちゃんを包み始めた。
「やめろ、なにすんだ、おまえ」
わたしは部屋へ踏み込み、ひいちゃんを円陣から連れ出した。
「あああっ」
無心に詠唱していた執事がよろめく。
「「あああ」じゃねえだろ、この馬鹿!」
わたしはすばやく魔法陣を確認する。
天使や悪魔を召喚する魔法陣じゃない。
ということは、
「おまえ、ひいちゃんを生贄に邪神を呼ぶつもりだったのか。
最初っからそのつもりで子羊って指定して――!」
黒ミサだ。
ひいちゃんを邪神の黒ミサの生贄にする気だったのだ。
だから、「子羊」って指定したのだ。
わたしは思い切り靴で床の線ををこすってやった。
魔法陣が消されて、急速に光と霧が消える。
がくっ、とトランス状態だった執事がへたり込んだ。
「……ご主人様……?」
「ご主人さまじゃねえええ!」
わたしの怒声が執事の鼓膜をつんざいた。
「おまえ、ひいちゃんをどうする気だったんだ。
こんなかわいい、めんこいひいちゃんを
生贄にするとはどういうことだ。
ひいちゃんと引き換えにするような、
そんな願い事捨てちまえ!
捨てろ、そんな願いは人生に必要ねえ!」
「わ、わたしの老後の安泰が……美知子さんとの結婚が」
「老後なら、わたしが面倒をみてやる。
フロリダでもニューカレドニアでも、
好きなところに連れて行ってやるよ。
邪神にすがる必要はない!
……ん? 美知子さん?」
ニューキャラの名前に、わたしは首をかしげた。
誰だ、それは。少なくとも屋敷内の人間ではない。
屋敷の人間はひとりをのぞき、
全員、顔と名前が一致しているが、
美知子なんて名前の人間は聞いたことがないぞ。
「美知子さんって誰だ」
「美知子さんは……」
執事はおろおろと視線をさまよわせ、
それから観念して肩を落とした。
「就職サイトを見ておりましたら、掲示板とやらがありまして。
そこに美知子さんという美しい方がいらっしゃいまして、
知り合いになったのですが、
わたくし、恋をしてしまったようで……」
「恋? 顔も知らねえんだろ」
「写真はこちらに」
執事が懐から一葉の写真を取り出した。
こちらを見つめて微笑んでいる少女。
これは、
「おまえ、これはA●B48の●●だ!
美知子さんじゃねえよっ」
普通のアイドルの写真だった。
こんなにわかりやすい釣りに
ひっかかるジジイも珍しい。
「美知子さんは若くて、わたしにはつりあいません。
普通の神様は若返りなど聞いてくれるわけもなく、
クトゥルフ様なら、生贄を捧げれば、
若返りさせてくださり、晴れて美知子さんと結婚を」
「だから、このひとは現役のアイドルだ。
おまえは騙されたんだよ。その美知子さんに。
美知子さんって名前もそもそも仮の名前だろうな。
おまえ、老後に向けて貯金してたよな。
貯金の話を美知子さんにしたことがあるだろ」
「はい、せめてお金はあると印象付けたかったので」
「それで結婚詐欺にはめられたんだよ。
まあ、むこうもまさかお金を引き出す前に
黒ミサやるとは思わなかっただろうけどな。
とにかく」
わたしは写真を取り上げ、執事にビシッと言った。
「この美知子さんは悪いやつで、
おまえを結婚話で騙して、貯金を盗み取ろうとしたんだよ。
黒羊家の執事が、ウソに騙されるなんて
家名に泥を塗られたぜ。
今後一切、美知子さんと接触するな。
忘れろ」
「無理でございます。彼女はわたしの、わたしの、婚約」
「だーかーらー、それがウソなんだよ。
眼を覚ませ」
ん? ちょっと待てよ、このまま泣き寝入りってのも
わたしのプライドにひっかかるな。
せめて、倍返しくらいはしないと。
「とにかくおまえは、美知子さんのことを忘れろ。
メアドは? それから携帯番号は?」
わたしは情報を執事から入手し、
執事の携帯から美知子さんの情報を削除した。
PCのほうはまだ使えそうなので、
あとでわたしの書斎へ運ぶことにした。
運ぶための召使を呼び、執事に念を押した。
「いいか、黒ミサはうちの家では禁止だ。
ていうか、もう二度とやるな。
さもないと、老後の面倒みないからな!」
これでこっちのほうはよし、と。
わたしはひいちゃんのたずなを取り、
執事の居室から連れ出した。
どうしようかなあ、まさか生贄にされるために
選ばれたなんて武田さんに言えない。
まあいい、執事とわたしの心の潤いのため、
これからも来てもらおう。
「なあ、ひいちゃん」
「メー」
「本当にかわいいなあ、ひいちゃんは」
思わずかがみこんでしまった瞬間、
「メー」
ガンッ!
再び星が散るのが見えた。
視界が血で赤くなる。
わたしは廊下で昏倒した。
今度は、ああ昏倒するなって、もうわかった。



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